王毅外相の後任を巡り、中国共産党は大モメ 習近平体制は決して盤石ではない

王毅外相の後任を巡り、中国共産党は大モメ 習近平体制は決して盤石ではない
https://www.dailyshincho.jp/article/2022/06101250/?all=1

※ 今日は、こんなところで…。

『「習近平一強体制」……。秋の中国共産党大会を前に、日本メディアは一様にそう報じている。しかし、本当にそうだろうか。中国ウォッチャーたちはいま、ある人事の動きに注目をしている。外相の後任をめぐり、異例の事態が起きているのだ。【武田一顕 ジャーナリスト・映画監督】

【写真】“有力候補”とされていた楽玉成

 中国共産党は5年に一度、北京で党大会を開く。党大会では常に人事の大異動があるため、特に大きな注目を集めている。

 まず、党のトップである中国共産党総書記の人事。これまでは二期10年しか連投できないシステムで、習近平は今回の党大会で退陣するはずだった。

 しかしすでに報じられている通り、2018年、国家主席の任期を撤廃する憲法改正を行い、習は自身が11年目以降も君臨する道を開いた。今回も続投はほぼ確実だ。マッチョな権力者として君臨し続けようとする姿は、プーチンとも重なる。

 次に、常務委員の人事。党大会では、最高権力集団である中国共産党中央政治局常務委員会の委員=党首脳部の多くが入れ替わる。彼らはその人数によって、チャイナセブンやチャイナファイブと称される。これまでは、この時期になると主に香港紙から誰が常務委員に昇格するかの情報が少しずつ漏れ聞こえてきたが、今回は確たる情報がない。国家安全維持法の施行で香港のマスコミが萎縮しているというよりも、まだ本当に決まっていないのだろう。

 そんな中で注目すべきは、李克強首相の今後だ。現在は中国共産党ナンバーツーだが、秋になっても67歳の李は、定年制にひっかからない。今年3月全人代後の記者会見で、「首相として最後の会見」と明言した李だが、今後も常務委員として引き続き別の役職につくかどうかで、李を頂点とする中国最大の派閥・共産主義青年団の今後の影響力もわかるだろう。

 そして、冒頭に述べた中国ウォッチャーたちが今、最も注目しているのが、外交部長=外相の人事だ。現任は王毅外相だが、すでに就任から10年近く経っているため、退任する見込みとなっている。中国をはじめとする独裁国家では、軍や党中央の人事に比べて、外相の地位は決して高くない。一方で、対外的な露出度は圧倒的に多く、外国人記者が接触する機会も多い。つまり、地位は高くなくともイメージ戦略の上で最も重要な閣僚と言える。

 その王毅外相の後任人事をめぐって、中国共産党がぐらぐらと揺れている。』

『最有力候補をめぐる不可解な人事

 ここ数代の慣例に従えば、中国外交部の常務副部長、日本で言えば外務省筆頭次官(中国の各部すなわち各省には次官が複数いる)が最有力候補だ。現在は楽玉成という人物で、2月の北京冬季五輪の際行われた、習近平とロシアのプーチン大統領との首脳会談の後、記者団に「中ロ関係という急行列車に終点はない、ひたすら燃料をくべて進むだけだ」という趣旨を述べて海外メディアはこぞって取り上げていた。

 しかし、5月末。香港紙は、楽玉成が格下であるラジオテレビ総局の副局長に異動となると報じた。局とは日本で言えば「庁」に当たるイメージであり、次期外相と目されていた人物が格下官庁のナンバーツーに異動となれば、どう見ても左遷人事だ。

 台湾報道によると楽玉成の名前は一時、外交部のホームページから消えて、ラジオテレビ総局のホームページに載っていたという。ところが不可解なことが起きた。その後、外交部のホームページに常務副部長・筆頭次官として楽玉成の名前が復活したのだ。

 北京の消息筋によると、対米外交が緊迫し、対露外交でも行き詰まる中、党指導部の一部が楽玉成に責任を押し付け、詰め腹を切らせようとしたが、別の派閥からの反発に遭い、実行できなかったのではないかという観測も出ているそうだ。外交の大方針は党中央で決めるため、楽玉成に詰め腹というのは中国ウォッチャーからすると首を傾げたくなるが、そういう観測が出るほど不可解な人事ということが分かる。

 楽玉成は中国外交部内ではロシアンスクールに属していて、これまで在ロシア大使館でも二度勤務。カザフスタン大使も経験しており、目下ウクライナ戦争でロシアが世界情勢をかき乱している状況下では、外務省トップに適任だと思われていた。

 また、80年代初めから中国の外交部長は副部長経験者が就任しており、例外はない。官僚の世界は日本と同じで例外を極度に嫌うので、他所から関係ない人物を持ってくるというのは至難なことだ。前述の北京の外交筋も「楽玉成の外交部長の芽が消えたわけではない。彼の識見、経験、性格などは部長に適任」と語っていた。』

『習体制は不安定?

 人事は最後まで分からないので、往々にして混乱が起きるが、一強体制なら習近平の鶴の一声でこのレベルの人事は決まるはずだろう。このようにぐらついているのは、何を意味するのか? 筆者は、習体制は、日本のメディアが言うほど安定していないのではないかと推測している。プーチンに憧れ、北京五輪ではロシアとの紐帯を喧伝したが直後にロシアはウクライナに侵攻して、中国としては欧米諸国とロシアとの狭間に立たされた。アメリカとの関係は緊迫したままだ。マッチョな地盤固めに腐心してきたものの、肝心の足元では格下人事でどうもぐらついている……。

 異例の三期目に突入する習近平の権力は確かに強い。ただ何でも一人で決めきれるほど中国は小さい国ではなく、各派閥や利益集団のバランスに腐心しなければならない。建国の大指導者だった毛沢東でさえ、常にバランスに気を配っていたのだ。ましてや習近平が勝手なことばかりできるわけがない。私たちは、ウクライナ戦争でロシアの軍事力を過大評価し、本当の実力が見えなくなっていたことを思い出した方が良い。中国を、中国経済を、その軍事力を、そして習近平を過大評価してはいけない。もちろん過小評価もダメで常に客観的に見る努力が求められている。

武田一顕(たけだ・かずあき)
元TBS北京特派員。元TBSラジオ政治記者。国内政治の分析に定評があるほか、フェニックステレビでは中国人識者と中国語で論戦。中国の動向にも詳しい。初監督作品にドキュメンタリー映画「完黙 中村喜四郎~逮捕と選挙」。』