[FT]NATO、ロシア抑止で冷戦期のドクトリン復活

[FT]NATO、ロシア抑止で冷戦期のドクトリン復活
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『ロシアの本格的なウクライナ侵攻を受け、欧州の防衛を支える基盤は北大西洋条約機構(NATO)であることが再確認され、NATO首脳は冷戦期のドクトリンが復活する今、ロシアにいかに立ち向かうか再考を迫られた。
6月29日、マドリードのプラド美術館での夕食会に出席したNATO加盟国首脳ら=ロイター

NATO首脳会議で発表された宣言は4つのポイントからなる。①有事の際に即応できる部隊の7倍への増員を目指す②NATOの東方前線で初めて米軍の常設司令部を設ける③フィンランドとスウェーデンの加盟を認める④今後10年の指針となる新「戦略概念」ではロシアとの連携という幻想を捨てる。NATOで重視すべき点が本質的に絞り込まれた格好だ。

NATO首脳宣言は、「我々は共同軍事訓練を強化して高強度のマルチドメイン(多領域横断)作戦への準備を整えるとともに、短期間での加盟国への増援体制を強化する」と表明した。「これにより、敵の目的遂行を阻みNATOの領土への侵攻を食い止める」という。

一方、NATOは2014年のロシアによるクリミア半島併合後に「トリップワイヤ」(仕掛け線)と呼ばれる戦略を採用し、ロシアを刺激せずに小規模戦隊をNATOの東方前線に事前設置し、NATO軍の本格参戦の導火線とする方針を取っていたが、これは破棄された。

英国王立防衛安全保障研究所のマルコム・チャルマーズ副所長は、NATOが「冷戦時代の任務に戻り」、最大の目的として「ロシアの抑止力となること」を掲げていると語った。

エストニアのカラス首相は先週、NATOが東欧の新規加盟国の防衛を大幅に増強しない限り、エストニアはロシアの攻撃を受けて「地図から抹消される」と述べ、新たに浮上している防衛上の課題を生々しく訴えていた。

「すぐさま準備開始を」

同氏は6月29日、スペインのマドリードで開かれていたNATO首脳会議を受け、 防衛体制の「抜本的な変更」を称賛し、ツイッターに現地から「我々はNATOの新たな前線防衛体制について合意した。これにより、敵にいかなる侵攻の機会も与えなくする」と投稿した。「この政治的総意を現実のものにすべく、すぐさま準備を始めなければならない」

NATO元事務次長のローズ・ゴッテモラー 氏は、NATOが「有事の際の即応体制を大幅に刷新」することで合意したと語った。

「ロシアを抑止するために、より効率的で効果の高い方法が必要だ。それは領土を守る準備と戦力を初動から備えることに他ならない」

事前配置する戦闘部隊の増強も1つの手段だ。米国はルーマニアに5000人、英国はエストニアに1000人の兵士を追加派遣すると表明している。だが、ゴッテモラー氏によると、最大の変化はNATOが即応部隊の大幅増員を約束したことだという。各国部隊を適した地点、適した任務に配備するプランニングが進んでいることにもそれが表れている。

6月30日、円卓会議に出席したストルテンベルグNATO事務総長(前列左)=ロイター

有事の際に30日以内に出動できる即応部隊を30万人に増員する計画は冷戦時代のドクトリン復活を意味し、軍司令官は特定地域で敵から受けた攻撃を想定し、具体的にどの部隊や兵器を使って応戦していくか詳細な計画を用意する必要がある。そうした即応体制を支援するのは米国がポーランドに設置する常設司令部であり、NATOが加盟国から部隊派遣の約束を取りまとめたうえで23年に設置される予定だ。

歴代の米政権に対し部隊の国内常設を求め続けていたポーランド政府にとって、常設司令部の設置は見事な作戦だ。

ポーランドのドゥダ大統領は「このニュースを長年待ちわびていた。今日の厳しい状況にあって、わが国の安全保障が大幅に強化される」と歓迎した。

ポーランドやバルト諸国では長年、NATOは東欧の防衛強化でさらなる努力が必要との意見が根強く、今回の軍司令部新設はそうした声を強めると専門家はみる。

米シンクタンク大西洋評議会のシニアフェロー、レイチェル・リゾ氏は「米国は欧州の同盟国とともに、NATOの東欧加盟国の懸念を払拭する方策を懸命に探り当てようとしている。同時に、東欧における前線配備と抑止策を強固にしてプーチン(ロシア大統領)を十分かつ確実に思いとどまらせようともしている」と話す。

30万人の即応部隊を実現させるうえで、大規模な戦闘部隊を配備するよりも、永続的にプランニング、訓練、命令指揮機能を与える米国の常設司令部が重要になるとゴッテモラー氏は言う。

米高官はこうした理由から、NATOとロシアが1997年に旧共産圏の国々に常設部隊を設置しないとした合意の違反にはならないと述べた。同様に、米国および同盟国がルーマニアやバルト諸国に設置する部隊は巡回式であり常設部隊ではないという。

米国はスペイン南部ロタの海軍基地に駆逐艦2隻を追加配備して地中海でのプレゼンスを強化するほか、戦闘機F35の飛行隊2部隊を英国に追加派遣して欧州北部の哨戒、防衛、抑止に当たらせる計画だ。

在欧米陸軍司令官だったベン・ホッジ氏はバイデン米大統領の6月29日の発表を受け、欧州の駐留米軍は10万~12万人規模になると述べた。

第2次世界大戦後、欧州の駐留米軍の規模が最大になったのは約30万人を記録した冷戦時代だ。

欧州駐留米軍、大幅増強に

ホッジ氏は「冷戦時代に必要だった規模は不要だが、コミットメントの姿勢を示すことと実際に能力を備えることが重要だ。特に防空・ミサイル防衛体制、軍司令部、兵たんといった能力は非常に重要になる」と言う。「これは大幅な兵力増強だ、しかも強力な武器になる」

ウォレス英国防相は米国の派兵は「トリップワイヤからもっと的を絞った防衛体制に移行しても、引き続き同盟国に安心してもらうために欧州駐留米軍を増強する」意志が米国にあることを示していると述べた。

しかしNATOが今週、首脳会議に合わせて即応部隊の30万人への増強を大々的に発表したとはいえ、NATO高官は増強計画がまだ概念的なものにすぎず、実際の構成や規模は加盟国が軍隊派遣を正式に約束するまで不透明なままだと認めた。

NATOの欧州連合軍最高司令官がロシア抑止やロシアの侵攻に対する応戦を念頭に計画を作成し、各国の軍事資産を配分するのは、加盟国が正式に合意してからのことになる。

英国王立防衛安全保障研究所のチャルマーズ氏は、各加盟国政府が部隊派遣と予算拠出を実行することが必要になると指摘し、「全面的に即応可能な部隊ができるまで数年かかるだろう」と述べた。

ゴッテモラー氏はロシアがクリミアに侵攻した14年にNATOが即応体制を確立し、東方前線に軍を早期配備できたことに言及し、NATOは必要に迫られれば迅速に動くと述べた。

「今やNATOは火をたきつけられている」

By Ben Hall, Henry Foy and Felicia Schwartz

(2022年6月30日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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