「ウクライナ」より「物価高」 生活費高騰、政権揺らす

「ウクライナ」より「物価高」 生活費高騰、政権揺らす
世界インフレの実相④
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN0708D0X00C22A6000000/

『4月のフランス大統領選。無風で再選との見方が大勢だった現職マクロン氏に、極右国民連合のルペン氏が一時支持率でほぼ並ぶ接戦を演じた。

背景にあったのはインフレだ。1月に2.9%だった物価上昇率は2月に3.6%、3月に4.5%と急速に高まっていた。4月は4.8%に達した。ルペン氏は日本の消費税にあたる付加価値税を生活必需品で0%にすることや、燃料税の大幅な引き下げを唱え、有権者の歓心を買った。

利上げ、増税、歳出削減。物価高に効くのは不人気な需要抑制策だ。強引な価格抑制策は需要を喚起し、インフレを長引かせかねない。実質的な賃下げに苦しむ国民がなびきがちなのは後者だ。

5月の英統一地方選は与党・保守党が敗れた。その後、英政府は生活費高騰への不満を和らげようと、石油・ガス会社に課税して家計への光熱費支援などに充てる対策を打ち出した。

仏調査会社イプソスが27カ国の市民に「最大の懸念事項」を聞いたところ、5月はインフレが34%で最も多かった。集計項目に入った13年以降、この2月まで上位5位にさえ入らずに来たのとは様変わりした。回答割合はロシアのウクライナ侵攻が念頭にある「国家間の軍事衝突」の14%を大幅に上回る。

経済基盤の脆弱な国は揺らぎが大きい。5月に物価上昇率が73.5%に達したトルコ。最大都市イスタンブールの大手カフェチェーンでは価格欄が空白になっていた。急速なインフレに追いつかないため、もはや書き換えの作業を諦めた。

食堂経営の男性は「ずっとエルドアン大統領に投票してきたが、次は決めかねている」と漏らす。エルドアン氏は景気優先で利上げに反対し、物価上昇に拍車をかけた。調査会社メトロポールによると支持率は5月に44.4%と、不支持率の47.3%を下回った。23年半ばまでにある大統領選での再選に黄信号がともる。

スリランカは物価上昇率が最大都市コロンボで40%に迫る。ラジャパクサ大統領の同族政権への抗議が広がり、財務相だった弟、首相だった兄らは辞任に至った。挙国一致体制を訴えて野党から新首相を起用しても求心力の低下が止まらない。

波は世界に及ぶ。日本は7月に参院選、米国は11月に中間選挙が待つ。

3日に発足500日となったバイデン米政権。世論調査分析サイト「ファイブ・サーティー・エイト」によると支持率は40.8%にとどまり、戦後14人の大統領で同時期として最低に沈んだ。

物価上昇率は8%を超える水準が続く。野党・共和党は「バイデンフレーション」と呼ぶ。巨額の経済対策がインフレを招いたとの批判だ。利上げ頼みで物価高対策が乏しいという不満をすくいとる戦略でもある。

中国で民主化を求める学生たちを当局が武力で鎮圧した1989年の天安門事件。2011年ごろに中東・北アフリカに広がった民主化運動「アラブの春」。物価高は現代史の数々の騒乱の底流となってきた。そして今、世界はグローバル経済のきしみのような同時多発インフレに向き合う。

世界銀行のマルパス総裁はウクライナ危機下で肥料や液化天然ガス(LNG)を先進国が確保し、途上国が犠牲になっていると指摘する。コスト高をもたらす強権と分断に歯止めをかけるべき西側の国々まで内向きになれば混迷はますます深まる。国際協調の再構築が求められている。

【「世界インフレの実相」連載一覧】

・日米欧の生活費、1年で1割上昇 7倍速の物価高
・資産膨張40年で5倍 前例なき利上げの難路
・日本の家計、緩まぬ財布 エネルギー除き物価上昇0%台

舘野真治、石川潤、花井悠希、ワシントン=高見浩輔、ニューヨーク=斉藤雄太、大島有美子、ベルリン=南毅郎、パリ=白石透冴、イスタンブール=木寺もも子、ムンバイ=花田亮輔、マクロ経済エディター 松尾洋平、小野沢健一、丸山大介、清水直茂、広井洋一郎、大西康平、八木悠介、森匠太郎、湯沢維久が担当しました。』