[FT]「香港は英国が占領」 中国、教科書で主権喪失否定

[FT]「香港は英国が占領」 中国、教科書で主権喪失否定
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『香港の中等教育学校に配布された新しい教科書は、香港は英国の植民地ではなく占領地だったと教えている。香港における中国政府の思想弾圧の一環として行われている歴史の塗り替えだ。
2019年に香港で広がった抗議活動では、英国国旗を掲げて街頭で訴えをする人々の姿が見られた=ロイター

2019年に反政府デモが相次ぎ、一部のデモ参加者は独立を要求した。こうしたことから教科書は、将来の香港の政治体制は香港人が決めるべきだとする「自決」を求める声を封じようとしている。

「英国は香港を占領したが、中国政府はそのような不平等条約を認めず、香港に対する中国の主権を主張した」。現代教育研究社という香港の出版社が製作した教科書では、ある「模範解答」にこう書かれている。

「このため、香港は『国による主権の喪失』の条件を満たさず、植民地ではなかった」と教科書は解説している。

出版前の評価のために香港の中学、高校に送られた少なくとも5点の教科書は、現在の中国政府は香港島を英国に割譲した歴史的な条約を正式に認めたことがないと強調している。
反政府デモ後にできた科目で導入

数点はさらに、1972年に「国連非自治地域リスト」から香港が削除されたことは、植民地の自治に関する決議への国連の支持が香港に適用されないことを意味すると記している。

香港の雅集出版社から出された中国語の教科書には「これは、香港問題が中国の国家主権の範囲内であることを国際法が確認したことを示している」と書かれている。

教科書は、「公民と社会発展」という香港の新科目の一環として学校に配布された。中国政府に忠実な支持派が2019年の反政府デモに参加するよう学生の思想を過激化させた原因として批判した「通識教育(リベラル・スタディーズ)」に代わって昨年導入された科目だ。

香港当局は中国の国家主義的な路線をとるよう学校に対する圧力を強めており、この取り組みを受けて昨年、香港最大の教職員組合が解散に追い込まれた。

英国は1841年、アヘン戦争の最中に香港を占領し、中国を当時支配していた清朝が翌年、香港島を割譲した。第2次世界大戦中に日本軍の占領下に置かれた時期を除くと、中国に返還される1997年まで、英国が植民地として香港を統治した。

雅集出版社の教科書は、香港は経済的、政治的な管轄権だけでなく、「民族的な絆」「文化的伝統」「言語体系」「駐留部隊」のおかげで中国と結びついていると記している。
9月から高校の授業で使用予定

5点の教科書は計7点の教科書のリストの一部で、学校がこのなかから新科目の授業で使う教科書を選ぶ。教科書はすでに香港政府教育局によって審査され、今年9月から高校の授業で使用されるとみられている。

また、これらの教科書は2019年の民主化デモを「外部勢力」によって扇動された激しい暴動として描く中国政府の表現も繰り返している。

中等教育学校の教師を30年以上務めてきたチャン・チワさんは、19年以前には教科書が香港は植民地ではなかったという考えに触れることはめったになかったが、昨年以降、教育当局によって開催されるセミナーで、この見解が教師に伝達されていると話す。

「教師にとって最も難しいところは、香港が多くの人から植民地とみなされてきた時に、なぜ今はそうではないのかを生徒に説明することだ」とチワさんは話す。

教科書を1点ずつ出版した雅集出版社と現代教育研究社、名創教育にコメントを求めたが、すぐに返答がなかった。

教科書を2点出版した香港教育図書と香港政府教育局は、教科書の内容についてのコメントを控えた。

By Chan Ho-him, William Langley and Jennifer Creery

(2022年6月16日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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川島真
東京大学大学院総合文化研究科 教授
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ひとこと解説

香港返還交渉を行うに際して、鄧小平は「返還」という言葉を使わず、「回帰」と位置付けた。これは、そもそも南京条約など一連の条約が、西洋列強が武器を突きつけて清朝に結ばせた条約であり、無効だとする発想に基づく。回帰は、あるべきところに戻るということだ。また、香港返還は本来1898年に99年期限で租借した新界だけが対象で、割譲された香港島や九龍半島南部は対象外のはずだった。だが中国としては、それらも中国に戻って当然だとした。それも「回帰」という言葉に込められる。これから、こうした中国の公的な歴史観が香港の歴史教育になだれ込んでいくことになるだろう。香港で簡体字が用いられるのも間近かもしれない。
2022年6月17日 4:57

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益尾知佐子
九州大学大学院比較社会文化研究院 准教授
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分析・考察

中国と世界との距離はどんどん遠くなっていますが、もはや香港も同じです。このような奇論で教育された子供たちが、世界の金融センターとしての香港の機能を維持し続けられるとは思えません。
香港は「『駐留部隊』のおかげで中国と結びついている」。ーー天安門事件を想起すれば、部隊は国外の敵ではなく内部の反対勢力のために必要なのでしょう。鄧小平らは一国二制度を提起した当初、台湾に軍隊の保持を認めていました。その制度はいまや似て非なるものになりました。
数年前、香港の知人は香港が「中国の植民地になっている」と言っていました。彼女はきっといま、香港が「中国の占領地になっている」と思っているでしょう。
2022年6月16日 18:56 (2022年6月16日 18:57更新)』