砂上の一国二制度 習氏、香港繁栄と強弁

砂上の一国二制度 習氏、香港繁栄と強弁
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『【香港=木原雄士】中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は1日、香港返還25年の記念式典で高度の自治を保障する一国二制度を長期にわたって続けると表明した。中国の統制強化によって金融センターを支えてきた司法制度や自由な情報流通といった香港の特色は薄れ、一国二制度の基盤は崩れつつある。

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「香港の特別な地位と強みを維持しなければならない。国際的な金融や貿易センターの地位を堅持する」。習氏は式典の演説でこう強調した。

香港は2019年に民主化を求める学生らと警察が激しく衝突し「返還後最大の危機」と言われた。習指導部は香港国家安全維持法(国安法)制定や、選挙制度の見直しによって民主派を排除した。習氏は1日も「愛国者による香港統治」の重要性を繰り返した。

当局の締め付けで民主派団体は次々と解散に追い込まれ、1日は毎年恒例のデモもなかった。習氏は香港統治に自信を深めつつある。

経済面では香港の域内総生産(GDP)は返還後の25年間で2倍になり、株式市場の時価総額は8倍に膨らんだ。英シンクタンクのZ/Yenグループが算出する国際金融センター指数のランキングで香港はニューヨーク、ロンドンに次ぐ3位。アクサ・インベストメント・マネージャーズの姚遠氏は「香港の最悪期は終わった。中国政府は中国と世界を結ぶ機能を持つ香港への支援を続けるだろう」とみる。

もっとも、香港は厳しい現実に直面する。欧米諸国は返還記念日にあわせて一斉に中国の香港統治を批判した。足元で進むのは専門人材や企業の香港離れだ。

中国式の愛国教育を嫌って子育て世代が英国やカナダに移住。新型コロナウイルスを完全に抑え込む「ゼロコロナ」政策に反発を強める外資系企業は一部の従業員をシンガポールなどにシフトさせている。

経済よりも国家の安全を重視する風潮も強まっている。親中派の梁振英・元行政長官は香港紙のインタビューで「最大手銀行が外国法で監督されているような場所が世界のどこにあるだろうか」と述べた。名指しは避けたものの、香港で大きな存在感を持つ英金融HSBCを念頭に置いた発言だ。倉田徹・立教大教授は「国家安全の領域は金融など無限に広がる可能性がある」と警鐘を鳴らす。

香港は「自由都市」として経済や報道の自由度で高い評価を得てきたが、中国の締め付けで各種のランキングは軒並み低下した。香港終審法院(最高裁)の英国籍裁判官が辞任するなど、司法制度にも懸念が深まっている。中国本土と異なる透明で独立した司法制度はビジネス都市としての最大の強みだった。

みずほ銀行の細川美穂子氏は国際金融センターの条件として自由な資本移動、制限の少ない情報のやりとり、公平な裁判の3つを挙げる。「中国の金融センターとしての香港の地位や位置づけは強固だ」としつつ、情報流通や司法制度が弱まる懸念があると述べた。

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白井さゆり
慶應義塾大学総合政策学部 教授
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ひとこと解説

香港は以前のような自由で民主的な国際金融センターの地位は失いつつあるが、もともと中国への入り口としての地位として発展してきたので、その役割は維持されるのではないか。中国が経済大国および大きな金融市場を持つ国として台頭してきており、米中関係がぎくしゃくする今でも世界の企業や金融関係者の中国への関心は非常に高い。幾分デカップリングは進むとおもわれるが、完全なデカップリングが無理なことは欧米はよくわかっている。むしろ中国本土の金融センターも複数そだっているので、そことの競争で香港の存在感が薄れていく可能性があるとみている。

2022年7月2日 7:25 』