円安下の通貨政策は 榊原英資氏「介入は米国同意せず」

円安下の通貨政策は 榊原英資氏「介入は米国同意せず」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA168DH0W2A610C2000000/

『外国為替市場で円安・ドル高が急速に進んでいる。政府・日銀はアジア通貨危機に見舞われた1998年を最後に、円安を阻止する円買い・ドル売りの為替介入を実施していない。その最後の介入から17日でちょうど24年がたつ。当時、財務官だった榊原英資氏と、BNPパリバ証券の河野龍太郎氏に通貨政策のあり方を聞いた。(聞き手は江渕智弘)

榊原氏「円安、日本売りではない」

――今の円安をどうみますか。

「米欧と日本の金融政策の差によるものだ。日本売りで円安になっているのではない。その意味では悪い円安でない。1ドル=140~150円まで進むというのがマーケットの一般的な見方だ。150円でも理由がはっきりしているから、危機的な状況だとは思わない。金融政策を変えれば円高に転じる。極度に心配する必要はない」
元財務官の榊原英資氏

――円安は日本経済にプラスですか。

「円安にメリットがあるという時代は終わった。日本企業は海外にどんどん進出している。海外で活動する企業には円高がプラス。『強いドルは米国の国益』と語ったロバート・ルービン元米財務長官にならえば『強い円は日本の国益』という状況だ」

――円買い・ドル売り介入による円安抑制は正当化されますか。

「今は介入するような状況ではない。最後にドル売り介入をした1998年はアジア通貨危機や日本の金融機関の破綻などで危機的だった。そういう状況ではない」

「介入には米国の支持が要る。私が現役のころは『介入するぞ、支持してくれ』と伝えて、少なくとも『反対しない』という了解を取った。インフレ抑制にドル高を歓迎する今の米国は同意しない。ということは介入できない。日本の単独介入でも米国の支持は必要だ。もちろん異常な値動きなど状況次第で米国が同意することもある」

――98年より為替市場の規模が拡大しています。

「当時より相当大量に介入しないと効かない。ドル買い介入ならいくらでもできるが、外貨準備を使うドル売り介入は限界がある。円安阻止は難しい。私もドル売り介入で外貨準備の10分の1くらいを使い『これ以上できない』と思ったことがある」

「円安を招く金融政策と円安阻止の介入をするのはちぐはぐだ。円高に持っていきたければ金融引き締めに入ることだろう。2023年夏以降、あり得ると思っている」

河野氏「為替安定の金融政策を」

――為替相場の見通しは。

「円安・ドル高傾向は簡単に変わらない。米連邦準備理事会(FRB)の利上げで住宅投資や耐久財消費は抑えられても、金利の影響の小さいサービス消費の堅調は続く。米国のインフレは収まりにくく、当面は米長期金利の上昇でドル高が進む」

「低金利と同じく円安が景気を刺激するのは事実だ。ただ、輸入物価の上昇で家計の負担は増している。消費がなかなか回復しない原因のひとつになっている」
BNPパリバ証券の河野龍太郎氏

――生産の海外移管で企業の利点も薄れています。

「円安にメリットがあるという発想の企業はもう多くない。リスクに対して分散型のサプライチェーン(供給網)が重要性を増した。世界の消費地の近くで生産する流れが強まるため利点はさらに薄れる」

――円安でも企業投資は盛り上がりを欠いています。

「ゼロ金利を続ける日銀には利下げ余地がない。将来、世界経済の減速で米国などが利下げすれば円高になる。輸出企業が懸念するのは、景気減速のなかで円高に直面する事態だ。利益が膨らんでいる円安の今も設備投資や賃上げに慎重になっている」

「安倍晋三政権の経済政策『アベノミクス』以降、景気が悪くないときも金融緩和を続けてきた。それによって、ゼロ金利や超円安がなければ、収益を上げられない企業が増えたことも実質賃金や潜在成長率の低迷につながっている」

――金融政策を見直すべきでしょうか。

「企業と家計が欲するのは為替レートの安定であって、極端な円安を助長する政策は望ましくない。物価上昇率が安定的に2%に達しないかぎり緩和を続けるという発想はやめたほうがいい。望ましいインフレ率は国によって違う。日銀はそろそろ政策を転換すべきだ。金融緩和や財政出動が足りないから経済が成長しないわけではない」』