京阪神「バレー」構築 京大など41機関、起業数2倍狙う

京阪神「バレー」構築 京大など41機関、起業数2倍狙う
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『京阪神エリアの産学官が一丸となり、スタートアップの創出に弾みをつける。京都大や関西経済連合会、関西広域連合など41機関が参画する支援組織は9月にも、経営候補人材と大学の研究者をマッチングする新たな枠組みを本格稼働させる。京都のバイオや大阪のものづくり、神戸の医療機器といった各地域の強みを生かし、スタートアップが集積する新たな「バレー」の構築を目指す。

起業支援組織「京阪神スタートアップアカデミア・コアリション(KSAC)」が旗振り役を担う。主要な大学や経済団体、自治体、金融機関などが集まり、2021年秋に立ち上がった。20~24年度の5年間に、大学発スタートアップで従来の約2倍となる214社の創出を狙う。

活動の目玉の一つとして4月、起業を志望する人材と大学の研究者を仲介する枠組み「ECP-KANSAI」を立ち上げた。従来の人材マッチングは起業志望者が「起業のタネ」になる研究成果を探すことが多い。ECP-KANSAIでは各大学が音頭を取って研究者からも研究成果を売り込んでもらい、双方向のやり取りを起業につなげる点が特徴だ。

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KSACは経営候補者として500人程度に登録してもらう構想で、メーカーや金融機関などを行脚している。早ければ9月に、人材獲得のために活用されるストックオプション(株式購入権)の制度設計などを伝える研修も始める。現在は研修を手掛ける人材会社の選定を進めている。

機運醸成が課題

KSACが参考にしたのは京大系ベンチャーキャピタル(VC)、京都大学イノベーションキャピタル(京都iCAP、京都市)の取り組みだ。17年に双方向型の仲介プラットフォームを設立、京大発の技術をビジネスに結び付けてきた。

これまでの約5年間で18社の起業を実現した。核融合発電の世界的な研究者である京大の小西哲之特任教授らが設立した京都フュージョニアリング(京都府宇治市)もその一社だ。

京都iCAPに限らず、経済団体や自治体はそれぞれに起業支援に取り組んできた。産学官が集まった「関西イノベーションイニシアティブ」という支援組織もある。その中でKSACは企業の「創出」に重点を置き、京阪神全域で大規模に連携する動きになる。

京阪神にとって起業都市としての地位向上は喫緊の課題だ。20年7月、東京と愛知、福岡の3都市圏とともに、国がスタートアップを重点支援する「グローバル拠点都市」に選ばれた。だが、日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査では、京阪神のスタートアップの7割が制度や支援内容を「知らない」などと回答。機運醸成は盛り上がりを欠いてきた。

都市間競争も激しさを増している。スタートアップ情報データベースのイニシャルによると、京阪神のスタートアップの資金調達額は21年に計350億円。首位の東京(6531億円)の18分の1ほどの規模だ。大阪(前年比12%増の139億円)は4年ぶりに福岡(同43%増の144億円)に逆転された。

各地の強みを生かす

巻き返しのためには各地の特徴を生かすことがカギになる。京都はiPS細胞を中心とするバイオ系に強く、町工場が集まる大阪はものづくりスタートアップを下支えする環境が整う。人工島・ポートアイランドで医療産業都市をうたう神戸は医療機器開発を後押しする制度が充実している。

仮想現実(VR)を活用したストレスチェック技術を開発する大阪大発のニューラルポートは兵庫県西宮市に本社を構え、神戸市の支援プログラムを受けている。将来的には神戸市に移転したい考えだ。

島藤安奈社長は「ヘルスケア事業の支援が手厚く、医療機器の薬事承認を得る際の後押しも受けられる」と理由を説明する。製品の実用化に向け、神戸市から企業の紹介を受けるなど結び付きは強まっている。

優れた技術に京阪神それぞれの強みを組み合わせてスタートアップを創出し、その企業が地域に根付いて大きなビジネスを展開する。この循環がうまく回り出せば、新たな「バレー」の完成像が見えてくる。

(田村匠)』