WTO、危機下で分断鮮明 物流や食料など利害対立

WTO、危機下で分断鮮明 物流や食料など利害対立
ウクライナ「ロシアは飢餓のゲーム」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR10DFG0Q2A610C2000000/

『【ジュネーブ=細川倫太郎】世界貿易機関(WTO)の閣僚会議が12日、スイス・ジュネーブで開幕した。ロシアのウクライナ侵攻による物流停滞や食料不足など、新型コロナウイルス禍からの回復途上で新たな危機に直面する世界貿易の突破口を見いだせるか。WTOの存在意義が問われる。

新型コロナの感染拡大で延期が続き、約4年半ぶりの開催となった。「食料やエネルギー問題などこれだけの危機が同時多発的に起きるのは前例がない」。WTOのオコンジョイウェアラ事務局長は記者会見で強調した。その後の開幕演説では、今こそWTOが国際社会に貢献できると示すときだと呼びかけた。

会議は初日からウクライナ問題で揺れた。WTOに加盟する56の有志国・地域は12日、ウクライナ支援で連帯を表明する共同声明を発表した。破滅的な被害に「深い悲しみ」を表明、ロシアによるウクライナ産穀物の略奪などは「WTOの原則と価値観に反する」と非難した。報道によるとウクライナの通商代表はロシアは「飢餓のゲーム」をしていると強調した。

一方、共同声明に加わったのはWTOの全加盟国・地域の3分の1程度にとどまった。米欧の対ロ制裁に反対する中国やロシアと伝統的に友好関係にあるインドなどは入っておらず、WTO内の分断もあらわになった。

食料危機への対応は会議の主要議題になる。黒海の港が封鎖され、ウクライナ産の穀物や植物油の輸出が滞っている。自国民向けに確保するため、インドやマレーシアなど食料の輸出を規制する国が相次ぐ。世界食糧計画(WFP)が人道支援で調達する食料は規制の対象外にすることなどを協議する見通しだ。

乱獲につながる漁業補助金の廃止や新型コロナワクチンの特許の一時放棄、加盟国同士の貿易紛争を解決する制度の立て直しなどについても議論する。ただ、それぞれのテーマで各国の立場には溝があり、交渉がまとまるかは不透明感が強い。

WTOの意思決定には全164カ国・地域の同意が必要だ。先進国と途上国の利害が頻繁に対立し、2001年に始まった多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)は漂流を続けている。「何も決められないWTOに対する通商関係者の危機感はかつてなく強い」(ジュネーブ外交筋)。会議に参加した細田健一・経済産業副大臣は12日、記者団に全会一致のルールについて「再検討の余地がある」と述べた。

侵攻はサプライチェーン(供給網)などの混乱を引き起こし、世界貿易に大きな打撃を与えた。WTOは4月に22年の世界のモノの貿易量は前年比3.0%増にとどまるとの見通しを発表し、従来予想(4.7%増)から下方修正した。

米欧や日本はロシアに厳しい貿易制裁を科し、半導体や工作機械の輸出を停止した。オランダ経済政策分析局(CPB)によると、東欧とロシアを中心とする独立国家共同体(CIS)の3月の輸入量は前月に比べ約16%減と、地域別の減少率は最も大きくなった。

米エール大の調査では、侵攻後にロシア事業の撤退や縮小を表明した外資系企業は1000社を超え、物流が一段と鈍るのは避けられない。

米国第一主義を掲げたトランプ前米政権は中国に対する制裁関税などの措置を連発したが、バイデン政権でも保護主義は続く。日韓やインドなどと立ち上げた新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」は、関税撤廃など貿易自由化の措置は含まれていない。ブロック経済化が進み、WTOの形骸化が加速する恐れもある。
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Nikkei Asia https://asia.nikkei.com/Politics/International-relations/Faced-with-wartime-crises-WTO-struggles-to-remain-relevant?n_cid=DSBNNAR 

WTOとは 貿易自由化のルール策定

物品やサービスの貿易自由化のルールを定めたり、国同士の貿易上の争いごとを解決に導いたりする役割を担う国際機関。164カ国・地域と、参加者が多いのが特徴だ。近年は先進国と途上国の意見が対立することが多く、加盟国の全会一致でルールを作る原則もあり、十分に役割を発揮できていないとの指摘がある。

保護主義が第2次世界大戦につながったという反省から、1948年に暫定的な組織として発足した関税貿易一般協定(GATT)体制がWTOの前身だ。WTOは「World Trade Organization」の頭文字で、95年に発足し、本部はスイスのジュネーブにある。

近年は意見の対立が目立ち、機能不全に陥っているとの指摘が多い。各国・地域はWTOでの貿易ルール策定が進まないこともあり、環太平洋経済連携協定(TPP)など、個別の国・地域のルール作りを進める傾向にある。

紛争解決制度も2年半にわたって機能が止まっている。WTOへの批判を強めたトランプ前米政権が、同制度の最終審にあたる上級委員会への委員補充を止めたためだ。紛争手続きへの持ち込み件数は2021年に9件と、過去最少の水準だ。

こうした状況を受け、全会一致にこだわらず、志を同じくする国々でルール作りを目指す動きが活発になってきた。17年に開いたWTO閣僚会議では、電子商取引やサービス業の許認可など4つの分野でそれぞれ有志国が集まりルール作りを始めた。

電子商取引のルールづくりを進める日本などの共同議長国は13日までに、声明を公表し、早期の合意に向け交渉を加速させることを確認した。ロシアを含めた計86カ国・地域の有志国などがデータの自由な流通に向け議論を進めているが、交渉遅れが懸念されている。デジタル分野で途上国を支援する枠組みを創設することにも触れた。
(金子冴月) 』