首相が見据える2年後の総裁選 参議院選挙後もにらむ

首相が見据える2年後の総裁選 参議院選挙後もにらむ
編集委員 大石格
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『参院選が22日に公示され選挙戦が始まったが、すでに政界では「ゲームセット感」が漂っている。話題の中心は選挙戦を通り越し、秋の臨時国会の召集前に見込まれる内閣改造・与党役員人事に向きつつある。

岸田文雄首相は選挙後、どこへ向かおうとしているのか。早期に衆院を解散しない限り、しばらく国政選挙がない「黄金の3年間」を迎えるので、政権は当分安泰である、との解説をよく耳にする。だが、首相の視線はそんな先にはない。最大の関心事は、2年後の2024年9月にある自民党総裁選でいかにして再選を勝ち取るかだ。

安倍晋三元首相は党首として戦った3回の衆院選、3回の参院選にいずれも圧勝し、長期政権を築いた。岸田首相も昨年の衆院選に勝ち、今年の参院選を乗り切れば、再選への道筋が見えてくる。首相周辺はそう期待するが、永田町はそう甘くはない。

総裁選で現職が敗れたのは、1978年の福田赳夫氏だけだが、だから現職有利とは言い切れない。告示直前に出馬を断念した海部俊樹氏や谷垣禎一氏らを含めれば、総裁選の歴史は再選失敗の歴史でもある。
新たな派閥抗争の時代

いま自民党は新たな派閥抗争の時代に入っている。小選挙区制のもとで派閥の影響力は失われるというのは、政権交代があり得るときの話だ。

「いまの野党相手ならば誰が表紙でも勝てる」。自民党の幹部はこう言い切る。心置きなく権力闘争に専念できる環境である。

いまの政権はおおまかにいうと、昨年の総裁選で第1回投票から岸田氏に投票した麻生派、茂木派、岸田派、谷垣グループが主流派を形成する。河野太郎氏や野田聖子氏を推した二階派、森山派、石破グループ、菅義偉前首相に近い議員たちは非主流派である。

微妙なのは安倍派で、福田達夫総務会長らは第1回から岸田氏支持だったが、高市早苗政調会長を担いだ安倍氏は決選投票から支持に回った。いわば準主流派である。

向こう2年間、主流派、準主流派、非主流派がどう立ち回るのかで次の勝者が決まる。最終的な決め手は領袖同士の好き嫌いだったりするが、勢力争いには旗印がないと格好が悪い。そこで持ち出されるのが政策である。

中曽根康弘元首相は行財政改革で名を成したが、政界入り当初は経済運営に関心がある方ではなかった。ライバルとなった河本敏夫氏が積極財政論者だったので、財政再建を選ばざるを得なくなった。
再選戦略としての政策の旗

新しい資本主義VSアベノミクスの押し引きも、政策の妥当性で動くわけではない。岸田首相にとって再選に向けて最も重要なのは、準主流派の安倍派を非流派に追いやらないことだ。さりとて、優遇しすぎれば主流派に義理が立たない。今年の骨太の方針の書きぶりは所詮は2年後の戦いへの途中経過にすぎない。

政策の旗は経済分野だけではない。国防体制の強化と憲法改正の行方も政局を動かす重要なキーだ。防衛省の事務次官人事をめぐる岸田首相と安倍氏のあつれきが話題になった。年末の国家安保戦略の改定や防衛予算の増額に伴う財源論争でも、互いの「マウント取り合戦」は頻発するだろう。

安倍派に再選を支持させるにはどうすればよいか。岸田派のある議員によると、こんな構想があるそうだ。総裁選のある24年の通常国会終盤に憲法改正を発議し、総裁選を挟んで秋に国民投票を実施する。そうすれば総裁選で岸田おろしのようなことはしにくかろうというわけだ。

党内にはもっと早期の発議を望む声がある一方、初の国民投票が円滑に進むには国民の理解が足りていないとの見方もある。岸田首相は8月に核拡散防止条約(NPT)再検討会議に初めて出席し、23年の主要7カ国首脳会議(G7サミット)は広島市で開く。核軍縮に力を入れるのは、被爆地選出の首相の持論であるのみならず、改憲への布石でもあり、同時に総裁再選を見据える。

岸田首相にとって今後のあらゆる政策判断の基準はひとつしかない。総裁再選につながるかどうかである。

[日経ヴェリタス2022年6月26日号掲載]

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