ロシア軍志願兵の戦死者、45歳以上が4割 多くは地方出身 最大の懸案は消息不明者

ロシア軍志願兵の戦死者、45歳以上が4割 多くは地方出身 最大の懸案は消息不明者 ~武隈喜一の深層ロシア・ウクライナ~
https://news.yahoo.co.jp/articles/ec20314d0cb04acdbe85b567418584725798596b?page=1

『ロシアのウクライナ侵攻から4カ月、戦闘は長期化し、ウクライナだけでなくロシア側の兵士にも多くの死者が出ている。
イギリスBBCのロシア版などが、この4カ月間に戦死したロシア軍将兵の中で氏名が判明した4010名分のデータを分析したところ、志願兵の戦死者の40%が45歳以上であることがわかった。また、戦死者全体の17%にあたる689人が将校だったという。
こうした調査から一体、何が読み取れるのか。
一方で、この戦死者数には、いわゆる「消息不明者」は含まれていない。消息不明者の情報公開についてロシア国防省は非協力的で、兵士の家族からは不満の声も上がっている。
果たしてロシア軍兵士の現状はどうなっているのか。
戦死者の多くはロシアの辺境地域出身

モスクワのような都市部出身の戦死者は少ない

今回の戦死者調査はBBCロシア版とロシアの独立メディア『メディアゾーン』(ロシア政府により「外国エージェント」に指定)が共同行ったもので、6月24日に公表された。
この調査でリスト化されたのは実際の戦死者の一部にすぎないが、ロシア政府が正式な犠牲者数を公表していない現状では、地道な作業による信頼すべき分析と言える。

テレビ朝日ではBBCロシア語版の許諾を得て、以下、この調査内容を紹介する。

死亡した将兵の出身地域を見てみると、もっとも多いのはコーカサス地方のダゲスタン出身者で、侵攻が始まってからの4カ月で218人の死者を出している。続いてシベリアのブリヤート出身が174人、ウクライナに近いクラスノダール134人、ボルゴグラード124人、中央アジアのバシコルトスタン119人、シベリアのザバイカル107人の順だ。

いずれも辺境の地で、現金収入が乏しい、アジア系少数民族の住む地域だ。人口の圧倒的に多いモスクワ州では46人、レニングラード州では33人の戦死者を数えるのみだ。
地図からも明らかなように、シベリア、中央アジア、コーカサスが、最前線へ投入する兵士の供給源になっていることがわかる。』

『志願兵はわずか3日~7日の訓練で前線へ

マリウポリのロシア兵

また、志願兵戦死者の実に4割が45歳以上で、さらにその半数は50歳を超えている。徴集兵や契約兵では18歳から26歳までの若い兵士が戦死者の47%であることと比べると、志願兵の平均年齢が高いことが推定される。

BBCによれば志願兵の場合、軍務経験者とはいえ、わずか3日から7日の訓練を経てすぐさま前線に投入されるケースが多いという。

チェチェン紛争を経験したウラル地方のある志願兵によれば、月給は13万ルーブル(約33万円)、食事、衣服は保証され、抱えている借金は軍が肩代わりして返済するという条件だった。徴兵司令部から3,4度電話がかかってきて、最初は聞き流していたが、借金肩代わりの話を聞き、志願を決めたのだという。

現在、志願兵が戦場へ行くには、1)国防省と短期契約を結ぶ、2)「カディロフ連隊」など、兵員訓練の最前線で、戦闘要員を積極的に募集しているロシア南部のチェチェンに行き、そこで国家親衛隊と3カ月の契約を結ぶ、3)ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国の軍事組織と契約を結ぶ、という三つの方法があるが、3)は給与も死傷した場合の補償も少額なため、ほとんどが1)か2)だ。

そしてもう一つの方法が民間軍事会社「ワグネル」との契約だ。しかしその場合は志願兵ではなく「プロの民間戦闘員」とされる。

BBCが取材した、このウラル出身の志願兵によれば、徴兵司令部に行くと、健康診断や書類のチェックもそこそこに、戦闘服とソ連時代の軍用リュック、タオル、石鹸、ソ連製の下着を渡された。ソ連製の軍用品には「1960年」と書かれていたという。
訓練では小銃を構えたことのない者も、戦車を生まれて初めて見た者もいたが、部隊は数日後にはイジューム(ウクライナ東部ハルキウ州の市)の戦場に投入されたという。

BBCによれば、6月に入ってからの志願兵戦死者は毎週30人から40人にのぼった。セベロドネツクでの攻防が激戦であったことを物語っている。』

『飛行兵の戦死者には63歳の退役将軍も

ウクライナ軍が撃墜したとするロシア軍機(ウクライナ非常事態省のフェイスブックから)

この4カ月でリスト化できた戦死者中、飛行士(操縦士、整備士を含む)は42人で、その8割が戦闘機乗員だ。英国の情報機関によると、飛行士の戦死者の割合は想定より低いという。
それは、本来ならリスクを冒してでも航空兵力を機能的に使ってウクライナの防空深部まで入り込み、制空の優位を取るのだが、それができていないため、戦死者が少なく済んでいるのではないか、と見ているようだ。

