米、対中投資に事前審査論 経済安保政策総仕上げ

米、対中投資に事前審査論 経済安保政策総仕上げ
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『中国での工場建設やM&A(合併・買収)に異議あり――。企業による外国での投資・経済活動を監視する制度導入の議論が米国で熱を帯びている。これまで米政府は外国からの対内投資を審査してきたが、対外投資にも事前審査の仕組みを設けようとしている。米経済安全保障政策は総仕上げの段階に入ってきた。

バイデン政権と与野党が今夏の成立をめざし、上下院が5月に一本化の作業を始めた「中国対抗法案」。半導体に520億ドル(約7兆円)を投じる補助金が目玉だが劇薬も盛られた。対外投資の審査制度だ。

米政府には省庁横断の対米外国投資委員会(CFIUS)が外国企業による対米投資を審査し、安保上の脅威とみなせば大統領が阻止できる制度がある。今回導入をめざすのは「逆CFIUS」といえる。

下院の法案によると、中国やロシアを念頭に「懸念のある国や団体」に生産や開発を移す場合、企業に事前届け出を求める。「国家の重要能力に許容できないリスク」とみなせば、大統領が投資の撤回や修正を命じる。

中国では、米テスラが上海に工場を建てるなど自動車やIT(情報技術)分野の投資が盛んだ。法案が成立すれば、中国に半導体工場を建てようとしたり、新興ハイテク企業に出資したりする動きに政府が待ったをかける事態が想定される。

審査の対象は半導体や医薬品、人工知能(AI)など先端技術や重要物資が候補となる。米国で事業を展開する日本企業も対象になり得る。

米政府・議会は技術流出を防ぐため様々な規制を取り入れてきたが、まだ不十分だとの認識だ。新型コロナウイルス禍やロシアのウクライナ侵攻を受け、サプライチェーン(供給網)を特定の国に頼るリスクも浮き彫りになった。

2018年に成立した国防権限法では、CFIUSの機能を強化した。「新興技術」の輸出も制限したが、米国の技術やマネーが中国の軍事力向上に使われているとの懸念は消えていない。

バイデン政権も対外投資審査に意欲を示す。レモンド商務長官は1日、日本経済新聞などの取材に、審査制度の法制化について「私も(バイデン)大統領も支持している」と明言した。

米産業界は猛反発する。案件にもよるが、企業は外国に投資するのにわざわざ政府のお墨付きが必要になる。米調査会社ロジウム・グループによると、00~19年の米国企業の対中直接投資2430億ドルのうち、45%が審査対象になる可能性があった。

経済団体は激しいロビー活動で法案の撤回や修正を迫る。ITの業界団体は5月、議会の与野党幹部に書簡を送り「(収益力が落ちて)米国経済の競争力や安保を最終的には損なう」と懸念を伝えた。

提案者のケーシー上院議員(民主党)は1日「(法案の最終版に)何らかの形で対外投資審査を盛り込みたい」と意欲を示した。米財務省は政府に事前に届けるだけで対象範囲も「機微な技術」に限る試行案をつくった。

法律事務所エイキン・ガンプ・ストラウス・ハワー・アンド・フェルドのクリスチャン・デイビス氏は「従来案の成立は難しいが、与野党の交渉を経て修正案が通る可能性がある。超党派の高い支持を考えれば(中国対抗法案から)切り離されても、最終的に議会を通りそうだ」と指摘する。

法案審議が長引けば、政府の独自実施シナリオも浮かぶ。政府関係者によると、大統領令も検討中だ。政権内では「技術流出の懸念は(従来の)輸出管理で対応できる」(政府高官)と慎重論もあり、議論が続いている。

経済のデカップリング(分断)はトランプ前政権下で進み、バイデン政権でも続く。制裁関税や輸出規制で輸出入を制限したほか、特定の中国企業への株式投資を禁じる大統領令も出した。対外投資も規制すれば、モノやカネの出入り口は厳しく管理される。

経済安保の重要性が高まるなか、企業が世界で自由に活動するグローバル化へ逆風はやまない。

(ワシントン=鳳山太成)

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