岸田首相、国際法・ルールの順守主張 国際会議で講演

岸田首相、国際法・ルールの順守主張 国際会議で講演
中国の動向念頭に批判
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA09AVT0Z00C22A6000000/

『【シンガポール=根本涼】岸田文雄首相は10日のアジア安全保障会議(シャングリラ会合)の講演で国際法やルールの順守を訴えた。中国を念頭に南・東シナ海などで現状変更の試みを批判した。ロシアによるウクライナ侵攻を「対岸の火事ではない」と指摘し、抑止力の重要性を提起した。

首相は講演の冒頭でウクライナ侵攻について「ここにお集まりのすべての方々、国々が『我が事』として受け止めるべき」と強調した。中国への名指しは避けつつ南・東シナ海でルールや国際法が順守されていないと問題視した。

「残念ながら人々の多様性や自由意志、人権を尊重しない動きも多くがこれらの地域でおこっている」とも言及した。中国の新疆ウイグル自治区でのウイグル族の人権問題などを想起させる一節だ。

首相はウクライナへの支援や対ロの経済制裁で米欧など民主主義国と歩調をあわせてきた。ロシアによるウクライナ侵攻と台湾有事を重ね、中国を抑止する基盤を形成しようとの狙いがある。

日本の首相によるシャングリラ会合での演説は2014年の安倍晋三氏に続く2人目だ。安倍氏は14年の演説で「積極的平和主義」を掲げた。中国の動きを踏まえて「南シナ海での行動規範を期待する」などと呼びかけた。

今回の首相の中国に関する言及は安倍氏よりも踏み込んだといえる。中国の覇権主義的な行動が進んでいるのを踏まえたものとみられる。

首相は防衛費の増額を事実上の「国際公約」にした。同時に戦後日本が歩んできた平和国家の姿勢は不変だとも説いた。

日本は防衛費について国内総生産(GDP)比1%を目安にしてきた。アジア諸国に向けて「軍事大国にはならない」とのメッセージを送ってきた。

首相は今回、国際会議の場で「5年以内の防衛力の抜本強化と防衛費の相当な増額」を説明した。自民党が提起したGDP比2%との水準が念頭にある。

「憲法・国際法の範囲内で、日米同盟の基本的役割分担を変更しない形で進めていく」とも語った。「各国に透明性をもって丁寧に説明する」とも付け加えた。

対中戦略で軸となるのが来春までにつくる「自由で開かれたインド太平洋」の計画だ。

インド太平洋諸国でも国によってロシアや中国との距離感に濃淡がある。東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国のうちロシアへの経済制裁を実行するのはシンガポールのみにとどまる。

外務省の21年度の海外対日世論調査でASEANの一般の人に「今後重要なパートナーとなる国」を尋ねると、中国が48%で最も多かった。日本は43%で日中の順位が逆転した。

首相は演説で「インド太平洋においてはASEANとの協働が不可欠だ」と話した。ASEAN諸国や太平洋の島しょ国との協力を深める方針を前面に出した。

政府開発援助(ODA)の拡充が具体策の柱となる。中国は広域経済圏構想「一帯一路」で地域への関与を強めていた。一方で日本のODA予算は22年度に5600億円ほどとピーク時の半分ほどに減っている。

首相は東南アジア外交を重視する姿勢をみせている。4月末からの大型連休はインドネシアやベトナムを訪れた。海洋安保や経済安保などを巡る地域のニーズをくみ取り、23年春に公表する「自由で開かれたインド太平洋」の計画に反映する。』