タイ企業がサウジに急接近 33年前の宝石盗難事件幕引き

タイ企業がサウジに急接近 33年前の宝石盗難事件幕引き
マイナーが最高級ホテル CPはハラル鶏肉輸出
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGS276LY0X20C22A6000000/

『タイ企業がサウジアラビアに急接近している。両国政府が33年前の宝石盗難事件で悪化した外交関係を修復したのを受け、ホテル大手マイナー・インターナショナルや食品大手チャロン・ポカパン(CP)フーズが相次いでサウジ事業に乗り出した。ロシアのウクライナ侵攻で商品市場が混乱するなか、両国関係の雪解けはタイにエネルギーの安定調達ももたらす見込みだ。

「世界に比類ない規模と豪華さを誇るプロジェクトに参画できる」。マイナーのウィリアム・ハイネキ会長は興奮する。同社は5月、サウジ首都リヤド郊外のディルイーヤに最高級ホテル「アナンタラ」を開業する意向を表明した。

サウジ政府は「王国発祥の地」とされるディルイーヤを世界的な観光地にすべく、500億ドル(約6兆8000億円)規模の再開発を計画している。11平方キロメートル以上の敷地に、約40軒のホテルや400店以上の高級小売店を設ける巨大プロジェクトだ。

マイナーは富裕層が多い中東を重点市場の一つに位置づける。アナンタラはアラブ首長国連邦(UAE)やカタールで10カ所を運営するが、サウジには未進出だった。サウジで知名度を高めれば、タイで展開するホテルにも集客を見込める。

同社のサウジ進出の背景にはタイとサウジの関係改善がある。両国は1月、1989年にタイ人労働者がサウジ王室から宝飾品を盗み出した「ブルーダイヤモンド事件」で悪化した関係の修復で合意し、ビジネス交流が活発化した。

▼ブルーダイヤモンド事件 1989年にサウジアラビア王室の宮殿で働いていたタイ人労働者が、50カラットのブルーダイヤモンドを含む2000万ドル(約27億円)相当とされる宝飾品を盗み出した。両国は事件後に外交関係を格下げし、経済交流も疎遠になった。2022年1月にタイのプラユット首相がサウジを訪れ、同国のムハンマド皇太子と関係修復で合意した。ブルーダイヤの行方はいまだに分かっていない。

タイ国際航空も8月にバンコクとサウジのジッダを結ぶ直行便を開設する。同社がサウジに定期便を就航するのは事件以来初だ。これに先立ち6月10日からはタイのイスラム教徒向けに聖地巡礼のための特別便も開始した。

サウジからタイへの入国者は新型コロナウイルスの感染拡大前の19年に約3万人だったが、22年は約20万人に増えると予想される。サウジ人は1人当たりの旅行消費額が多く、医療観光の需要も見込める。タイ政府は約200億バーツ(約760億円)の収入を生むと予測しており、中国人観光客が抜けた穴を埋めると期待する。

タイ企業はサウジを輸出先としても有望視している。タイ最大財閥系のCPフーズは3月、18年ぶりにサウジへの鶏肉製品の輸出を再開した。サウジ政府がタイからの禁輸を解除したのを受け、第1弾として同月に600トンを出荷した。

CPフーズは輸出再開に当たり、サウジ当局からイスラム教の戒律に沿ったことを示す「ハラル認証」を取得した。同社のプラシット最高経営責任者(CEO)は「5年間で6万トン、42億バーツ(約160億円)の輸出を目指す」と意気込む。

タイからは自動車やゴム製品など工業品の輸出も伸びている。1~5月の対サウジ輸出額は前年同期比23%増の約257億バーツとなった。5月単月では40%増えた。タイ商工会議所は輸出総額に占めるサウジ向けの比率が、21年の0.6%から今後は2.2%に上昇すると予想する。
エネルギーの分野でも協力が進む。国営のタイ石油公社(PTT)とサウジアラムコは5月に協力強化で合意した。原油や天然ガスの取引を拡大するほか、脱炭素に向けて水素利用や二酸化炭素(CO2)回収でも連携する方針だ。

アラムコは原油生産能力を現在の日量1200万バレルから27年に1300万バレルへ拡大させる計画で、天然ガスの生産能力も「30年までに今より5割以上増やす可能性がある」とする。

タイの21年の原油輸入の相手国別シェアはUAEが1位で27%、サウジは2位で18%だったが、今後はサウジからの輸入を上積みしやすくなる。石油天然ガス・金属鉱物資源機構の加藤望氏は「世界の市場が混乱するなか、タイのエネルギー安全保障の強化につながる」と指摘する。

また、タイは火力発電の主要エネルギー源である自国産の天然ガスが枯渇傾向にある。タイ政府によると18年に国内のガス需要の7割を自国産で賄っていたが、37年には7割を液化天然ガス(LNG)の輸入に頼ると予測する。サウジとの関係改善で、タイはアラムコを通じた輸入拡大など、LNGの調達先の多様化が可能になる。

(バンコク=村松洋兵、ドバイ=福冨隼太郎)』