南太平洋、中国の進出に反感も マイケル・フィールド氏

南太平洋、中国の進出に反感も マイケル・フィールド氏
ジャーナリスト
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD133LT0T10C22A6000000/

※ まあ、「根回し」「事前リサーチ」の不十分だな…。

※ それにしても、「雑技団」「パンダ」なんかが、「進出」の先兵になるわけだ…。

『1970年代に中国とサモアが国交を樹立した頃、中国がサモアの独立記念日に重慶から雑技団を送ったことがあった。当時15万人強だったサモアの人口の3分の2がショーを鑑賞したとされ、中国のソフトパワーは勝利を収めた。

それから約40年が過ぎ、中国の王毅(ワン・イー)国務委員兼外相は最近、太平洋諸国の訪問を終えた。ソロモン諸島と締結した安全保障協定を他国とも結ぼうとする試みの一環だ。王氏は的確な外交術で各国に強い印象を与えるどころか、行き過ぎた行動により訪問先をいら立たせた。

習近平(シー・ジンピン)国家主席が唱える「大国も小国もすべて平等」という呪文で武装した王氏は、太平洋諸国がどこも同じだと思い込んでしまった。台湾ではなく中国の承認を求める政策文書を売り込んだ王氏は、個々の国への配慮を欠いた。

地域機構「太平洋諸島フォーラム(PIF)」は現在、ミクロネシアとポリネシア間で権力闘争が起きている。サモアは自らをソロモン諸島とは違う存在と考えており、キリバスもトンガとは立場が異なる。こうしたことを中国は理解できたはずだ。さらにPIFの会議で議題になるはずの気候変動問題について、王氏は冷淡な姿勢を示した。太平洋諸国のほとんどは、中国やオーストラリアなどの炭素排出国から大きな被害を受けていると考えている。
Michael Field ニュージーランド出身。フィジーなど南太平洋地域の政治や社会を長年取材してきた

中国はフィジーのバイニマラマ首相が太平洋地域の代弁者だと決めてかかっていた。しかし王氏は下調べが足りなかったかもしれない。バイニマラマ氏は首相に就任してからPIF首脳会議への出席を拒否しているだけでなく、豪州とニュージーランドをPIFから完全に排除しようとした。

サモアのフィアメ首相は王氏の提案を真っ向から拒否し、政策文書について「十分に検討する時間がなかったので、まだ決定していない」と述べた。中国の政策文書は法執行を含む治外法権を要求していた。特別な法的待遇を望んでいる点で中国は欧州の植民地時代に倣っている。地域の通信網も英国企業ではなく中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)に支配してほしいと考えている。

中国は漁船の受けいれを増やすことも求めたが、過去20年間の中国漁業の拡大が警戒感を呼び起こしている現状で、太平洋諸国が文書に署名するはずはなかった。

王氏は訪問した各国で現地のジャーナリストの質問を阻止しようとして事態を悪化させた。記者会見で地元の人間を排除するのは無礼の極みであり、帝国主義的と受け止められた。

中国は豪州の総選挙も考慮に入れていなかった。王氏が各国を飛び回っている間に、豪州では太平洋地域に友好的な新政権が誕生した。今年はフィジーやソロモン諸島で選挙があり、中国との合意が各国の有権者に人気がないことも見落としていた。

習氏は14年11月に同地域を訪問した際、06年の政治暴動からの回復に苦しんでいたトンガに低利融資を実施した。その債務は重荷となっているが、王氏は救済の嘆願を無視し、トンガはデフォルト(債務不履行)の瀬戸際にある。

王氏は2国間の経済開発協定をいくつか携えて帰国したが、大きな成果はなかった。継続して議論するともいわれるが、人の気持ちを傷つけることを嫌う太平洋の文化を考えれば、本当の答えはおそらく「ノー」だろう。

関連英文はNikkei Asiaサイト(https://s.nikkei.com/3xkQLQD)に

情報統制の拡大に警戒

協定が締結されなかったことを中国外交の失敗と決めつけるのは早計だろう。共産党政権の対外政策は長期的な戦略に裏付けられていて、今回は瀬踏みをしただけともいえる。今後も締結をめざして働きかけを続ける公算が大きく、展開を注視したい。

治外法権をはじめ植民地主義的な要求にはあきれるが、驚くべきは賛同した国もあったらしいことだ。その背景は十分に明らかになっていない。それなりの見返りを中国は提示しているはずである。

王氏が地元のジャーナリストの質問を阻止しようとしたのは、共産党政権の情報統制が海外でも強まっている事態の一端を示している。残念ながらどこの国の権力者もときにジャーナリズムを敵視する。要警戒である。

(編集委員 飯野克彦)』