未知のウイルス、「種の壁」突破 温暖化で動物が密に

未知のウイルス、「種の壁」突破 温暖化で動物が密に
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC22CLN0S2A620C2000000/

 ※ 「温暖化」「気候変動」が、こういうものにまで「影響を与えている」とは…。

『極端な天候や海面上昇などを招く地球温暖化で、野生動物のウイルスが種を超えて広がるリスクが高まっている。気候変動や土地開発ですみかを追われた野生動物の生息域が重なり、未知のウイルスが人類まで到達しうるという。自然界は新たなウイルスの貯蔵庫だ。気温上昇が「パンドラの箱」を開けてしまうのか。
コウモリは新たな感染症の発生にたびたび関わってきた=国立感染症研究所提供

米ジョージタウン大学などのチームは、21世紀末時点の気温上昇が産業革命前に比べ約2度になる楽観的なシナリオでウイルスの動きを模擬計算した。すでに異なる種の間で広まっているウイルスの特徴をもとに、約3000種の哺乳類の間でウイルスが新たに種の壁を飛び越えるリスクを探ったところ、2070年までに最低でも4500回以上起こるという結果になった。研究成果は英科学誌ネイチャーに掲載された。

種が違っても、同じウイルスが感染する場合がある。模擬計算では、動物どうしの種が近いとウイルスが移動する可能性が高かった。温暖化によって生息地が重なり、近い種が頻繁に遭遇するようになれば、ウイルスの移動機会が増える。

哺乳類に感染するウイルスのうち、約1万種はヒトにも感染する恐れがある。かねて都市化による森林開発が野生動物とヒトとの距離を縮め、自然界のウイルスがヒトに感染しやすくなる危険が指摘されていた。

だが研究チームは、温暖化によってもリスクが高まると分析した。気温が上がれば、動物はより生息しやすい気候の地域へと移動していく。異なる種が初めて遭遇すれば、片方にのみ感染していたウイルスがもう片方にもうつりうる。今回は動物から人への感染の回数は分析していないが「最終的に人類の健康に脅威となる可能性がある」と研究チームは指摘する。

種を超える感染の約9割に関わるとみられるのがコウモリだ。哺乳類でありながら空を飛べ、長距離を移動できる。複数の研究で、世界中でコウモリの生息域が急速に広がっていると報告されている。

新たな種への感染は、低緯度地域のアフリカやアジアで特に多いと推定された。インドネシアやフィリピンなどの人口密度の高い地域も該当する。

野生動物にとっては害のないウイルスでも、ヒトに感染すると病気を引き起こす例は多い。新型コロナや、欧米を中心に広がるサル痘、エボラ出血熱といった感染症が度々姿を現している。未知のウイルスは免疫が効かず、深刻な症状に陥る場合がある。

ヒトに迫るウイルスをいかにとらえるか。1つのアイデアが身近な地域にすむ動物の血清を調べる方法だ。抗体の有無から、感染したウイルスがわかる。

国内の研究者が注目するのがサルだ。国立感染症研究所などは野生のサルやコウモリ、ネズミなどの血清の調査を強化し、病原体の監視に役立てようとしている。死体で見つかったり捕獲されたりしたサルを調べ、ウイルスへの感染が見つかれば対策につなげる。

サルに感染するウイルスはヒトにも感染しやすいという。しかもヒトが入りづらい森や山を動き回り、広範囲を移動する。感染研の前田健・獣医科学部長は「サルはいわばウイルスを監視する『見張り役』だ」と話す。ヒトの社会で流行していないウイルスの情報が得られると期待される。

ただ人類が対策を立てるための猶予はそう長くないかもしれない。米ジョージタウン大の研究チームはウイルスの新たな種への感染の大部分が既に起きている可能性があると指摘する。現状でも、世界の気温は産業革命前よりも約1度上がっているからだ。

「飛行機による移動が増え、人口密度が高まった。動物の生息する環境が都市開発などで侵されている」(前田部長)ことも新たなウイルスの出現に拍車をかける。以前なら移動中に発症して検疫で止められていた人が、潜伏期間中に空路で短時間のうちに国境を越える。感染症が一気に世界中で広まる下地になった。動物の生息域の開発が進めば、それだけ人間へのウイルスの移動を促す。グローバル化と経済発展に温暖化の影響――。高まった感染症のリスクをいかに制御できるか、人類の知恵が問われている。(尾崎達也)

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