マルコス氏、対中融和を修正へ フィリピン大統領に就任

マルコス氏、対中融和を修正へ フィリピン大統領に就任
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『【マニラ=志賀優一】フィリピンのマルコス大統領が30日に就任し、6年間の政権運営が始まった。南シナ海の領有権を巡って争う中国に対抗する姿勢を打ち出しており、ドゥテルテ前政権が経済協力を優先して貫いた対中融和姿勢は修正される見通しだ。米国の同盟国で中国とも経済的なつながりが深いフィリピンの外交政策は、太平洋での米中の勢力争いにも影響を及ぼす。

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「ウクライナでの悲劇から大国が誤った教訓を得てしまえば、暗い紛争が世界へ広がってしまうことだろう」。マルコス氏は30日、首都マニラの国立博物館で開かれた宣誓式でこう語った。ロシアによるウクライナ侵攻が、中国の南シナ海などでの勢力拡大を助長する可能性に懸念を示したとみられる。式典には林芳正外相も出席した。

「西フィリピン海(南シナ海)で、我々の権利を1平方ミリメートルも踏みにじることを許さない」。マルコス氏は大統領選での当選が正式に決まった翌日の5月26日にこう発言した。2016年に国連海洋法条約に基づくオランダ・ハーグの仲裁裁判所が下した南シナ海での中国の領有権主張を否定する判決についても「我々の領有権を主張するため使用する」としている。

仲裁裁の判決が出た後、中国は南シナ海の軍事拠点化を加速させたが、ドゥテルテ前大統領は最大の輸出相手国である中国(香港含む)との経済関係を重視し、融和的な姿勢に終始していた。それだけにマルコス氏の発言は外交政策の修正を意図したものだと受け止められた。

伝統的な同盟国である米国との関係も改善される方向だ。マルコス氏は6月9日にシャーマン米国務副長官と会談し、両国の軍事同盟の重要性を確認した。ドゥテルテ前政権下では米比関係はぎくしゃくし、一時は米軍の活動を認める「訪問軍地位協定」(VFA)の存続が危ぶまれる事態になっていた。

デラサール大学のレナト・デカストロ教授は「マルコス氏は米国に対して不満を持っていない。米国側にも懸念はなく、ワシントンでも新政権と協調できるという認識が広まっていると考える」と語った。

ただ、中国も経済力をてこに南シナ海の実効支配を進める方針で、マルコス政権が対中強硬路線を続けられるかは不透明だ。東京外国語大の日下渉教授は「仲裁裁の判決という中国をけん制する外交カードを見せて、経済協力を引き出したい思惑がある」と分析する。実際にマルコス氏は「中国とは戦争できない」とも発言している。

マルコス氏が直面する当面の課題はインフレ対策となる。式典でも「食品はただの貿易商品ではない。食品がなければ人々は飢え社会は崩壊する」と強調した。フィリピンでも食品やエネルギー価格の高騰が進んでおり、中銀は23日に22年通年の予想インフレ率を5%と前回予想より0.4ポイント引き上げた。マルコス氏は自ら農相を兼務し、米をはじめとした食品の価格安定に取り組む姿勢をみせている。

エネルギー政策ではマルコス氏の父親が政権を握っていた時代に建設したバターン原子力発電所の稼働を視野に入れる。ただ、35年以上一度も稼働していない原発の安全性について懸念する声も聞かれる。

マルコス大統領とサラ・ドゥテルテ副大統領(左)

政権運営を巡っては波乱要因も少なくない。ドゥテルテ前大統領の長女で、南部で強固な支持基盤を持つサラ・ドゥテルテ副大統領の副大統領選での得票数は、マルコス氏の大統領選での得票数を上回った。サラ氏は政権運営に強い影響力を持つとみられ、マルコス氏との主導権争いが起きることを懸念する見方もある。マルコス家の相続税の未払い疑惑など政権を巡っては様々なスキャンダルが取り沙汰されており、市民の批判が強まる可能性もある。』