[FT]アフリカで拡大、食料高騰の痛みと社会不安の影

[FT]アフリカで拡大、食料高騰の痛みと社会不安の影
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『非正規の建設作業員エズラ・ンガラさんは、ケニアの首都ナイロビのスラム街で生計を立てるのに苦労している。「何とか生き延びようとしている」。妻と4歳の息子を食べさせられないことを説明しながら、ンガラさんはこう話す。

無料配布の食品を求めて並ぶ人々(3日、ガーナ)=ロイター

「この数カ月で、私のようにおなかをすかせる人が急に増えた。政府はウクライナでの戦争がこの事態の原因だと言っている」

国連や地元の政治家、慈善団体は、ロシアによるウクライナ侵攻以降、食料と燃料の国際価格が急騰したことで、アフリカでは2022年、さらに数百万人が飢えと食料不安に見舞われると警告している。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によって引き起こされた経済問題が価格上昇で悪化、最も大きな打撃を受けた国々で社会不安が生じるとの懸念に火が付いた。国連世界食糧計画(WFP)は、ウクライナでの戦争も一因となり、アフリカの大部分が22年に「前代未聞の食料緊急事態」に直面すると指摘している。

エチオピアのシデ財務相はフィナンシャル・タイムズ(FT)に対し、「ウクライナでの紛争が燃料と肥料だけでなく、食用油、砂糖、特に小麦の世界的な価格急騰を引き起こした。これが体制に大きな衝撃をもたらしている」と語った。

干ばつに戦争が追い打ち

国連食糧農業機関(FAO)は、ケニア北部からソマリア、エチオピアの大部分まで広がる地域で、22年に最大2000万人が飢える恐れがあると表明している。過去40年間で最悪の干ばつが原因で、ウクライナでの戦争の影響によって事態が一段と悪化したためだ。

FAOによると、サハラ砂漠南部一帯のサヘル地域と西アフリカでは22年、4000万人以上が深刻な食料不安に見舞われ、3年前の1080万人から大きく増える。

FAOによれば、ウクライナでの戦争が始まる前、サブサハラ(サハラ砂漠以南)アフリカではマダガスカル、カメルーン、ウガンダ、ナイジェリアを含む20カ国以上で、小麦輸入に占めるロシアとウクライナのシェアが2ケタに上っていた。エリトリアは小麦輸入を全量両国に依存している。

ロシアとウクライナからの輸入に依存していない国でさえ、価格上昇によって打撃を被っている。

こうした動向に対応し、世界銀行は22日、アフリカ東部と南部の諸国による食料不安対策の支援に23億ドル(約3000億円)規模の計画を承認したと発表した。

国際通貨基金(IMF)は、サブサハラアフリカでは、消費者物価が22年に12.2%上昇すると予想している。ほぼ20年ぶりの高インフレだ。エチオピアでは、食料価格が4月に前年同月比で42.9%上昇した。

食料価格上昇が貧しい国で社会不安をあおるとの懸念もある。貧しい国は先進国と比べ、日々の生活費に占める食費の割合が高いからだ。

社会不安をあおる懸念

エネルギー価格の急騰と穀物生産地での干ばつによって生じた07~08年の食料危機の最中には、約40カ国が社会不安に見舞われた。そのうち3分の1以上がアフリカ大陸の国だった。

2月下旬のロシアの侵攻の前でさえ、パンデミックはすでにアフリカの経済成長に打撃を与えていた。「アフリカはすでに食料不安に苦しめられていた」。南アフリカ農業会議所のチーフエコノミスト、ワンディレ・シフロボ氏はこう話す。「こうしたアフリカ諸国は食料価格の変動のショックから自国民を守る能力が低下していた」

すでに、社会不安の兆しが見える。内陸国のチャドは6月初めに食料の「緊急事態」を宣言した。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、ウガンダでは5月末、食料価格の高騰に抗議したことで活動家が6人逮捕された。食料価格の高騰を受け、ナイロビでは5月から「#LowerFoodPrices」(食料価格を下げろ)や「#Njaa-Revolution」(スワヒリ語で「飢え」革命)といったハッシュタグの下で街頭デモが起きている。

生活費の問題について訴える地元の活動家ルイス・マガンガさんは「みんな空腹だ。こうした価格上昇にはついていけないのが現実だ。毎日、朝起きると値段が上がっている」と話す。

ナイロビで結婚式や誕生会のケーキを焼くジャクリーン・ムエニさんは危機を肌で感じている。「状況はただ悪化するばかり」で、この仕事を始めてから3年間で今が圧倒的に最悪の時期だという。「過去3カ月間で食料価格が本当に跳ね上がった」

世銀によると、ケニアでは5月、食用油の価格が前年同月比で45%以上急騰し、小麦粉は28%上昇した。「これまでで最悪の状況。以前は楽々とお金を稼ぎ、経費を回収して利益を出していた。1日にホールケーキを平均5つ売っていたのが、今では、運が良くて1つか2つ」とムエニさんは言う。

産油国で石油輸出国機構(OPEC)に加盟しているナイジェリアでさえ、国際的な食料・燃料価格の打撃を受けた。アフリカで最も人口が多い同国は原油を輸出しているが、燃料は輸入に依存している。食料、特に穀物では輸入大国でもある。新興国市場専門の銀行ルネサンス・キャピタルのアナリスト、チブンドゥ・エメカ・オニエナチョ氏によると、ナイジェリアの最大都市ラゴスでは、パンの価格がパンデミック前の1斤300ナイラ(約96円)から22年は700ナイラに上昇した。

「(スライスされた食パン1斤が)突然700ナイラになったら、月間3万ナイラの最低賃金を稼いでいる人すべてに圧力がかかることになる」とオニエナチョ氏は言う。

さらに、小麦粉の価格の高さは、農村部では人々が安価な根菜のキャッサバで作った粉を小麦粉と混ぜることを意味すると語る。パンのように毎日食べるもののコストを削るために、質については「妥協する意思」があるからだ。

ケニアでの燃料価格の上昇は、建設作業員のンガラさんが給料のざっと半分を燃料に費やすことを意味している。その結果、一部の料理はもう手が届かなくなった。

「料理油やトウモロコシ粉といった基本的なものが買えない」とンガラさんは話す。トウモロコシ粉は、粉生地を調理した地元の主食ウガリに必要だ。「1日に1食さえ食べる余裕がない人もいる」

By Andres Schipani and Emiko Terazono

(2022年6月23日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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