食糧安保をWWI前から熱心に研究していたのは英国であった。

食糧安保をWWI前から熱心に研究していたのは英国であった。
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『Nicholas A. Lambert 記者による『プロシーディンクズ』2022-6月号寄稿記事「Look Before You Leap」。
   WWIでトルコはダーダネルス海峡を閉じ、オデッサ港発のウクライナの穀物船は地中海まで出られなくなった。ルーマニアの穀物も同じく黒海から出られない。

 食糧安保をWWI前から熱心に研究していたのは英国であった。
 彼らは早々と結論した。世界の穀物生産量は足りている。輸送手段もある。だがそれを平常機能させている「世界システム」が変動すると、英国本土は餓死に直面するだろう。
 つまり、「サプライ」サイドに何の問題がなくとも危機はたちまちにして至る。国際経済が高度に相互依存しているために、そのシステム自体が爆弾になり得るのだ。

 げんざい、アメリカ本土で飢饉や餓死が発生するとは誰も考えない。しかし、食糧は国際商品であり、海外でシステムが狂うと、アメリカ国内の食品小売価格がどこまでも値上がりする可能性はあるのだ。

 かつて英国はそのような事態をみずから招いてしまったことがあった。米国はその英国の失敗の歴史に学ぼうではないか。

 1914年末、ながらく英国がおそれていた事態が現実になった。小麦の国際取引価格の暴騰である。

 偶然にも、アルゼンチンでは大雨、豪州では大旱魃のために凶作。北米は寒波のため内陸運河が氷り、カナダの穀物を大西洋岸まで送り出すことができない。

 英国はそこで、インドからの穀物輸出をさしとめさせた。

 ロンドンは、この調子だと世界の小麦価格は4倍になるだろうと予測を立てた。

 オプションは僅かだった。国内価格統制と「食糧配給制」の導入だ。

 若いケインズは市場に流す情報を政府がひそかにコントロールすることで落ち着かせられないかと思って実行したが、無駄だった。

 ついに英国政府――というか若いチャーチル――は、このさいトルコに攻め込み、ダーダネルス海峡を軍事占領すりゃいいじゃん、と内閣を説得する。

 そのあと起きたガリポリ作戦の大失敗は有名なので略す。

 げんざい、カナダでは、小麦の作付けのシーズンに入っている。そして今年の収穫は例年より不作になりそうだという。

 そしてげんざい、こんなことを考えている阿呆が多いのではないか? NATO海軍がオデーサ港から地中海まで穀物輸送船のコンボイを護送してやりゃ、すべて解決じゃね? ……と。

 穀物サプライチェーンのホンの一部だけを見ていて、どうするんだ?

 まず農地からの集荷がある。その集荷物の港までの輸送がある。そこでの貯蔵がある。サイロへの出し入れには巨大マシーンを動かす。それは動くのか? 燃料は? ロシアからのミサイル空爆は? 無人特攻機が突っ込んできたら? バルクカーゴ船への積み込みも同様だ。荷役機械はすべて動くのか? 露軍がミサイル空襲してきても? 貯蔵穀物の山が焼かれたら? 化学物質や放射性物質を撒かれたら? 

 穀物の輸出はプロセスが多く、手間がかかるのである。諸段階のすべてに時間がかかるのである。その時間が、そっくり軍事的な「リスク」なのである。

 ちなみに今次戦争前、世界の「ひまわり種油」の半量を、ウクライナが輸出していた。
  ※ヒマワリ油に漬けたツナ缶をさいきんスーパーで見ないと思ったら、そういうわけ? まあ58キロまで絞ってコレステロールもなくなっただろうから、俺はサラダ油漬けでいいけどね。

 米国では選挙が近いからバイデン政権は、この夏の物価を下げねばという圧力を感じ、米海軍をオデッサに差し向けたくなるだろう。それは、やめれ! せいぜい、たったの2000万トンの穀物が地中海に出てくるだけ。物価的には、何の善い影響もなく、軍事的には途方も無く損だから。その軍事的損失額は、救済した穀物の小売価格を、はるかに上回ってしまう。これが英国が1915に痛切に反省したこと。今から同様の結果は見えているのだ。』