[FT]中国EV工場から汚染物質流出か 当局が調査

[FT]中国EV工場から汚染物質流出か 当局が調査
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『ヤン・ヨンビンさんはまだ24歳だが、脳卒中になって以来、ほぼフルタイムの介護を必要としている。彼が倒れたのは中国の電気自動車(EV)大手、比亜迪(BYD)の工場の生産ラインの仕事を辞めた2カ月後のことだった。
BYDの工場へ当局の調査が入ったことは都市封鎖の長期化で低迷する中国のEV市場へのさらなる打撃だ=ロイター

BYDは現在、湖南省長沙市にある工場から塗料に含まれる有害な汚染物質が漏れ出し、近隣住民に鼻血や呼吸困難、嘔吐(おうと)などの症状を引き起こした疑いで、地元当局の調査を受けている。

BYDに対する調査は、世界最大の中国のEV市場にとって新たな痛手だ。需要と経済活動を冷え込ませた数カ月に及ぶ都市封鎖(ロックダウン)が解除され、EVメーカーが生産の落ち込みを取り戻そうとしていた矢先だった。

ドイツ銀行の中国車アナリスト、エディソン・ユー氏は「今回のロックダウンがこれほど長引いたことに誰もが衝撃を受けている」と話した。「多くの工場は生産を再び増やすのに手を焼いている」

自動車業界にとって今回の調査は、中国の「ゼロコロナ政策」による徹底した感染抑制措置が取られていた間も比較的安定した生産を続けていたBYDに暗い影を投げかけた。
テスラも4月の販売台数は85%減

理想汽車(リ・オート)、小鵬汽車(シャオペン)、上海蔚来汽車(NIO)といった他の中国大手EVメーカーがロックダウンの影響を大きく受けるなか、BYDは規制が最も厳しかった地域や都市に工場がなかったため、なんとか生産を維持できた。BYDには米著名投資家のウォーレン・バフェット氏が率いる投資会社バークシャー・ハザウェイが出資している。

新車の販売台数は全体的に大きく落ち込んだ。中国の乗用車の業界団体、全国乗用車市場信息聯席会によると、4月は前年同期比36%減少し(上海市では1台も売れなかった)、生産台数は41%減った。ロックダウンの緩和に伴い5月には販売が回復し始めたものの、上海市に工場があるNIOは同月の販売台数がわずか7024台だった。

普段は圧倒的な販売力を誇るEV世界最大手の米テスラですら、影響を免れなかった。米シティグループのアナリスト、ジェフ・チュン氏は4月、中国で生産されたテスラの「モデル3」および「モデルY」の販売台数が前年同月を85%も下回り1700台にとどまったと話した。

BYDに対する汚染調査は、同社の生産を一部停止させただけでなく、テスラを含めたEV関連企業による環境汚染疑惑が再び注目されるきっかけになりそうだ。

北京市に拠点を置く非営利団体の公衆環境研究センター(IPE)は2021年に行った調査で、テスラにリチウムイオン電池やシャシー(車台)などを供給する多数の業者が中国国内で環境規制に違反していたと指摘した。

テスラはコメントの要請に対して回答していない。
「かいだ途端、めまいがするようなにおい」

今回調査されているBYDの場合、揮発性有機化合物(VOC)を放出する塗料の使用が苦情の原因になっている可能性が高いと、環境保護団体グリーンピース・東アジアでEV分野を担当する保航(バオ・ハン)氏は指摘した。VOCは高濃度になると有毒だ。

「BYDはエンジンのみで動く車の生産終了を自動車メーカーでは初めて表明し、気候変動対策に大きく貢献したと評価された」と保氏は述べた。「今、この企業の別の側面が見えてきた。多くの人が同社の製造工程は非常にクリーンなのかという疑問を抱いている」

BYDの長沙工場の近隣住民が大気中のVOC濃度を測定したところ、国の基準で許容されているより高い濃度のVOCが検出されたという。住民らは子どもを含む数十人が鼻血、せき、喉の痛み、鼻炎、呼吸困難、腹痛、嘔吐などの症状を訴えたとも主張している。

住民の1人は工場から排出されるにおいについて「かいだ途端、めまいがするようなものだ」とフィナンシャル・タイムズ(FT)に説明した。

BYDはコメントの要請に応えなかったが、同社は以前、鼻血の原因が工場にあるとする抗議を否定し、VOCの排出レベルは国の基準内に収まっていると主張したことがある。

だがFTが確認した文書によると、同社は長沙工場の塗装工程および高濃度のVOCの排出について、21年に地元当局から改善命令を受けていた。

中国メディアの財新は、BYDには22年4月にも広東省深圳市にある主力生産拠点で、VOCの排出に関する苦情が寄せられたと報じた。深圳市政府は16年後半にすでに排ガスを改善するよう同社に命じている。
SNSに化学物質と脳卒中の関連を疑うコメント

中国では経済問題が悪化し、自動車メーカーが新車販売の23%を占めるEVの生産を回復させようとするなか、BYDの長沙工場の周辺では、同社が汚染に関する説明責任を果たさないのではないかと不安を抱く住民もいる。

そのうちの1人は「政府がこの問題に対処しているとはいえ、私はあまり楽観的になれない」と明かした。

コンサルティング会社サイノ・オート・インサイツの●(●はさんずいに余)楽(トゥ・リー)社長は「政府は(自動車メーカーの)稼働再開に懸命になっている」と指摘した。
これらはどれもヤンさんの慰めにはならない。ヤンさんはBYDの工場の仕事を辞めた2カ月後の17年11月に脳卒中を患ったという。工場で使用されていた化学物質による吐き気とめまいが病気の一因になったと信じ、調査を求めている。

「(BYDは)私の人生を死よりもひどいものにした」とヤンさんは語った。彼は問題を提起する動画をSNS(交流サイト)に投稿したが、工場の有害な化学物質と脳卒中には関連があるというその主張を疑問視するコメントが集まったため削除した。

一部に凶暴な反応があったことで、汚染をめぐる議論の激しさが浮き彫りになった。中国の消費者の間では、ロックダウンで事業環境が困難になるなか、BYDなどの国内ブランドを支援すべきだとの意見もある。

BYDは長沙工場の近隣住民による苦情の訴えで世間の注目を浴びたにもかかわらず、5月の新車販売は好調だった。しかしEV業界全体にとっては、中国経済の減速というリスクはいまだ解消されていない。

By Primrose Riordan, Gloria Li, Andy Lin and Edward White

(2022年6月7日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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