マンパワーや秘密主義など問題山積、米国がいくらウクライナ軍に武器を供与しても戦況は好転しない

マンパワーや秘密主義など問題山積、米国がいくらウクライナ軍に武器を供与しても戦況は好転しない
https://www.dailyshincho.jp/article/2022/06240602/

『米国政府は6月15日、ロシアが侵攻を続けるウクライナに追加で10億ドル相当の武器を供与することを決定した。地上配備型の対鑑ミサイルシステム、高性能ロケット砲や榴弾砲の弾丸などがその内訳だ。2月24日以降、米国政府が決定したウクライナへの軍事支援は総額56億ドルに上る(6月16日付日本経済新聞)。

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 オースティン米国防長官は同日、北大西洋条約機構(NATO)閣僚会議に合わせてベルギーの首都ブリュッセルで開催された約50カ国の国防相らとの会合に出席し、「米国と同盟国は引き続きウクライナ支援に取り組むべきだ」と強調した。会合では、ドイツ政府も多連装ロケットシステムの供与を表明した。

「西側諸国に供与を要請していた武器の10パーセントしか届いていない」と不満を口にしていたウクライナだったが、ゼレンスキー大統領は「米国の支援は東部地方での防衛にとって特に重要なものだ。すべてのパートナー国から支援を募ってくれる米国の指導力も高く評価する」と感謝の意を示した。

「世界の警察官」の役割から降りたはずの米国だったが、ウクライナ危機を巡るリーダーシップには目を見張るものがある。地理的に離れたウクライナへの武器供与の9割以上が米国からのものだ。「ウクライナがロシアとの停戦交渉で優位に立てるようになるまで何年にもわたって軍事支援を行う用意がある」との構えも見せている。

 ミリー米統合参謀本部議長が前述の会合で「第1次世界大戦のような厳しい消耗戦だ」と述べたように、戦況は重大な局面を迎えつつある。

「西側諸国からの武器供与が本格化する6月からウクライナは反転攻勢を強める」との期待があったが、事態は一向に好転していない。

 ロシア側が武器搬入を必死にくい止めようとしていることが一因だ。ロシア国防省は15日「ウクライナ西部リビウ近郊でNATO加盟国から供与された武器の弾薬庫を長距離ミサイルで破壊した」と発表した。

 だが、それ以上に深刻な問題が明らかになりつつある。』

『ウクライナ軍には「扱えない」?

 6月15日付CNNは「ウクライナ軍は西側諸国が供与する武器を効果的に運用できる能力を有していない」と報じ、「供与された武器は前線で有効活用されている」とする米国政府の説明に疑問を投げかけた。

 ウクライナ軍の武器の大部分は旧ソ連製だが、弾薬などの数は限られており、容赦ない砲撃戦の結果、西側諸国に備蓄されていた旧ソ連製の弾薬も底をついてしまった。このため、ウクライナ軍の装備を急遽NATO規格に切り替えようとしているが、極めて困難な取り組みだと言わざるを得ない。西側諸国から提供される武器の訓練は時間がかかるため、戦場から必要な兵士を奪う形となるからだ。

 大量のロケット弾やミサイルを撃ち込むことができる高機動ロケット砲システム(ハイマース)を供与した米国政府は、ウクライナ兵の訓練を開始したものの、いまだに実際の戦闘では使用できる状態になっていない。米軍関係者は「まもなくウクライナで使用されるだろう」とのコメントを繰り返すばかりだ。

 数百機の米国製の無人機(ドローン)が既に供与されているが、前線では民間ドローンに爆発物を搭載した武器の方が使い勝手がよく、好まれているという。

 マンパワーについても気がかりだ。ウクライナ軍の死傷者数が増える中、訓練不足の志願兵が大量に前線に送られる事態となっており、西側諸国の武器を適切に運用する能力がさらに低下する可能性が高い。

 NATOのストルテンベルグ事務総長は15日の会合で「ウクライナ軍の近代化した武器への移行を支援する」と述べているが、「泥縄」の感は否めない。

 ウクライナ軍に関する情報が決定的に不足していることも、西側諸国の武器供与が功を奏していないもう一つの理由だ。

 6月8日付米ニューヨークタイムズは「バイデン政権はウクライナ軍の作戦や損失についての情報を把握していない」と報じた。

 米情報機関は長年、ロシアのような敵対国に焦点を合わせてきたことから、ロシア軍の戦略や戦死者数に関する情報を正確に把握している。一方、友好国であるウクライナの分析には力を注いでこなかった。加えてウクライナの「秘密主義」も障害となっている。

 米国はウクライナに対しロシア軍の位置情報をほぼリアルタイムで提供しているのにもかかわらず、ウクライナ側は戦死者数などの機密情報や作戦計画の詳細をほとんど米国側に伝えていないというのだ。

 ウクライナ側は「戦況が不利であることがわかると西側諸国は武器供与をためらうのではないか」と懸念しているようだが、「ウクライナ兵が何人死傷し、武器をどれだけを失ったか」という基本的な情報がなければ、効果的な支援を行えるわけがない。

 ウクライナに事前配備されていた西側諸国の武器(スティンガーやジャベリンなど)がロシア軍の緒戦の侵攻を抑止したが、戦闘が泥沼化しつつある状況下での武器供与は役に立たないどころか、弊害も大きい。国際刑事警察機構(インターポール)は「ウクライナに供与される武器がマフィアなど犯罪組織に流れる可能性が高い」と警告を発している。

 残念ながら、ウクライナに今後武器を供与し続けたとしても戦況が変わる可能性は低いだろう。西側諸国は、ウクライナの国土をさらに荒廃させる武器供与よりも停戦交渉の方に軸足を移すべきではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部 』