インドと米国を分断させるヒンズー・ナショナリズム

インドと米国を分断させるヒンズー・ナショナリズム
岡崎研究所
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/27068

『モディ首相率いるBJP(インド人民党)によるヒンズー・ナショナリズムの政治は、インドの外交政策にも新たなダイナミズムをもたらし、米印関係を管理することが難しくなっている。
Racide / iStock / Getty Images Plus

 インドは、ウクライナの問題は世界に対する脅威ではない、それは欧州の問題であり、欧州の問題は世界の問題であることを意味しない、と言い切るが、インドがそのように言えるのはウクライナの問題がインドの利益に直接的に影響することはないと思っているからに違いない。

 ルールに基づく秩序の維持という観念(国境が武力で変更されることがあってはならないという原則)は地理的に分解可能ではない不可分の観念のはずであるが、インドとしては、そこまで突き詰めて考える必要もないということかも知れない。インドは「クアッド」には加わっているが、インドにとっての唯一の動機はインドに対する中国の脅威なのであろう。

 インドはそれで構わないのかも知れない。米バード大学のウォルター・ラッセル・ミード教授による6月6日付けウォール・ストリート・ジャーナル紙掲載の論説‘Handle the India-U.S. Relationship With Care’の観察に従えば、モディ首相率いるBJPのヒンズーのナショナリストは「西側が設計した国際的な制度にインドの主権を埋没させることを望んではいない」ということでもある。

 しかし、問題はそれだけではない。近年、インドではムスリムを敵視するヒンズーの優越主義・多数派主義が著しく、世俗の多元主義はどこにもない。BJPは圧倒的多数の政党であり議会は監視機能を果たせておらず、モディ政権は権威主義の傾向を強めている。過激なヒンズーの運動家の行動は往々にして暴力、略奪、放火に至るが、モディ首相をはじめ政権は見て見ぬ振りをして沈黙を決め込んでいる。
モディ首相率いるBJP(インド人民党)によるヒンズー・ナショナリズムの政治は、インドの外交政策にも新たなダイナミズムをもたらし、米印関係を管理することが難しくなっている。
Racide / iStock / Getty Images Plus

 インドは、ウクライナの問題は世界に対する脅威ではない、それは欧州の問題であり、欧州の問題は世界の問題であることを意味しない、と言い切るが、インドがそのように言えるのはウクライナの問題がインドの利益に直接的に影響することはないと思っているからに違いない。

 ルールに基づく秩序の維持という観念(国境が武力で変更されることがあってはならないという原則)は地理的に分解可能ではない不可分の観念のはずであるが、インドとしては、そこまで突き詰めて考える必要もないということかも知れない。インドは「クアッド」には加わっているが、インドにとっての唯一の動機はインドに対する中国の脅威なのであろう。

 インドはそれで構わないのかも知れない。米バード大学のウォルター・ラッセル・ミード教授による6月6日付けウォール・ストリート・ジャーナル紙掲載の論説‘Handle the India-U.S. Relationship With Care’の観察に従えば、モディ首相率いるBJPのヒンズーのナショナリストは「西側が設計した国際的な制度にインドの主権を埋没させることを望んではいない」ということでもある。

 しかし、問題はそれだけではない。近年、インドではムスリムを敵視するヒンズーの優越主義・多数派主義が著しく、世俗の多元主義はどこにもない。BJPは圧倒的多数の政党であり議会は監視機能を果たせておらず、モディ政権は権威主義の傾向を強めている。過激なヒンズーの運動家の行動は往々にして暴力、略奪、放火に至るが、モディ首相をはじめ政権は見て見ぬ振りをして沈黙を決め込んでいる。』

『各国からは批判の声

 5月末にTV番組でBJPの報道官がモハメッドを冒涜する言辞を吐いたことに(問題の発言はモハメッドが小児性愛者だと仄めかすものだったらしい)カタール、アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビアなど湾岸諸国やイラン、インドネシアなどイスラムの諸国が一斉に反発し、インドに抗議に及ぶ外交問題に発展した。国内のムスリムの抑圧には寛容な政権も、貿易、石油、出稼ぎ労働者の仕送りに関わるとあっては放置し得なかったらしく、6月5日にはこの報道官の党の身分を停止し、同時にイスラムを冒涜するツイートをしたデリーのBJPの報道官を党から追放した。もっとも、この一件でBJPのムスリムに対する態度が変化することが期待出来る訳ではない。

 このようなモディ政権の抑圧的な国内政治は、米国だけではなく、「クアッド」の諸国との関係を自ずと蝕むこととなろう。米国は抑制された態度を維持し我慢しているように見える。

 6月2日、米国のブリンケン国務長官は「2021年の宗教的自由に関する報告」の公表に際し、宗教的自由と宗教的少数派の権利が脅威に晒されている国の一つとしてインドを名指ししたが、これは穏やかな注意喚起に過ぎない。

 インドが孤高の大国を目指すのならいざ知らず、必要な時に友邦の助力を期待するのであれば、その友邦の選択を間違わないようにするとともに、行き過ぎたヒンズー・ナショナリズムの抑制にも配慮して友邦との円滑な関係の維持を心がけることが必要であろう。』