[FT]中国各社のクラウド事業が不振 景気減速が背景

[FT]中国各社のクラウド事業が不振 景気減速が背景
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『今から1年少し前、中国の電子商取引(EC)最大手アリババ集団に独占禁止法違反の疑いで捜査の手が入り、創業者である馬雲(ジャック・マー)氏は政治的圧力にさらされていた。同社の最高財務責任者(CFO)の武衛(マギー・ウー)氏は当時、急激に拡大し、文句の付けようのないクラウド事業を投資家に宣伝していた。
アリババやテンセントなど中国勢のクラウド事業は、米国企業と比べて成長力や収益性で見劣りする=ロイター

フィナンシャル・タイムズ(FT)が入手した記録によれば、同氏は2021年2月に米金融大手ゴールドマン・サックス主催の会議に出席した際、「中国は10年後に世界一の経済大国へと躍進する見通しであり、企業や数百万もの事業者がクラウドに移行するだろう」と語った。

同氏は傘下のクラウドサービス「阿里雲(アリクラウド)」について前年比50%の成長率を維持できるとの見解を示したが、その予想は楽観的過ぎたようだ。現在、同社のクラウドコンピューティング部門は伸び悩み、22年第1四半期の売上高成長率は前年同期比でわずか12%にとどまっている。また最大のライバルである中国ネットサービス大手の騰訊控股(テンセント)は第1四半期のクラウド部門の事業成績が前年同期を下回ったと発表した。

クラウド事業の不振は、中国のIT大手がいかに業績の立て直しに苦戦しているかを物語る。規制当局による締め付けや、新型コロナウイルス感染の厳格な封じ込め策によって国土の大半で商業活動が停止したことなどを背景に、景気が減速していることが重荷となっている。

米IT(情報技術)大手アマゾン・ドット・コムのクラウド事業であるアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)が同社に革新をもたらし、米マイクロソフトの事業が同社のクラウドサービス「Azure(アジュール)」によって補強されたように、中国のテック集団もクラウドコンピューティングの導入によって変革を遂げるのではないかと期待されていた。だがその期待は業績の低迷によって打ち砕かれた。

中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)など政府から政治的に有利なはからいを受けるベンダー企業や、中国電信(チャイナテレコム)が運営する天翼クラウドなど国が支援する通信会社、および国策半導体大手である紫光集団との競争も圧力となっている。
米国とは構造が異なる中国クラウド市場

米IT業界とは異なり、アリババ集団のクラウド事業の伸び率は過去12カ月で大きく鈍化し、黒字に転換したのは最近のことだ。一方、テンセントは成長率の最大化を目指す方針から収益性を追求する方針へとシフトした。

減速の謎を解くカギの一つは中国クラウド市場の構造にある。中国ではクラウド市場の約6割をパブリッククラウドが占め、アリババ集団とテンセントが2大プロバイダーとなっている。

パブリッククラウドでは複数の企業がベンダーのプラットフォームを共有する。米国ではパブリッククラウドが主流のため、単に「クラウド」といえばパブリッククラウドを指し、アマゾン、マイクロソフト、グーグルが同セクターの大きなシェアを占めている。

しかし政府系シンクタンクである中国情報通信研究院によると、中国ではプライベートクラウドが市場の4割を占めている。これは専用の、往々にして高度にカスタマイズされたコンピューティング資源をユーザー企業に提供するものだ。顧客には大規模な国有企業や政府系機関などが含まれる。主なベンダーはファーウェイ、国有プロバイダー、そしてアリババ集団である。

パブリッククラウドのエンドユーザーの約半数はインターネット企業であるため、中国政府がテック企業への取り締まりを強化した際、アリババ集団やテンセントのクラウド事業はそのあおりを受けることになった。アリババ集団は、中国政府によって事業モデルを禁止された教育テック企業や、規則が厳格化されたオンライン・エンターテインメント企業の利用が減少したことを明らかにしている。

規制改正を背景に、ベンチャー・キャピタリストも消費者向けインターネット企業に背を向け始めた。アリババ集団のクラウド部門に詳しいある人物は、「今年に入り、社員数100人に満たない多くの中小インターネット企業が廃業した」と指摘し、「クラウドの主要ユーザーであるこれらの企業が撤退すれば、我々にとって痛手となる」と語った。
クラウド市場全体の飽和を指摘する見方も

