NATOの防衛範囲拡大 米の対中シフトの重荷に

NATOの防衛範囲拡大 米の対中シフトの重荷に
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN2951I0Z20C22A6000000/

『【マドリード=坂口幸裕】北欧2カ国の北大西洋条約機構(NATO)への加盟が実現する見通しになり、NATOの防衛範囲が大幅に広がる。最大の兵力を拠出する米軍の「対中国シフト」にとって重荷になる可能性がある。

バイデン米大統領は28日の声明で、北欧のフィンランドとスウェーデンの加盟について「NATOの集団安全保障を強化し、同盟全体にも利益をもたらすだろう」と指摘。「我々の同盟はこれまで以上に強く団結している」と記した。

北大西洋条約の第5条はNATO加盟国が武力攻撃を受けた場合、全加盟国への攻撃とみなして反撃する集団安全保障の原則だ。加盟国への攻撃をためらわせる狙いがある。一方、北欧2カ国の加盟に伴うNATO拡大により防衛対象も広がり、各国の軍事負担は増す。

ロシアとの国境が約1300キロメートルに及ぶフィンランドの加盟で、NATOが接するロシアとの境界線は2倍に伸びる。NATOのストルテンベルグ事務総長は有事の際に派遣する多国籍の即応部隊を現在の4万人から30万人以上に増やす意向を示す。米軍の割り当てが増えるのは確実だ。

冷戦終結以降、欧州の米軍は減少傾向にあった。米国防総省によると、地域最大拠点のドイツの駐留米軍は2008年の3万9千人から21年9月には3万5千人に減らした。ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに欧州での米軍縮小は難しくなり、全体では侵攻前より2万人以上増やし、10万人規模にした。当面は欧州にとどまる公算が大きい。

ロシアの侵攻は米軍が21年8月にアフガニスタンから撤収し、テロとの戦いから中国との競争に重心を移すさなかに起きた。米国防総省はロシアによるウクライナ侵攻後の3月に発表した国家防衛戦略(NDS)の概要で、脅威が高まる中国への対処を最優先事項に位置づけた。

バイデン政権は中国を「最も重要な戦略的競争相手」と位置づけ、インド太平洋地域での抑止力の維持・強化を加速すると打ち出した。優先順位として中国の次にロシアへの対応をあげた。

現在の在日米軍は5万6千人ほどの規模だ。中国をにらんで08年から3割以上増えた。2023会計年度(22年10月~23年9月)の国防予算ではインド太平洋地域での米軍の能力向上に使う基金「太平洋抑止イニシアチブ」の要求額を22年度より2割ほど積み増した。

米軍のインド太平洋戦略に狂いが生じれば台湾海峡や東・南シナ海の安定のための抑止力が揺らぐ事態につながるリスクもある。それは日本の安全保障にも影を落としかねない。
米カーネギー国際平和財団のクリストファー・チビス上級研究員は「ただ単にロシアを罰するためにNATOを拡大するのは良い考えとは言えない」と話す。米軍の欧州防衛への関与が強まれば、中国対抗に向けたインド太平洋へのシフトが遅れたり、アジアに十分な戦力を割けなかったりすることを懸念する。』