米政権「50年脱炭素」に打撃 発電所規制、司法が制限

米政権「50年脱炭素」に打撃 発電所規制、司法が制限
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN28E6U0Y2A620C2000000/

『【ワシントン=鳳山太成】発電所の温暖化ガス排出を巡り、米連邦最高裁が連邦政府の規制権限を抑制した判断は、脱炭素を国内外に公約したバイデン政権に打撃となる。2050年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする目標は、発電部門の排出削減が前提だからだ。与野党の対立が激しい議会で、規制強化の機運は乏しい。

最高裁では「大気浄化法」を使って、政府が発電所の排出規制を進められるかが争われた。同法が成立した1970年当時の焦点は大気汚染だ。最高裁の判断は地球温暖化が大きな問題になった現代にあわせて、新たな法律をつくるよう促す意味がある。

連邦政府の規制権限を巡っては長年、議論が続いてきた。民主党のオバマ政権は15年、大気浄化法のもと火力発電所の温暖化ガス排出を減らす「クリーンパワープラン」を策定し、各州に二酸化炭素(CO2)の排出計画を出すことなどを要請。最高裁は16年、一時差し止めの判断を示した。

今回、ロバーツ最高裁長官は意見書で、火力発電所の排出を減らす規制をかけるためには議会が法律をつくるか、政府に規制権限を明確に与える必要があると指摘した。

だが実現のハードルは極めて高い。共和党地盤の州は石炭など化石燃料の産業に依存しているところが多く、規制強化に否定的だからだ。

脱炭素に積極的な民主党ですら意見統一は難しい。政権は21年、脱炭素や子育て支援が柱の大型歳出法案で、石炭や天然ガスから再生可能エネルギーへの移行に取り組む電力会社を資金支援し、そうでない電力会社に罰金を科す「アメとムチ」の制度を検討した。

だが石炭産地の南部ウェストバージニア州出身のマンチン上院議員(民主)が反対し、政権の制度が法案から削られた。同州は今回の訴訟の原告でもある。法案には再生エネ投資への税額控除など他の脱炭素政策は残ったが、現在では宙に浮いたままだ。

バイデン政権は温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」に復帰し、50年までに温暖化ガス排出を実質ゼロにする目標を掲げた。35年までに発電部門の実質ゼロをめざすが、規制が進まなければ目標達成は一段と難しくなる。米国の指導力低下は避けられない。

米国では温暖化ガス排出量の25%を発電部門が占める。米エネルギー情報局(EIA)によると、21年の発電量のうち22%を石炭、38%を天然ガスに頼っている。気候変動対策を進めるには化石燃料を使う発電所の見直しが欠かせない。

ロシアのウクライナ侵攻でエネルギー価格が上昇するなか、米国も一時的に化石燃料の活用にカジを切っており、脱炭素政策を進めにくくなっている。最高裁の判断を受けて、米国の温暖化ガス排出削減への道のりはさらに険しくなる。

保守派の判事が多数派を占める現在の最高裁は、リベラル派が推す中絶権利の保護や、銃規制の強化などの政策に相次いで否定的な判断を示している。』