石炭需要、世界で再拡大 アジアや欧州で価格高騰

石炭需要、世界で再拡大 アジアや欧州で価格高騰
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『石炭の需要が世界で再び増えている。ロシアのウクライナ侵攻に端を発したエネルギーの供給不安を受け、欧州で石炭回帰が急速に進む。クリーンエネルギーへの転換が遅れるアジアの新興国でも需要が伸び続ける。需給逼迫で価格が上昇し、国際エネルギー機関(IEA)は2022年に石炭への投資が前年比約10%増えるとの見通しを示した。

足元で石炭消費が上向いているのが、脱炭素の先進地である欧州だ。ドイツは19日、ロシア産ガスの供給削減を受けて石炭火力を拡大する準備に入った。オランダやポーランド、オーストリアもガス供給の途絶に備えて石炭の利用拡大策を検討している。

ウクライナ危機以前から、世界の石炭消費の伸びはアジアの新興国がけん引している。インドなどは石炭火力が主力電源で、新型コロナウイルス禍からの経済回復も重なり電力消費が拡大。中国は国外で石炭火力発電所の建設は停止すると宣言したものの、国内では新規に多くの発電所がつくられている。IEAは昨年末時点で、世界の石炭需要が24年までの3年間で1%近く増えると予想する。

ロシアは世界有数の産炭国でもあり、ウクライナ侵攻が供給不安に拍車をかけた。需給逼迫で発電用石炭(一般炭)の価格は一段と上昇。アジアと欧州の指標価格はともに1トン370ドル前後と、1年前の3倍超の水準で推移する。アジアの指標となるオーストラリア産のスポット価格は、5月下旬に一時425ドル弱と過去最高値を付けた。

夏にかけて電力消費は増える。「石炭の供給はタイトな局面が続いており、今後さらに高騰するリスクもある」(Jパワー)との見方が多い。

需給逼迫と価格の高騰を受け、石炭供給への投資も活発化している。IEAが22日公表したエネルギー投資に関する報告書によると、石炭への投資は22年に10%程度増える。すでに21年も10%増え、1050億ドルに達した。中国は昨年夏以降の深刻な電力不足の再来を避けようと、国内で石炭の生産増強を支援する政策を打ち出している。

IEAはガスや石油の上流部門への投資も22年に10%程度増えるとみる。エネルギー価格の高騰が恩恵となり、21年も10%近く伸びた。世界の石油・ガス業界の収入は22年に4兆ドルと過去5年間の平均の2倍以上となる見通しだ。

エネルギー全体への投資は22年に8%増え、2.4兆ドル(326兆円)とコロナ禍の水準を大きく上回る。再生可能エネルギーや原子力といったクリーンエネルギーとともに、化石燃料への投資が全体を押し上げている。

クリーンエネルギーへの投資は1.4兆ドルと見込む。15年からの5年間は年2%程度の増加で推移していたが、21年から急増している。欧米と中国の伸びが目立ち、各国の政策や財政面の支援措置が支えている。太陽光や蓄電池、電気自動車への投資は、50年までに世界の温暖化ガスの排出を実質ゼロにする目標に合致する割合で増えているという。

一方、先進国や中国以外の新興・途上国ではクリーンエネルギー投資が進んでおらず、15年から横ばいが続く。公的資金が乏しく十分な政策措置がとられていないうえ、借り入れコストが上昇しているためだ。IEAのビロル事務局長は声明で「足元のエネルギー危機も気候危機も無視できる余裕はない」と訴え、2つの問題に同時に取り組むべきだと表明した。

(ブリュッセル=竹内康雄、コモディティーエディター 浜美佐)

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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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理想と現実のギャップが鮮明になり、各国が苦慮している構図である。温暖化ガス排出をできるだけ抑制して地球全体を守るという中長期的な理想に逆行する形で、足元の経済を回すために、あるいは北半球の冬場を乗り切るために必要な電力需要を満たすために、化石燃料の利用が加速しつつある。だが、それは温暖化ガスの排出量を増やすことにつながる。日本で実施されているガソリンなどの価格上昇抑制策も、同じ文脈で賛否が分かれる。バイデン米大統領が議会に提案した連邦ガソリン税の一時停止も同様である。こうしたジレンマを、理想と現実のどちらか1つだけを選ぶことで解消するのはまずい。当面の現実対応を必要最小限にするのが最善だろう。

2022年6月23日 7:50 (2022年6月23日 9:09更新)

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小山堅
日本エネルギー経済研究所 専務理事 首席研究員
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ひとこと解説

気候変動対策が重要であることは、誰しも、どの国も、十分に認識してはいるが、エネルギー安定供給が脅かされエネルギー価格が高騰している時、相対的に安価で安定的なエネルギー源が選択されるのはある意味では当然のことだ。とりわけ供給途絶や価格急騰のような「有事」に対応するためにはドイツでさえもCO2排出増を覚悟して石炭活用を選択することになる。まして新興国・途上国ではなおさらだ。特に国内に豊富な資源を有する国にとっては、「有事」対応のみならず、安定供給対策上、国産資源活用が重視されていく可能性もある。ウクライナ危機を経た中長期将来像において脱炭素化の取組みがどう進んでいくのか、不透明感が増している。

2022年6月23日 8:10 』