イラク議会最大勢力が下野 政情不安続く

イラク議会最大勢力が下野 政情不安続く
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR23EN10T20C22A6000000/

『イラク議会(定数329)で最大勢力だった、イスラム教シーア派指導者のサドル師に従う73議員が一斉辞職した。昨年10月の選挙以来停滞する政権樹立交渉は、新たに最大勢力となった親イラン系を中心に進むとみられる。ただ各宗派などの利害調整をしたうえでの政権樹立のハードルは依然高く、サドル師の影響力も根強い。

議会は23日、特別会合を開き、新たに各選挙区で次点だった候補者らが議員に就任した。親イラン系の複数政党による連合は、自派が約130議席に拡大して最大勢力となったと表明した。同連合は同じシーア派ながら米国・イランの双方と距離を置くサドル師と対立している。

イラクでは2021年10月の議会選でサドル師の勢力が躍進した。議員でないサドル師はスンニ派や少数民族クルド系の政党と交渉して自身が影響力を行使できる政権の樹立を目指したが、行き詰まった。

8カ月に及ぶ政治空白を経てサドル師は今月、「腐敗した」政治とはこれ以上関わらないなどと表明。自派の議員らに辞職を促し、73人が議会を離れた。

今後は最大勢力となった親イラン系を中心とした政権樹立交渉が活発化しそうだ。だが、イラクの政治システムには大統領をクルド系、首相をシーア派から選ぶなどの慣例があり、各宗派、民族が複雑に入り乱れて利害調整を行う。

新政権樹立に向けた交渉は今後も難航が見込まれる。首相指名に先立つ大統領の選出には議会の3分の2の支持が必要だ。親イラン系も一枚岩ではないため、イランが間に入って影響力が増す可能性がある。

サドル師は貧困層を中心に根強い支持を得ており、強力な民兵組織も持つ。懸念されるのはサドル師の勢力が憲法上の政治システムから離れ、武力を背景とした街頭デモや武装闘争に乗り出す事態だ。サドル師が率いる勢力は政府に影響力を行使するようになる前の00年代、駐留米軍やイラク治安部隊と武力衝突を繰り返した。

仮に新政権が発足しても、サドル師の勢力が反政府運動を繰り広げれば政権は機能不全に陥る可能性が高い。イラクはもともと電力供給が不安定で、政府が有効な対策を打てなければ気温50度を超えることもある夏に国民の不満が爆発し、政権を揺るがす大規模なデモに発展しやすい。

イラクの政情不安は周辺国にも飛び火しかねない。イランがイラクの内政に介入すれば、イランと対立するサウジアラビアなどスンニ派のアラブ諸国や、イラク北部のクルド人自治区に影響力を持つトルコの反発を招く。

トルコは4月以降、イラク北部への越境軍事作戦を展開している。一方、イラク国内の親イラン系組織は北部のトルコ軍基地にミサイル攻撃をしかけているとされ、イラクを巡るトルコ・イラン両国の緊張は高まっている。(木寺もも子)』