何に使うの?突如掲げた脱炭素への新国債20兆円

何に使うの?突如掲げた脱炭素への新国債20兆円
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/26966

『脱炭素社会の実現に向けた産業振興のため、岸田文雄首相が新たな国債「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債(仮称)」を発行する方針を表明した。20兆円規模の資金を確保して民間資金を呼び込むとしているが、GX推進を話し合う委員からは「全く議論されていない数字」という声も聞こえてくる。実際、GXとは何で、いかなる事業に多額な予算がつぎ込まれるのか。経済産業省のグリーントランスフォーメーション推進小委員会の資料や新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画(案)を基に紐解いてみたい。
(metamorworks/gettyimages)
突如出てきた「20兆円」という数字

 政府は、脱炭素社会を進めるために今後10年間で官民合わせて150兆円の投資が必要であると試算。これに対し、岸田首相は5月19日に首相官邸で開かれた「クリーンエネルギー戦略」に関する有識者懇談会で「20兆円ともいわれている必要な政府資金をGX経済公債、これは仮称ではありますが、これを先行して調達し、速やかに投資支援に回していくことと一体で検討してまいります」と明らかにした。

 脱炭素に移行するための投資といった使い道を限定する国債を発行し、必要とされる150兆円の一部を補填するとともに、民間投資の呼び水としている。今年夏にGX実行会議を設置し、議論を深めていく方針という。

 官民一体となって脱炭素という目標にまい進していくものと見えるが、この20兆円という数字について経済産業省のグリーントランスフォーメーション推進小委員会の1人は「議論してできあがった数字のように発表されているが、委員会では議論すらされていない。20兆円という数字を見て驚いた」と話す。実際、同じタイミングでまとめられた「クリーンエネルギー戦略 中間整理」では、10年間で150兆円の投資が必要であることは盛り込まれているものの、「脱炭素投資の一部を支援」と記載してあるのみで、「20兆円」いう数字は見られない。
(出所)クリーンエネルギー戦略 中間整理  写真を拡大』

『岸田首相がGX経済移行債を発表する2日前、日本経済団体連合会(経団連)が提言書「グリーントランスフォーメーション(GX)に向けて」を発表し、「政府は、民間の継続的な投資を促すため、自ら中長期の財政支出にコミットすべきである」と指摘。欧米の投資事例を紹介し、「日本で必要となる政府負担額を、世界に占める各国の二酸化炭素(CO²)排出量割合(米国=約 14%、欧州連合(EU)=約9%、日本=約3%)に基づき機械的に計算すると、年平均で約2兆円程度となる」とし、「財源については、カーボンニュートラル(CN)に向けたトランジション及びイノベーションに関する技術の開発・社会実装に使途を限定した国債「GXボンド」の発行等で賄うべきである」と述べている。この一致を不思議に思うのは筆者だけではないだろう。
そもそもGXって?

 委員会で議論がなされていないのならば、何のための20兆円だかが見えてなくなってしまう。

 たしかに、世界各国では、脱炭素に向けた投資がなされている。「クリーンエネルギー戦略 中間整理」によると、米国が超党派のインフラ法案の中で5年間に約70兆円、EUが10年間に官民協調で約136兆円、ドイツが約7兆円のグリーン分野の景気刺激策、英国が2030年までに政府支出約4.2兆円と誘発民間投資約14.6兆円、韓国が5年間でグリーン分野に約4.3兆円の公共投資、をそれぞれ掲げている。

 こうした世界の動きは国債の発行の根拠となり得るが、他がやっているからと言って進めるべきということにはならないだろうし、世界で巨額の資金が動いているからこそ日本として何をやるか示さないといけないのではないだろうか。それがいつか返さないといけない国の借金を使うとならばなおさらだ。

 そもそもGXとは、何をすることなのだろうか。「トランスフォーメーション」は「変化、変換」といった意味なのだが、クリーンエネルギー戦略の中間整理ではGXという転換について「産業革命以来の化石燃料中心の経済・社会、産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させるもの。また、この大転換に向け、世界規模で、先に新しい市場・ルールを作ったところが勝ち残る先行投資者優位の大競争が既に始まっている」と位置付けている。
 実は、このGXは、岸田首相が掲げる「新しい資本主義」にも大きく関わる。5月末に発表した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画(案)」では、重点投資の対象として、「人への投資と分配」「科学技術・イノベーションへの重点的投資」「スタートアップの起業加速及びオープンイノベーションの推進」に並ぶものとして、「GX及びDX(デジタル・トランスフォーメーション)への投資」が挙げられている。』

『手段のみしか見えてこない戦略

 では、どのように実現するのかという部分だが、クリーンエネルギー戦略の中間整理は「5本の柱」を示している。それは、①予算措置、②規制・制度的措置、③金融パッケージ、④GXリーグの段階的発展、⑤グローバル戦略(アジア・ゼロエミ共同体構想等)である。④のGXリーグとは、経産省が旗振り役となり、日本を代表する企業が手を取り合い未来像や市場の創造、ルールメイクを議論しながらCO₂の削減などを進めていくもの。したがって、5本の柱はすべて、〝手段〟でしかなく、中身が見えていないのだ。

 新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画においても、この「5本の柱」が掲げられている。具体的な取り組み例として、「水素・アンモニア」「洋上風力等の再生可能エネルギー」「CCS(CO₂回収・貯留)」「カーボンリサイクル」「自動車」「住宅・建築物」「省電力性能に優れた半導体」「蓄電池」「その他産業部門の脱炭素化」「地域・くらしの脱炭素化」と多岐にわたっているが、ここにも国としての方針は示されていない。

 投資するという場合には、「目的のために必要なものは何で、それをするためにはこれだけのお金がかかるが、達成できれば投資額以上のメリットを出せる」という考えを持ち、検討するのが正しいやり方ではないのだろうか。金額とやり方だけをまず決めるというのは疑問でしかない。これが新しい資本主義の目玉の一つとなっているのならば、「数合わせの議論」にだけはなって欲しくない。』

https://note.com/wedge_op/m/me1dfc8d145ee