輸出管理規制で米国先行、日本は「不満」

輸出管理規制で米国先行、日本は「不満」
動き出す経済安保(4)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN08EF90Y2A600C2000000/

『1日、米東部ペンシルベニア州マルバーン。米半導体メーカー、ビシェイ・インターテクノロジーの本社に、首都ワシントンから車で3時間かけて足を運んだ米商務長官ジーナ・レモンドの姿があった。「私たちが半導体を発明し、シリコンバレーを構えたのに、すべてアジアに出ていってしまった」。レモンドは同社幹部に米半導体産業の現状を嘆いた。

「ほかのすべての国が補助金を出そうとしている。企業は米国外に工場を建ててしまう」。焦りを募らせるレモンドは半導体サプライチェーン(供給網)の強化などを盛った「中国対抗法案」の早期成立を議員らに呼びかけている。「国家安全保障に関わる。成立の遅れは許されない」

米国が超党派で議論する対中法案は、日本で5月に成立した経済安全保障推進法より踏み込んだ内容だ。同法にも盛り込まれた半導体や人工知能(AI)、量子分野の開発・生産支援など自国技術の振興策に加え、企業の対中投資を規制する条項などで日本の先を行く。
中国と対立を深める米国は、同盟国の日本と時に摩擦を引き起こしてきた。

トランプ前政権は華為技術(ファーウェイ)などに禁輸措置を発動し、日本企業も出荷停止を迫られた。米国外で製造した製品にも、米国の技術や部品を一定以上含む場合に国内と同等のルールを課す輸出管理規制の「域外適用」に「日本はずっと不満を抱いてきた」(日本政府関係者)。

2月24日、ロシアがウクライナへの侵攻を始めると、米国は外国製品でも米国の製造技術を使っていればロシアへの輸出を認めない強力な制裁を打ち出した。異例だったのはこれまで同盟国に求めてきた域外適用のルールの一部を「同様の輸出規制を取り入れた」との理由で日本や欧州連合(EU)には免除したことだ。

4月、米商務次官補のシア・ケンドラー(輸出管理担当)が訪日した。ケンドラーは「日米が規制の足並みをそろえることで効果が高まる」と日本の連携に期待する。サプライチェーンからの中ロ排除を打ち出す米国に対し、日本はどこまで歩調を合わせられるか。政府と企業は覚悟を試される。

(敬称略)
三木理恵子、川上梓、西野杏菜、加藤晶也、鳳山太成が担当しました。

【ルポ迫真「動き出す経済安保」記事一覧】

・経済安保法「どこまで厳しいのか」 企業に緊張と戸惑い
・国の機密、企業どう関与 経済安保の資格導入一旦封印
・公開できない特許「不安大きい」 企業惑わす政策大転換

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渡部恒雄
笹川平和財団 上席研究員
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分析・考察

半導体の米国の対中輸出規制を理解する上で悩ましいのは、どこまでが安全保障上の理由で、どこまでが経済競争力という理由かの境界線が曖昧なことです。日本は80年代に米国との半導体摩擦の経験から、米国は国内産業保護のためにあらゆる手段をとることを知っています。一方で、中国がAIや量子コンピューターなど、最先端技術で日米を凌駕するゲームチェンジャーとなる技術を獲得した場合、真っ先に自国の安全が脅かされるのは日本であることも厳然たる事実です。安易な解答がない中で、日本は自国の安全を担保する日米同盟と、日本の産業競争力強化の二兎を追いかけ、米国との協議と協力を続けていくことが最善の政策なのでしょう。
2022年6月17日 7:52

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鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
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分析・考察

アメリカの半導体や新興技術をめぐる問題は、一方で対中政策の一環として位置づけられるが、他方で自国産業の保護という性格を持つ。この両者をつなぐカギは「アメリカの技術覇権」というキーワード。しかし、アメリカは既に国内に産業(製造業)を維持することが出来ず、保護主義的な政策をとっても保護すべき産業がない。TSMCの工場を誘致したが、その生産コストの高さで計画もうまく進んでいない。自由貿易には背を向けたアメリカだが、こうした産業の流出を止めようとすれば、今度は資本の動きを止めるしかないが、それはできない。アメリカの経済安全保障はまた裂き状態になっている。
2022年6月17日 9:16

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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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分析・考察

こうやってみると、民主党のバイデン政権はトランプ前政権とほとんど変わらない。焦りが分かるが、具体策はみえてこない。ファーウェイなどの中国企業を規制することと米国半導体企業の投資行動は別問題である。中国企業をいくらやっつけても、米国企業が必ずしも米国に戻らない。まず、なぜ米国半導体企業がアジアに出て行っているかを分析しないといけない。市場はアジアにあり、供給網がアジアに集中している。むりやり供給網をアジアに戻そうとしても、企業は応じない。なぜならば物流コストが高くなるからである。今起きていることは中国から供給網が部分的に分散することである。アメリカに戻らない
2022年6月17日 8:07 』