市場調査会社カナリスのリサーチ・アナリストであるイー・チャン氏は、パブリッククラウド市場での競争の激化と需要の減速を背景に、クラウドベンダーの経営は一段と厳しさを増していると説明する。「クラウド市場全体が飽和しつつある」と同氏は話す。

22年3月31日までの12カ月間でのアリクラウドの成長率は失速し、売上高は750億元(約1兆5000億円)と前年を23%上回ったものの、営業損失50億元を計上した。対照的にアマゾンのクラウド収益は同期間中に38%増加し、売上高670億ドル(約9兆円)に対して210億ドルの営業利益を計上した。

藍蓮花資本顧問(ブルー・ロータス・キャピタル・アドバイザーズ)のマネジングディレクターを務める楊肖恩氏は、「アリババ集団にとってクラウドは電子商取引に次いで2番目に重要な事業であるため、この減速は気がかりだ」との見方を示す。「同社は主要顧客である北京字節跳動科技(バイトダンス)の動画投稿アプリTikTok(ティックトック)がアリクラウドの利用を停止したことが原因だと主張しているが、それだけが理由でないことは明白だ」

アリババ集団の張勇(ダニエル・チャン)会長兼最高経営責任者(CEO)は先月、業績不振の理由として、ティックトック関連の契約終了のほか、新型コロナの感染拡大によるプロジェクトの遅れ、景気の低迷、さらにインターネット企業からの需要低下を挙げた一方で、成長の鈍化は一時的にすぎないと強調した。「他の業種のデジタル化はまだ始まったばかりであり、チャンスは豊富にある」

だがアナリストらは、アリババ集団やテンセントは少なくとも当面の間、構造的問題や競争激化に悩まされるだろうと指摘する。

調査会社ガートナーのシニアリサーチディレクターを務める曾劭清氏は、「パブリッククラウドを使いたがるのは中小企業だけだ」との見方を示す。大企業は「パブリッククラウドのプロバイダーを信用しておらず、セキュリティーと全体的なデータ環境を自身で管理したいと考えている」という。
中国政府の方針も市場動向に影響

バーンスタインの中国ソフトウエア業界担当シニアアナリストであるボリス・バン氏も、中国政府が21年にサイバーセキュリティーとデータ保護に関する政策を相次いで打ち出したことが、より多くの企業がプライベート・クラウドコンピューティングを選択するきっかけになったとみている。「企業は自社のデータ環境の管理を強化することを望んでいる」と同氏は言う。

他方テンセントは、クラウドインフラの割引価格での提供や、高度にカスタマイズされたプロジェクトなど、第1四半期の売上高減少の原因となった赤字のサービスから撤退する意向を示した。

同社のジェームズ・ミッチェル最高戦略責任者(CSO)は、多くのクラウドベンダーはITコンサルティング企業のように「高コストのソリューション」を提供していると述べた。同氏は先月、投資家に対する説明の中で、「資金が無限にあるならそれでも構わないが、実のところ持続することは不可能だ」との見解を示した。

バーンスタインの中国インターネット担当アナリストである朱鑌氏は、通信会社やファーウェイとの競争が強まったことを踏まえ、テンセントとアリババ集団は付加価値の低いプライベートクラウド事業から距離を置きつつあると言う。「両社はより利益率の高いクラウドサービスに力を入れており、今後数四半期は成長率が低下すると予想される」

FTが最近の公共調達契約を調査したところ、政府との契約に数十社のベンダーが入札していることがわかった。湖南省長沙市など、入札なしでファーウェイとの契約を更新している地方自治体の政府はいくつかあったが、アリババ集団またはテンセントと自動的に契約を結んだ地方自治体の数はそれを下回った。

アリババ集団の地元である浙江省のある政府職員によると、同社は過去に政府から多くの契約を受注していた。しかし創業者の馬氏は、20年に上海で講演した際、中国の規制に批判的な発言をし、政治的に越えてはならない一線を越えてしまった。

「アリババ集団が習近平(シー・ジンピン)国家主席の意にそぐわなくなったことで、良好な関係の時代は終わりを告げた」と同職員は言う。「最近では天翼のように国が支援する、政治的な安定度がより高いとされるクラウドサービスに傾きつつある。この傾向は今後数年間は続くだろう」

By Ryan McMorrow, Sun Yu and Tabby Kinder

(2022年6月14日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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