ウクライナ浮沈握る世論 米欧「支援疲れ」武器供与左右

ウクライナ浮沈握る世論 米欧「支援疲れ」武器供与左右
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『開始から3カ月半となるロシア軍のウクライナ侵攻は、同国東部を中心に激しい攻防が続く。米欧の兵器提供が今後も続けばウクライナ軍の巻き返しが広がりそうだが、米欧の「支援疲れ」が顕在化すれば、軍隊の規模で勝るロシア軍が優勢に転ずる可能性もある。

「敵は火力で大きく上回り、ウクライナ軍を押している」。東部ルガンスク州のガイダイ州知事は13日、SNS(交流サイト)で訴えた。12日にはロシア軍が一両日中に全戦力を投入するとの見方を示し「今後2~3日が重要」と述べていた。

東部戦線のウクライナ軍は火砲や弾薬の数でロシア軍に大きく劣るとみられる。米欧メディアによると、ウクライナ軍の砲撃は1日5千~6千発なのに対し、ロシア軍は10倍の6万発に上る。

ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は13日「戦争を終わらせるには同等の重火器が必要だ」とツイッターに投稿し、15日の軍事支援会合でりゅう弾砲やロケット砲などの供与が決まることに期待を示した。

戦況のカギを握るのは米欧が支援する兵器だ。「緒戦でロシア軍があまりに相手を侮ってかかり、待ち構えていたウクライナ軍に撃退された。反撃の決め手は米欧から供与された兵器の質に尽きる」。日本の情報部局関係者は戦局をこう中間総括する。

ロシアのプーチン大統領は、米欧による補給を警戒している。ロシア軍は現地時間6月5日早朝、4月下旬以来となるウクライナの首都キーウへのミサイル攻撃を実施。この長距離攻撃は「これ以上補給を続けるなら攻撃の矛先をそちらにも向けるぞ」との米欧諸国への警告でもあった。

戦争が北大西洋条約機構(NATO)加盟国に広がる「第3次世界大戦リスク」は依然ある。そうなれば自国が戦場になる欧州諸国は気前よくウクライナに軍事物資を提供していられなくなる。

「世界の皆さん、今起きているこの戦争にどうか慣れないでください」。ウクライナのゼレンスキー大統領のオレナ夫人は米欧メディアなどのインタビューで訴えた。

ウクライナはロシア兵の蛮行を訴えるメディア戦術で米欧や日本などから支援を得て反攻につなげ、それに手応えを感じた各国からさらなる支援を引き出す好循環を実現してきた。ただ各国世論がウクライナの惨状に慣れてしまえば、支援継続はおぼつかない。

ロイター通信によると、カナダは5月下旬、韓国政府に対し155ミリりゅう弾砲の砲弾を供与するよう要請した。ウクライナ軍に大量供与した結果、カナダ軍の在庫が減り、砲弾を大量生産する能力を有する韓国に緊急補塡を求めたのだ。

ただ、北朝鮮は弾道ミサイル発射を繰り返し、米韓日との緊張が高まりつつある。韓国もカナダ軍の要請に二つ返事で応えられる状況ではない。

南シナ海など中国沿岸部で監視活動を続けるオーストラリア軍やカナダ軍の哨戒機に対し中国軍機が危険な行為をとるなど、緊張の種は朝鮮半島にとどまらない。北朝鮮や中国の軍事的動きは、結果としてアジア太平洋諸国からの対ウクライナ軍事支援にブレーキをかけている側面がある。

ロシア軍は現時点で占領している地域を維持できるのであれば、直ちに戦闘を停止したいのが本音だろう。8月を過ぎると東欧は短い秋を経て長く暗い冬へと向かう。戦闘条件は厳しくなり、ロシア側の士気は一段と落ちていく。

これに対し、ウクライナは現状での停戦には到底応じられない。ただ、米欧からウクライナ軍への補給が、開戦当初のような勢いを維持できるかどうかは予断を許さない。補給を軸に米欧ウクライナ陣営とロシア側の「我慢比べ」が続く。

(編集委員 高坂哲郎、イスタンブール=木寺もも子)

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前嶋和弘
上智大学総合グローバル学部 教授
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ひとこと解説

アメリカの各種世論を見ると、「ロシアという権威主義的政権の力づくの現状変更を許してはならない」という声が強いです。そのため、まだ「支援疲れ」という段階では到底ないと思います。ただ、インフレに続き、リセッションが同時にくるスタグフレーションとなってしまった場合、秋の中間選挙あたりやその後にアメリカ第一主義が復活してくる可能性もあります。

2022年6月14日 4:49

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ロッシェル・カップ
ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング 社長
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分析・考察

「支援疲れ」はまさにプーチンが待ち望んでいることです!それこそ、彼の思うつぼになります。
ウクライナ東部戦線がどうなるかは、ヨーロッパだけではなく全世界への影響も大きいはずです。ロシアがこの侵攻に成功したと思われるようになれば、他の国も隣国を侵攻してよいという青信号(ゴーサイン)が出たと受け取ってしまうでしょう。ウクライナへの支援を断固たる決意で続けるべきです!集中力が長く続かないという癖に負けてはいけません。
2022年6月14日 8:48

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岩間陽子
政策研究大学院大学 政策研究科 教授
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ひとこと解説

21世紀初頭の予測では、先進国同士の戦争は、情報や技術力で優勢に立った方が早期に決着できる短期戦になるかもしれないという見方もありました。しかし今回の戦争は、21世紀でも戦争は長期の消耗戦、物量戦になることを示しています。日本はどのタイプの戦争にも全く準備ができていません。防衛費増額は必須ですが、いかに無駄を省いて必要なところに資源を集中させるか。人に関しても、ドローンやAI等の導入で省けるところは徹底的に省力化しなければ、とても間に合いません。

2022年6月13日 23:30 』