戦死した航空兵のうち、5人は45歳以上で、退役軍人だったが志願して前線に出た63歳のバタショフ少将も含まれている。しかし、これだけ高年齢者が多いのは、ロシア空軍では熟練飛行士が不足している証拠ではないか、と英国情報機関はコメントしている。

少ない犠牲で済んでいるとはいえ、エリート・スペシャリストである飛行士が40人以上も失われることは、どこの国の空軍であってもかなりの痛手なのは間違いなく、手練れのパイロットの養成には10年の年月が必要だと言われている。

BBCと『メディアゾーン』は、このほかロシアの地方都市の墓地を調べ、リストに掲載されていない戦死者をチェックしたところ、21の墓地で、公表されていない戦死者の墓が多数みつかり、ロシア国内だけでも、すでに8000人ほどの戦死者が葬られているのではないか、と推定している。
将校の戦死率が高い、ロシアならではの理由

ロシア軍空挺部隊(ロシア国防省提供)

さらに、調査によれば4010人の戦死者情報のうち、188人が上級将校(将官、佐官)で、リスト全体の17%に当たる689人が将校だという。

BBCでは、将校の高い戦死率はロシア軍の命令システムによるものだと見ている。
NATO軍では戦場での課題の解決はかなりの程度、軍曹や伍長などの裁量に委ねられているが、ロシア軍では軍曹や准尉は軍用品、兵器類の管理が主要な任務で、戦場の戦闘課題を任されることは稀だという。
つまり、ロシア軍では、上からの戦術命令を受けた中級以上の将校が最前線で部隊の戦闘を直接指揮することが多く、下士官にはほとんど裁量権がないという、第二次大戦型の旧態依然たる垂直型命令システムが続いているようだ。

そしてもう一つの理由は、戦死者のうちでも、まず将校の遺体を出身地へ搬送するためではないか、という。軍隊の階級が戦死者の扱いにもあらわれているわけだ。』

『“最強”精鋭部隊でも多くの戦死者が・・・

部隊別の戦死者数 青が「空挺部隊」 赤が「自動車化狙撃部隊」

BBCは戦死者の部隊ごとの分類もしている。空挺部隊の戦死者が全体の20%、自動車化狙撃部隊が19%と高い比率になっている。英国の専門家によると、これもロシア軍の戦闘行動の特徴によるもので、ドネツク州、ルハンシク州で長期にわたって一進一退の戦闘が続いた結果だろうという。

こうした接近戦では訓練された歩兵部隊が極めて重要だが、ロシアでは戦闘訓練が十分に行われる自動車化狙撃部隊は多くないため、空挺部隊が歩兵部隊の役割も担っているのではないか、と見ている。

また応急手当の医薬品不足や、前線から負傷兵を退避させるシステムが整っていない可能性も指摘されている。本来なら負傷した兵士は、応急手当を施したうえで、ただちに退避させることで、兵士の命を守る。接近戦での貴重な兵力を減耗させないという発想が、そもそもロシア軍の軍事コンセプトにはないのかもしれない。

今回調査した4010人の戦死者には、国家親衛隊の兵士が150人、参謀本部情報総局(GRU)の戦闘員が93人、連邦保安庁(FSB)の特殊部隊『アルファ』の将校2人が含まれていることもわかった。
いずれもロシアでは最強といわれる精鋭部隊だ。
消息不明兵士が最大の懸念

ロシア「兵士の母の会」メリニコワ会長(2004年)

けれども、こうして氏名、データが明らかになった戦死者の他に、ほとんど手つかずのまま放置されているのが、消息不明となっている兵士の扱いだ。

ウクライナのインターネットテレビ『続きはこれからだ』(6月22日)のインタビューに答えた、ロシアの「兵士の母の会」ワレンチナ・メリニコワ会長は、今回のウクライナとの戦争は規模も死傷者数も二度のチェチェン紛争とは桁違いに深刻なうえ、これまでと違ってロシア国防省からはほとんど協力も得られず、家族や「兵士の母の会」が戦闘地域に入ることもできないため、死傷者の実態がまったく把握できていないという。

そして消息不明となっている兵士の家族からの問い合わせに国防省が対応するケースも徐々に減少しているという。

メリニコワ会長は、ロシア政府が兵士の遺体回収に無関心なのは、ソ連時代の無神論教育によってロシア全体が人間の尊厳に無関心になってしまったからだ、と指摘し、「とても悲しいことだ」と付け加えた。

ロシア大統領府にも消息不明者や捕虜になった兵士の家族から多数の問い合わせが寄せられているはずなのにもかかわらず、何の反応を示さないロシア政府に対して、メリニコワ会長は「わたしは35年の活動で初めて、自分たちの活動に無力さを感じている」と語った。

元ANNモスクワ支局長 武隈喜一(テレビ朝日)』