[FT]ブルガリア政権が崩壊の危機、親ロシア派台頭の兆し

[FT]ブルガリア政権が崩壊の危機、親ロシア派台頭の兆し
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 ※ 各国、目まぐるしく、「その立ち位置」を定める必要に迫られているな…。

『親欧州連合(EU)の立場をとるブルガリアのキリル・ペトコフ首相はロシアのウクライナ侵攻に当初から反対を表明し、「わが国は屈しない。明らかに賛同できない事態を目の当たりにして黙っているわけにはいかない」と表明してきた。

ペトコフ氏は昨年12月、親EU路線を掲げて首相に就任したが、親ロシア派政党に不信任案を突き付けられている=ロイター

ペトコフ首相がステファン・ヤネフ国防相を罷免したのも、ヤネフ氏がウクライナ侵攻を「戦争」ではなく「特別軍事作戦」と発言し、ロシア大統領府の公式見解と同じ表現を繰り返したからだ。

ところが先週、首相率いる連立政権内でEU拡大支持を巡る対立が激化し、一部政党が離脱して与党が過半数割れとなり、ペトコフ氏の方が政権を追われかねない風向きになっている。罷免されたヤネフ氏は親ロシア新党の党首としてカムバックを果たそうとしている。

ブルガリアはEU内では伝統的にロシアと最も親しい国だが、連立政権が崩壊した場合、この約1年間で4回目の議会選挙が行われる見通しだ。そうなればヤネフ氏が立ち上げた新党を含むロシア寄りの右派政党が大きく勢力を伸ばし、新たな連立に向けたキャスチングボートを握る可能性が出てくる。

「現政権は存続できないだろう」。連立政権に参加するリベラル派の小政党「ダ・ブルガリア」のフリスト・イワノフ党首はこう話した。だが代わりに単独で政権を取れる勢力も存在せず、「選挙をやって右派が増えるとしても、混乱は解消しないだろう」と指摘した。
ポピュリスト政党の連立離脱で政局混迷

トリフォノフ氏は自ら率いる政党が重要議題で蚊帳の外に置かれたとして連立政権を離脱した=ロイター

同国の政局混迷はフォークロック歌手からポピュリスト(大衆迎合主義)の政治家に転じたスラビ・トリフォノフ氏が先週、自ら率いる政党「ITN」を連立政権から離脱させたのがきっかけだ。ペトコフ首相が北マケドニア、アルバニアのEU加盟交渉開始を妨げないとの方針を示していたのにトリフォノフ氏が抗議して離脱を決めた。

これを受けて親欧米派のペトコフ氏が退陣すれば政情不安はさらに深まり、EU拡大阻止を狙うロシア政府の思い通りとなる。

駐ロシア・ブルガリア大使を務めたイリアン・バシレフ氏は、ITNの連立離脱はロシアの利益にかない、ブルガリアが北大西洋条約機構(NATO)とEUに加盟して20年近くたった今でもロシアが同国への影響力を誇示している証しにもなると語った。

バシレフ氏はさらに「ロシアが今回の危機を引き起こした」と何の根拠も示さずに主張した。「彼らの最大の目標はブルガリア政府の動きを封じ、統治能力をそぐことだ」

ITNの副党首と広報担当者はコメント要請に応じなかった。ロシアはブルガリアの政局混乱への関与を一切否定し、ペスコフ大統領報道官は「我々は全く無関係だ」と述べた。

親欧米路線と汚職撲滅掲げたペトコフ首相

米ハーバード大学出身のペトコフ首相は昨年12月、EU最貧国であるブルガリアの首相に就任した。政治危機が長期化し、昨年だけで3回目となった同11月の議会選挙では親欧米路線と汚職撲滅を公約に掲げた。

ロシア軍のウクライナ侵攻を受けて、ロシア通貨ルーブルによる天然ガス輸入代金の支払いを拒否し、ロシア国営ガスプロムとの年間20億ドルに上る長期輸入契約を年末の期限切れ後に更新しないと通告した。一方、ロシアは4月にブルガリアへのガス供給を停止した。

ブルガリア政府は約120人のロシア人外交官のうち12人を国外追放し、先週はラブロフ外相がセルビアを訪問する際のロシア機の領空通過を拒否した。

ウクライナに対しては重要な軍事物資を含め支援した。政府は武器供与を認めていないものの、経済省が公表した統計によると、弾薬の生産及び輸出が前年比3倍に増えている。

同国国防省の元幹部は「欧州がわが国の旧式まみれの兵器技術に大きな関心を持ち、急きょ大量に仕入れようと決めたわけではない」と話した。「行き先は間違いなくウクライナだ」

専門家や政府関係者によると、兵器・弾薬の輸出には政府の承認が必要なので、輸出を阻止したければ現在の少数派内閣の方が望ましいという。

北マケドニア問題が争点に

国防相を罷免されたヤネフ氏は親ロシア派政党を立ち上げ、ぺとコフ首相の追い落としを狙う=ロイター

今回の政治危機の発端となったのは、ペトコフ氏が12月、北マケドニア政府からの譲歩と引き換えにEU加盟交渉に対するブルガリアの拒否権発動を取り下げる合意をまとめようとしたことだった。

多くのブルガリア人は北マケドニアのアイデンティティーや歴教科書の記述内容に異議を唱えている。首都ソフィアのコンサルティング会社アルファ・リサーチのマネジングパートナー、ジェノベバ・ペトロバ氏によると、世論調査では北マケドニアのEU加盟を支持するブルガリア人は半数以下と、2017年時点の3分の2から減少している。

ペトコフ首相は北マケドニア政府に対し、憲法や文化遺産、歴史教科書の書き換えなどを通じてブルガリアのイメージを改善するよう譲歩を求めると訴えた。

だが、トリフォノフ氏は自党が協議の蚊帳の外に置かれたと不満を訴え、ペトコフ氏の発言を「国家的な裏切り」だと批判した。

選挙戦では北マケドニア問題が大きな争点になりそうだ。そうなれば国防相を罷免されたヤネフ氏が立ち上げた国家主義の親ロシア派政党「ブルガリア台頭」と別の極右政党「リバイバル」が有利になる。ペトロバ氏によると、両党とも2ケタの支持を勝ち取る可能性がある。

この2党だけで過半数を獲得する可能性は低いものの、「急進右派の票が選挙結果を左右しそうだ」と同氏は指摘する。極右政党を破るためには、中道右派の「欧州発展のためのブルガリア市民(GERB)」をはじめ極右以外の政治勢力を束ねる必要がある。ただし、GERBを率いるボリソフ前首相は汚職スキャンダルにまみれた計10年間の在任期間をへて、昨年の選挙で敗北した人物だ。

職業軍人で一時暫定首相も務めたヤネフ氏は地元ラジオで、ウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」と表現したことについて後悔していないと語った。「プーチン(大統領)の言葉を引用しただけで、彼の言葉には外交的解決も選択肢だという意味が含まれていた」

EUはペトコフ氏に期待

EUはペトコフ氏が権力の座にとどまって北マケドニアの加盟交渉を軌道に乗せ、バルカン諸国におけるEUの存在回復に一役買ってくれることを期待している。

ドイツのショルツ首相は先週ソフィアを訪問した際、ロシアのウクライナ侵攻を受けてEUの加盟国拡大に「新たな意欲」を感じると述べた。

同氏はペトコフ氏と並んで立ち、「前進する好機だ。今後も緊密な意見交換を続ける」と語った。

ドイツのベーアボック外相も3月、「わが国は欧州の中心であるこの地域を決してモスクワに明け渡さない」と話している。

By Marton Dunai

(2022年6月16日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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