[FT]アルゼンチン、小麦生産減少 輸出制限より厳しく

[FT]アルゼンチン、小麦生産減少 輸出制限より厳しく
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB141AU0U2A610C2000000/

『ウクライナ紛争が世界的な食料危機を引き起こし、小麦価格が高騰している。ところが世界有数の農業大国アルゼンチンで、小麦を栽培するアイマール・ディーモさんは作付面積を減らしている。
アルゼンチン産小麦の輸出枠は削減されており、農家の作付け面積も減少するとの見方が支配的だ=ロイター

「生産者として責任を感じている。危機を救う方向へ動くのが私の仕事であるはずだ」。北東部サンタフェ州ルフィーノで1500ヘクタールの農地で耕作するディーモさんは言う。「私たちがこれまで以上に世界から必要とされ、世界に対して売るべき時であるのに、私たちは確信を持てず、奨励策もない」

アルゼンチンは2021年、過去最高となる2180万トンの小麦を生産した。ウクライナは2500万トンだ。アルゼンチンのフェルナンデス大統領は5月、需要に対する「またとない」機会を生かすと明言した。だが国内の農家は、5~8月の作付けシーズンが進む中で次々に障害に直面していると訴える。

その最たるものが、フェルナンデス氏率いる左派の正義党(ペロン党)政権による厳格な輸出枠の設定で、政権は3月、国内供給を増やすために輸出枠をさらに削減した。農家側は、同氏の5月の宣言に逆行すると批判する。「政府は生産を奨励して私たちを楽にしようとするのではなく、邪魔をしている」と中部コルドバ近郊で小麦を栽培するウーゴ・ギーオさんは不満を漏らす。

ウクライナ紛争が供給に打撃を及ぼし、経済不振のアルゼンチンで物価が急上昇する中、燃料や肥料など農業資材の価格も急騰。その一方で政府は最近、税率12%の小麦輸出税の引き上げと、企業の「想定外の利益」に対する新税の導入について検討していることを明らかにした。専門家らは、1次産品を輸出する農家などに影響を及ぼすものとみている。
輸出制限下で海外出荷がさらに減少

輸出制限の下で、アルゼンチンは22~23年度に1000万トンしか小麦を海外に出荷できない。21~22年度は1450万トンだった。

首都ブエノスアイレスにある穀物コンサルティング会社ノビタスのエンリケ・エリーセ社長は、輸出枠を減らすという政府の「ひどい」決定により、世界は激減したウクライナの小麦輸出の穴埋めについて「アルゼンチンに何ら期待すべきでなくなった」と話す。

アルゼンチンの農家は、国内の供給と価格を維持するために過去に輸出を禁じられたことがある。専門家らは22年にそうした動きがあることは考えにくいとしながらも、その可能性を排除していない。

アルゼンチンは近年、平均して年間1200万~1300万トンをアジアや北アフリカ、他の中南米諸国に輸出している。中南米ではブラジルが最大の輸出先で、年間600万トンを購入している。アルゼンチンは南半球で数少ない生産大国の一つでもあり、その小麦は年後半に市場に出回るため、北半球産が販売された後で需要を満たすのに役立つ。

だが、ディーモさんは他の農家と同様、22年の作付けは前年を「大きく下回る」ことになりそうだという。
経済不振が農家にも影響

農家はアルゼンチンの経済不振による打撃も受けている。国際通貨基金(IMF)による過去最大規模の救済が暗礁に乗り上げた19年以降、アルゼンチンは国際金融市場での資金調達がほとんどできなくなり、政府は紙幣増刷による赤字の穴埋めに走ってインフレを招いた。4月時点での今年のインフレ率見通しは年率65%を超えた。

ほぼ2年間にわたる交渉を経て、IMF理事会は3月、アルゼンチンに対する440億ドル(約5兆9000億円)規模の債務再編を承認した。同国政府が融資条件を守り、これ以外の追加的な資金調達ができるかどうかはまだわからないと専門家はみている。

その一方で、アルゼンチン・カトリック大学の社会負債調査研究所の報告書によると、アルゼンチンの今年の貧困率は人口の43%近くに達している。フェルナンデス氏の大統領就任時には35%だった。この状況を受けてパンや小麦粉など一連の必需品の価格が凍結され、穀物生産農家は国内市場で得られる収入が減っている。

ブエノスアイレス穀物取引所(BCBA)のチーフエコノミスト、アグスティン・テヘーダ氏によると、小麦農家はすでにヒマワリや大麦などに転作している。そうした作物はアルゼンチン国内で小麦ほど広く消費されておらず、従って国の介入を受けるリスクが低いと見なされている。栽培に必要な肥料と水の量も少なく、より安く生産できるとテヘダ氏は指摘する。
作付面積を見直す農家も

農家側によると、今期の小麦収穫までの総費用は40%増だという。その一方で、為替レートの大きなゆがみが人件費と物流費にさらに重くのしかかっている。

化学肥料の値上がりを受けて、ギーオさんは6月の小麦の作付面積を考え直した。「私たちには肥料が最大の費用だ。今のところ肥料は十分にあるが、どれだけ使うかはまだわからない」

すでに一部の農家は肥料の使用量を適正水準以下に減らしており、作柄に響く恐れがあるとテヘダ氏は警鐘を鳴らす。

肥料価格の安定や制限の緩和があった場合でも、2月まで深刻な干ばつが続いたアルゼンチンでは天候がもう一つの重大な問題になるとギーオさんは懸念を示す。「畑の土壌に十分な水分がない。秋に乾燥したので、水が十分にないようなら作付けしない」

サンタフェ州のディーモさんは、アルゼンチンは世界の穀物不足の解消に向けて「あらゆる手を尽くす」べきだと話し、こう付け加えた。「それが食料生産国としての私たちの責務だ」

By Lucinda Elliott

(2022年6月13日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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