食料危機、アフリカはなぜ深刻に 自立阻む「負の遺産」

食料危機、アフリカはなぜ深刻に 自立阻む「負の遺産」
編集委員 下田敏
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD247GJ0U2A620C2000000/

『ロシアによるウクライナ侵攻で両国産の安価な小麦の輸送が滞り、貧困層を多く抱えるアフリカが深刻な食料危機に直面している。半数近くの国が小麦の3分の1以上を輸入に頼るという自給体制の脆弱さがあらわになった形だが、農業従事者が多いアフリカでなぜ飢餓が起きるのだろうか。

食料不安の上位国、7割がアフリカ

「アフリカが事実上の人質になっている」。ウクライナのゼレンスキー大統領はアフリカ連合(AU)の演説でこう語り、黒海からの穀物輸送を遮断するロシアを非難した。ウクライナ産の小麦や大麦、トウモロコシは7月以降に順次収穫期を迎える。輸送再開のメドはいまだ立っていない。
ロシアによるウクライナ侵攻で小麦の輸出が滞っている(ウクライナの農家)=AP

国連のグテレス事務総長によると、深刻な食料不安に陥る人々の数は1億3500万人から2億7600万人へとわずか2年間で倍増した。世界食糧計画(WFP)と国連食糧農業機関(FAO)は「広範な食料危機が迫っており、飢餓が十数カ国の安定を脅かしている」と警告した。ウクライナ問題の余波に加え、地域紛争や気候変動によって食料価格が高騰し、とくに途上国を直撃する。急性の食料不安に見舞われる人々が多い20の「ホットスポット」のうち、実に13カ国・地域がアフリカとなる。

特定農産物に頼る経済構造

アフリカ開発銀行によると、アフリカでは農業従事者が人口の60%以上を占める。零細農家が多く、農業の生産性が低いのは確かだが、なぜこんなにも食料が不足するのか。気になるのは植民地時代からの、単一商品に頼ったモノカルチャーな経済構造だ。
アフリカでは人口の60%が農業に従事している(ナイジェリア・ナサラワ州)

東アフリカのケニアは知られざる紅茶の名産地だ。FAOによると、2020年のお茶の生産量は約57万トンで中国とインドに次いで世界3位。日本の緑茶の年間生産量が約7万トンなので、その規模の大きさがわかる。お茶の輸出量でみると、ケニアは中国やスリランカ、インドを上回って世界首位。インドや中国では生産量の多くが国内で消費されるが、ケニア国内での消費は生産量の7%以下だからだ。

アフリカの生産品、第三国が加工

ケニアが紅茶の産地としてほぼ無名なのは、異なる産地の茶葉と混ぜられてしまうことが多いため。ブレンドやパッケージなど付加価値の高い工程は輸出先で行われる。ケニアで紅茶の生産が始まったのは英国の保護領だった1900年代初め。インドやスリランカで茶葉生産に関わっていた英国人が栽培を始めたとされる。それから100年以上がたったが、海外にニーズがある特定農作物を生産して、原料のまま輸出する立場はあまり変わっていない。
カカオ豆はアフリカの主要輸出品の一つ(ナイジェリア・オンド州)

コートジボワールやガーナなどで生産されるカカオ豆も未加工のまま輸出されることが多い。付加価値が高い加工やチョコレートの製造は米欧企業が担う構図となっている。
モノカルチャー経済、穀物生産に影響

特定農作物への偏りは穀物生産の弱さに表れる。FAOによると、20年の穀物生産量はアジアの12億2900万トン、北米の4億9500万トンに対して、アフリカはわずか2億トン。これを人口1人当たりに換算すると、アフリカは年149キログラムとなり、北米の9分の1、アジアの半分しかない。イモ類や豆類で補うにしても、小麦などの穀物の多くは輸入に頼らざるを得ず、食料危機に陥りやすい。

原材料の供給基地・製品の販売先として先進国経済に組み込まれているのは農作物ばかりではない。

石油大国もガソリンを輸入

西アフリカのナイジェリアでは3月以降、ガソリンスタンド前に給油待ちの行列が絶えない。燃料価格が高騰するなか、政府による販売価格の統制の影響もあって、十分なガソリンが供給されていない。
産油国だがガソリン不足のナイジェリアでは給油待ちの行列ができている(首都アブジャ)

アフリカ最大の産油国であるナイジェリアでなぜガソリンが足りないのか。それは原油を輸出し、海外で精製しているために大半のガソリンを輸入せざるを得ないためだ。石油大国のナイジェリアには石油精製能力はほとんどなく、国内の製油所も老朽化などで操業を停止している。農業従事者が人口の過半を占めるのに穀物を自給できないのと同じ経済構造がここにもある。植民地時代からの負の遺産がアフリカの自立を阻んでいるかのようにみえる。

先端技術の導入、日本に期待

世界の未開発の耕作適地の約60%はアフリカにあるといわれる。穀物生産のための農業開発を進め、先端技術の導入で生産性を高め、農作物の廃棄を減らすための効率的な物流や保管体制を整えれば、アフリカが頻繁に食料危機にさらされることは減るように思える。
日本ならではの支援が求められている(干ばつが続くソマリア)=ロイター

アフリカでは、インフラ開発と引き換えに多額の資金を貸し付け、政府が返済に行き詰まると鉱物資源の開発権などを取得する中国の「債務のワナ」が問題化している。原材料や資源の供給基地として利用するのではなく、アフリカの自立を促すような日本ならではの支援が求められている。

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