米、中南米外交に綻び 8カ国首脳が会議ボイコット

米、中南米外交に綻び 8カ国首脳が会議ボイコット
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『【ロサンゼルス=清水孝輔】米国の中南米に対する外交政策に綻びが目立っている。8日に開幕した米主催の米州首脳会議では、中南米8カ国の首脳がボイコットした。米政府が民主主義や人権重視を求めて圧力をかけた結果、中南米側が反発したためだ。「米国の裏庭」と呼ばれる中南米で中国の影響力を抑止する思惑は、かえって米国不信を高めることにつながっている。

「世界で民主主義が危機にさらされている。再び結束し、民主主義が米州の未来に不可欠だという信念を新たにしよう」。8日、米西部カリフォルニア州ロサンゼルスで開いた米州首脳会議の開幕式。バイデン米大統領は出席した中南米諸国の首脳にこう結束を訴えるとともに、経済や移民問題で連携を深める考えを強調した。

ただバイデン氏の思いとは裏腹に、参加国の熱量は低い。同会議は本来、米州大陸とカリブ海の35カ国の首脳が参加する。9回目となる今回は、首脳の参加は23カ国にとどまり、メキシコやボリビアなどの首脳が会議をボイコットする異例の事態となっている。

きっかけは5月3日にさかのぼる。ニコルズ米国務次官補(米州担当)がベネズエラとニカラグア、キューバを同会議に招待しないことを表明したことだ。

このうち、ニカラグアのオルテガ大統領は、2021年の大統領選で対立候補を事前に拘束して当選したことから、米国から制裁を受けた。キューバも21年に反政府デモを厳しく弾圧し、米政府との対立が深まった。ニコルズ氏は民主主義の欠如を理由に、この3カ国の招待を見送った。

米国の方針に対し、メキシコのロペスオブラドール大統領は「全ての国を招待しないなら出席しない」と反発。ホンジュラスやボリビアなどの首脳もメキシコに賛同して欠席に回った。エルサルバドルとグアテマラは招待はされたものの、米政府から制裁を受けている。このため両国は抗議の意思を示すため、大統領に代わって外相が出席する措置を取った。

一方でブラジルのボルソナロ大統領は出席し、バイデン氏とも会談する予定だ。

首脳が参加した国も、必ずしも米政府と一枚岩ではない。アルゼンチンのフェルナンデス大統領はロペスオブラドール氏と電話会談し、「米州首脳会議に全ての国を招待すべきだったという考えで一致した」(ロペスオブラドール氏)という。

米国が民主主義や人権重視といった価値観を共有しようとする背景にあるのが、中国の存在だ。

中米エルサルバドルは18年に外交関係を結んでいた台湾と断交後、中国と国交を締結。中国は翌19年、スポーツ競技場や図書館といったエルサルバドルのインフラ開発に5億ドル(約670億円)を投じる方針を表明した。ニカラグアも21年、米からの制裁が強まる中で台湾と断交して中国と国交を結んでいる。

米国は、同国と近接する中南米諸国で中国の影響力が高まり、中国式の強権的な政治手法が浸透することを警戒する。こうした思いが民主主義を声高に訴えることにつながったが、中南米諸国にとっては「価値観の押しつけ」と映ったようだ。

中国外務省の趙立堅副報道局長は5月10日、記者会見で米州首脳会議について問われると「キューバとニカラグア、ベネズエラは米州ではないのか。米国は中南米に対する敬意に欠ける」と米国を皮肉った。

オバマ政権時代の15年に開いた米州首脳会議では、米国とキューバの首脳会談が実現して国交回復につながった。冷戦時代の対立を解消し、米国と中南米が結束を強める機運が高まった。

だがトランプ前大統領は中南米を軽視し、18年の米州首脳会議にも出席しなかった。オバマ政権で副大統領を務めたバイデン氏も、中南米での求心力を今なお取り戻せていない。

米州首脳会議を初開催した1994年は冷戦直後で、米国は超大国として民主化外交を進めた。米州の経済団体である米州評議会(COA)のシニアディレクター、スティーブ・リストン氏は「当時とは状況が異なる。もう一つの大国である中国が中南米に対し、米国の民主主義と自由主義経済の代替案を示そうとしている」と指摘する。

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