米景気後退、年内予測も 「バナナ」におびえるFRB議長

米景気後退、年内予測も 「バナナ」におびえるFRB議長
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN23F4G0T20C22A6000000/

『【ワシントン=高見浩輔】米経済の景気後退入りは、そう遠くない。こんな見方が急速に広がっている。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は急ピッチの利上げでも経済の軟着陸(ソフトランディング)は可能だと主張するが、市場では年内の景気後退入りを予測する声も出てきた。インフレが収まらないうちに景気後退に入る「スタグフレーション」が現実味を帯びる。

FRBのシニアエコノミスト、マイケル・カイリー氏は21日、景気後退期の特徴である失業率の大幅な上昇が50%以上の確率で1年以内に起きると分析するリポートを公表した。高いインフレと低い失業率、金融環境などを勘案すると、足元で起きている需要超過は景気の減速によって解消されるという。

カイリー氏は「何事も自分の頭で考える熱心な研究姿勢と鋭い分析によってFRB内部で高い信頼を得ている」(OB職員)。リポートは今後の政策決定にも影響を及ぼす可能性がある。

「数カ月前には一般的ではなかった見解が、統計分析によってコンセンサスになっていく」。2023年の景気後退入りを予想している元財務長官のサマーズ氏は19日、米NBCでこう自信を示した。

米国野村証券は22年内の景気後退入りをメインシナリオとしている。英フィナンシャル・タイムズとシカゴ大が世界の経済学者50人弱に実施した6月調査では4割が23年前半までの景気後退を予測した。米調査会社カンファレンス・ボードの景気先行指数もすでに下を向いている。

足元の経済は国内総生産(GDP)の7割を占める個人消費を中心に堅調だ。小売大手ウォルマートなどの在庫増が懸念されているが、経済全体でみれば小売在庫の売上高比率は4月もなお1.1%台と低い。1.3~1.6%で推移していたコロナ禍前の20年間を大幅に下回る。現金給付などで約3兆ドルに膨らんだ過剰貯蓄が強い消費の背景にある。

アトランタ連銀が経済統計から自動的に逐次改定する「GDPナウ」は27日時点で4~6月期の実質経済成長率を0.3%と低く見積もる。1~3月期に続く2四半期連続のマイナスになるのではと話題になったが「自動車の生産計画などを反映しておらず、純輸出などを低く見積もり過ぎた異常値」(アマースト・ピアポント証券)との指摘がある。

「ハリケーンが来る」(JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者=CEO)のは、早くても夏場以降との見方が一般的だ。インフレで落ち込む消費者心理や、利上げによる金利上昇で打撃を受ける住宅投資など不安の芽は確実に増えている。

「バナナはそんなに遠くない」。5月のダボス会議で米カーライル・グループ創業者のルーベンシュタイン氏が使った隠語が、パウエル氏の心境をもっともうまく表しているかもしれない。「バナナ」は1970年代にカーター大統領から景気後退(recession)という単語を口にしないよう叱責された経済顧問が使い始めたとされる。

景気は気から。FRB議長が下り坂だと認めたら企業や消費者の心理は余計に落ち込み「言霊」が自己実現的に景気後退を呼んでしまう。22日の議会証言でパウエル氏は「景気後退の可能性が特に高まっているとは思えない」と否定した後、こう付け加えた。「景気後退の予測というのは、誰もが得意ではない」

最悪のシナリオはインフレが収まらない間に景気後退が始まる「スタグフレーション」だ。景気を支えるための金融緩和もできない手詰まりに陥り、景気後退の長期化につながる。嵐が来る天気予報でも、頭上に晴天が広がっているうちはインフレの沈静化を優先したい。パウエル氏の言葉にはそんな心理が見え隠れする。

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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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経済学のフィリップス曲線は、物価と失業率は同時に上昇しないと仮定されている。しかし、今の世界経済はまさにインフレ再燃と失業率の上昇に直面している。FRBはインフレ抑制を急ぐあまり、景気を押し下げ、失業率が高騰するリスクが上昇している。FRBはインフレ過敏症にかかっているかもしれない。利上げをいったん先送りすべきかもしれない
2022年6月28日 7:35

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永浜利広
第一生命経済研究所 首席エコノミスト
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ひとこと解説

そもそも、FRBの使命は物価の安定と雇用の最大化であり、通常のインフレ加速局面では利上げをやりすぎると景気悪化により雇用環境の悪化を招くために、難しいかじ取りを強いられます。
しかし現局面では、景気が良くなりすぎて、特に50台後半半以降の低賃金労働者がアーリーリタイアすることにより労働参加率の改善を阻んでいます。
このため、現局面ではむしろ急速な利上げにより経済を冷ました方が、雇用にとってはプラスに作用する可能性もありますので、適度であれば景気後退も受け入れられやすい局面にあると言えるでしょう。

2022年6月28日 7:15 』