対中国認識、NATOで温度差 「脅威」か「挑戦」か

対中国認識、NATOで温度差 「脅威」か「挑戦」か
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN29DTE0Z20C22A6000000/

『【マドリード=坂口幸裕、白石透冴】北大西洋条約機構(NATO)は29日に発表した今後10年の指針となる「戦略概念」で、初めて言及した中国について「体制上の挑戦」を突きつけていると警戒感をあらわにした。一方で「直接の脅威」と位置づけたロシアに比べ表現を抑え、インド太平洋地域での覇権主義的な行動に懸念を強める日米との温度差もにじんだ。

「脅威」か「挑戦」か――。米紙ニューヨーク・タイムズによると、NATO内では中国を「脅威」とみなすべきだとの声があった。しかし、フランスやドイツは慎重だった。地理的に欧州と近いロシアとは異なり、経済的なつながりもある中国とは決定的な対立を避けたいとの思いがあるとみられる。

NATO首脳会議に先立ち、フランス大統領府関係者は記者団に「NATOは欧州・大西洋の安全保障の問題に集中すべきだ」と予防線を張った。中国を「最も重大な競争相手」とみなす米国とは一線を画したい欧州内の空気を映す。

戦略概念では中国について「航行の自由を含むルールに基づく国際秩序を守るために立ち上がる」と記した。NATO軍としてインド太平洋地域に艦艇を派遣する計画はないとみられるが、英国やフランス、ドイツなど欧州の個別の国が同地域で日米との安保交流を深めている。

現時点では30カ国が加盟するNATOが一枚岩になるほど欧州で中国の脅威が高まっているとは言いがたい。戦略概念では「中国が欧州・大西洋の安全保障にもたらす課題に対処し、同盟国の防衛と安全を保証するため責任を持って一致協力していく」と明記するにとどめた。

民主主義国家を敵視する中国とロシアの共闘にも触れた。「ルールに基づく国際秩序を破壊する両国の試みは我々の価値と利益に逆行する」と断じた。

NATO首脳会議では29日、軍事力や経済力を通じて覇権主義的な行動をとる中国の行動に対処する能力構築を議論したもようだ。

米国のジュリアン・スミスNATO大使は中国が提唱する広域経済圏「一帯一路」やインフラ投資によって「同盟国の安全保障環境に変化をもたらしており、課題に対処したり強靱(きょうじん)さを構築したりする手段を考えなければならない」と話す。

地理的に遠い欧州は中国との経済関係を重視して対立を招く発言は控えがちだったが、最近は批判的な姿勢に転じつつある。2020年に香港で国家安全維持法が制定されたのを機に対中観は厳しくなり、新疆ウイグル自治区での人権侵害で不信感を強めた。

今回のNATO首脳会議は日本から見た中国の示威行動を直接、欧州首脳に伝える好機になった。中国に自制を促すためにも、会議に参加した岸田文雄首相らが欧州を含む国際社会に「中国の脅威」に共感を広げる努力は欠かせない。』