三菱商事の総取り許すな 洋上風力発電、政官絡むバトル

三菱商事の総取り許すな 洋上風力発電、政官絡むバトル
洋上風力バトル(1)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC012TV0R00C22A6000000/

『会議は荒れ模様だった。

5月、洋上風力の推進を議論する審議会。経済産業省と国土交通省が1企業連合の落札可能区域を制限する具体案を示したのがきっかけだった。

政府は洋上風力をエネルギー安全保障のカギを握る発電と位置づけ、2020年11月に秋田県沖と千葉県沖の計3カ所の公募を開始。21年末、3区域全ての事業者に三菱商事連合を選んだ。経産・国交省案が実現すれば三菱商事のように複数落札を狙うとみられる事業展開は制約を受ける。

政府案より踏み込んだのが、約500の企業・自治体が加盟する日本風力発電協会(JWPA)副代表理事の祓川清だ。「(前回と次の公募の)累積で例えば3割に制限してはどうか」。政府案にない独自案で、企業が権益を分け合う寡占防止条項の導入を迫った。

「見たのはきょうが初めてだ」。三菱商事エナジーソリューションズ社長の岩崎芳博は資料を一読すると言い放った。同社はJWPAの正会員。にもかかわらず事前の相談はなかった。「三菱商事の総取りは許せない」。そんな業界の雰囲気を岩崎は感じ取った。

日本で洋上風力の歴史が幕を開けたのは19年4月。政府が「再エネ海域利用法」を施行し、事業者が一般海域を30年間占有できる環境を整えた。40年までに最大4500万キロワットをつくる。原子力発電所45基分に相当する巨大事業だ。

初の大規模案件の公募となる3区域の入札で三菱商事が示したのは1キロワット時11~16円台。2番手以下より約3割低く、政府が設けた29円という上限価格を大きく下回る驚きの低価格だった。

三菱商事は自他共に認める名門企業だ。三菱グループの中核企業として産業界をリードすることはあっても、手荒な価格破壊は仕掛けない。そんな下馬評を覆した応札価格にライバル各社は驚き、「辻つまが合わない」との疑念が相次いだ。

三菱商事も引けない。業績を支えてきた資源事業はいずれ脱炭素の波にのみ込まれる。4月に社長に就任した中西勝也は「脱炭素は転換点。転換はチャンスだ」と説く。風車で米ゼネラル・エレクトリック、運営で子会社のオランダ再生エネ大手エネコ、地域共生で米アマゾン・ドット・コムと手を組む。グローバルな連携で市場を席巻する覚悟を価格に映した。

ライバル企業は急きょ、巻き返しに動く。

2月22日。JWPAは経産省と国交省に提言書を送った。応札した企業の計画の審査で、稼働時期の早さをより重視するよう変更を求めた。同時にこのルール変更を公募済みの案件にも適用するよう訴えた。三菱商事連合の稼働時期が28~30年とほかの陣営より数年遅かった点を突いた。

「正直、言いがかりに近い」。提言書を見た経産官僚は感じた。価格が安ければ消費者に恩恵がいく。すでに公募を始めている案件にもルール変更を適用すれば、一からやり直さざるをえなくなる。それは早期導入という目標と矛盾する。

それでも業界団体は政界へのロビー活動も織り交ぜて圧力を強めた。3月18日、政府は唐突に6月10日だった次の公募の締め切り延期を決めた。

公募延期決定と同日、自民党本部で再生可能エネルギー普及拡大議員連盟の会合があった。JWPA代表理事で日本風力開発(東京・千代田)副会長の加藤仁も姿をみせた。「1社(三菱商事)独占は無しにしましょう」。公募延期とルール変更を達成した、さながら祝勝会のようだった。

ルール見直しは洋上風力の先進地、欧州でもある。大事なのはなぜ見直すのか、きちんと国民に説明することだ。供給者を増やす大義名分に見え隠れするのは権益分配の下の平等主義。ルール変更や公募延期が頻発すれば開発は遅れる。市場の透明性も保てない。

国際再生可能エネルギー機関は、世界の洋上風力の発電能力は18年の2300万キロワットから30年には2億2800万キロワットに育つとみる。21年の新設量は中国だけで世界全体の8割を占めた。風車製造では中国勢と欧州勢がしのぎを削る。日本が市場育成に手間取るほど、世界の潮流から遠のく。

(敬称略)

日本で洋上風力発電の開発がようやく始まった。巨大市場を巡る内外の動きを追う。
多様な観点からニュースを考える

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

村上芽のアバター
村上芽
日本総合研究所創発戦略センター シニアスペシャリスト
コメントメニュー

ひとこと解説

ルール変更はビジネスでもスポーツでもよくある話ですが、「公募済案件への適用」案には驚きました。ワールドカップ予選をやり直すようなことです。脱炭素経済へのスピーディな転換を、公正な経済取引で貫徹するよう、「ムラ」にしない・ならない決意表明を聞きたいものです。
2022年6月21日 8:26 』