タイ連立に不協和音、処遇に不満 野党は不信任案提出へ

タイ連立に不協和音、処遇に不満 野党は不信任案提出へ
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『【バンコク=村松洋兵】タイのプラユット首相は正式就任から3年がたち、求心力の低下が目立ってきた。野党は近く「経済対策の失敗」などを理由に、下院へプラユット氏の不信任決議案を提出する見通しだ。採決では18政党でつくる連立与党から処遇に不満を持つ40人程度が造反する可能性がある。次の総選挙(下院選)を1年以内に控え、政局に流動化の兆しが出てきた。

「目の前にある仕事に集中し、4年間の任期を全うする」。国軍出身のプラユット氏は7日、記者団から2023年3月の首相任期の満了後も続投する意思があるか問われ、こう答えた。

タクシン元首相派の「タイ貢献党」を中心とする野党は、下院(定数500、欠員16)への不信任案の提出を準備している。理由は「経済対策の失敗、政権内の汚職、権力の乱用」などだ。

欠員を除き過半数の243人が賛成すれば可決され、プラユット氏は辞職か下院解散・総選挙の実施を迫られる。現在の下院の勢力は親軍政党を軸とする連立与党が275議席、野党が209議席なので、順当ならば不信任案は否決される。だが、与党の一部が造反するとの見方も浮上してきた。

鍵を握るのは連立与党のなかの有力政治家、タマナット氏だ。同氏が率いる「タイ経済党」の17人だけでなく、処遇に不満を抱えるほかの政党の議員を含め、40人前後の議員に影響力を持つといわれる。仮に連立与党から少なくとも34人が造反し、野党と一緒に賛成すれば不信任案は可決される。プラユット政権は退陣か下院解散・総選挙か、決断を迫られる。

タマナット氏は、いまの最大与党で親軍の「国民国家の力党」でナンバー2の幹事長を務めていた。だが、21年9月の首相不信任案の採決で造反を企て、可決に失敗したうえ、同党を追われた。その後、タイ経済党を立ち上げ、連立に加わったが、プラユット氏に対しては遺恨があるといわれている。

プラユット氏は陸軍司令官だった14年に軍事クーデターを主導して暫定首相に就任。19年3月の総選挙を経て同年6月に正式な首相になった。憲法の規定では遅くとも23年5月までに次期総選挙が実施される。

総選挙の前哨戦と位置づけられた5月のバンコクの知事選と議会選では、いずれも親軍派の候補が大敗した。経済回復の遅れや、民主化運動への厳しい取り締まりを巡る不満が背景にある。タマサート大(タイ)のプラジャク・コンキラティ准教授(政治学)は「プラユット氏は(バンコクにおける2つの選挙の結果で)難しい立場に追い込まれた」と指摘する。

11月にはバンコクでアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議が予定される。プラユット氏は議長として会議を仕切り、政治基盤を強化する構えだ。だが、「仮に近く提出される見通しの不信任案の否決に成功しても、APEC首脳会議後にはプラユット氏に勇退を求める動きが連立政権の内部で強まる」とみる外交関係者もいる。「プラユット氏では次の総選挙で苦戦する」との見立てだ。

プラユット氏が巻き返しのため、強権を発動する可能性はある。過去には国軍の影響下にある憲法裁判所を通じ、有力野党を解党に追い込んだ。14年のクーデター後、民政復帰に向けた総選挙は延期を繰り返し、親軍政党の勝機をうかがった。』