[FT]忍び寄る「ウクライナ疲れ」 緩む西側の結束

[FT]忍び寄る「ウクライナ疲れ」 緩む西側の結束
米の指導力が要
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB26DLE0W2A520C2000000/

『こうなることは分かっていた。ロシア軍の後退や、欧米の物心両面での手厚い支援を受けたウクライナ軍の勇ましい反撃に興奮する時期は過ぎ「退屈」が忍び寄っている。過去の戦争ではお決まりの流れだ。陶酔と失望を繰り返すうち、気だるさが広がる。優れた指導者は絶望から恐怖を誘って奮起につなげられる。それよりはるかに厄介なのが倦怠(けんたい)感だ。

バイデン大統領はウクライナ支援で西側の結束を再び強化するという難しい仕事を抱えている=ロイター

バイデン米大統領が国民の「ウクライナ疲れ」を意識していることは最近の発言から見て取れる。米マリスト大学の世論調査によると、ロシアの侵攻が始まってから2週間で、同氏の支持率は47%まで急伸した。西側諸国に脅威が差し迫り、米国民は結束した。

しかしロシア軍がウクライナの一部地域から撤退すると、支持率は39%に下がった。ロシアの侵攻前の水準だ(その後は41%へとやや戻している)。米ウォール街では株式相場の急落後の一時的な反発を「デッド・キャット・バウンス(死んだ猫でも高いところから落とせば弾む)」というが、今思えばこれに近い。それなりの覚悟と信念を示したにもかかわらず、バイデン氏はウクライナ危機への対応が評価されていない。

米国民の関心は加速するインフレ、米テキサス州の小学校などで起きた銃乱射事件、毎度おなじみの有名人のスキャンダルに向いている。

バイデン氏は5月末、米国はウクライナへの対応を変えるべきではないという主張を、これまでにないほど理路整然と表明した。ロシアの勝利を阻み、その蛮行をくじくことは米国の国益にとって極めて重要だと米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿で訴えた。「われわれは自由がただでは得られないことを知っている。(中略)もし(ロシアのプーチン大統領が)今後数カ月もすれば、われわれの心がぐらついたり団結が緩んだりすると思っているなら間違いだ」

ロシア情報を無視する危険

他方、プーチン氏の賭けが正しかったと証明される可能性もある。この戦いには2つの側面がある。ウクライナでの地上戦と、国際世論を動かすための情報戦だ。どちらも消耗戦に入っている。実際の戦闘では、ロシアは侵攻後、最初の数週間でプランA(当初の計画)が打ち砕かれ、首都キーウ(キエフ)への侵攻半ばで不名誉な撤退を余儀なくされた。

目下は控えめなプランB(代替案)を進めようとしている。東部ドンバス地方を制圧し、クリミア半島と結ぶ「陸の回廊」を確保しようというものだ。ロシアのやり方をみれば、消耗戦という言葉は誤解を招くかもしれない。欧州では「壊滅戦」と呼ぶ人もいる。

地上戦を方向づけるのが情報戦だ。西側とウクライナは、ここまでの成功が裏目に出る恐れがある。ほとんどの欧米メディアはロシアの言い分を完全に無視し、ウクライナ側の情報と話を基に報道することを選んだ。ロシアのプロパガンダの裏側の深い闇を思えば無理もない。

ところが、そうした選択には副作用が2つある。まずは慢心。惨めなロシアという印象が広がり、負けるに違いないという期待が強まっている。ロシアの敗北は単に時間の問題だと。

だが、よくスターリンの言葉とされる「量はそれ自体に高い質がある」という寸言が重い意味を持ってくるかもしれない。ウクライナ東部はロシアに近いので補給路が短くて済む。平地が広がり難所も少ない。ロシア軍にかなり有利に見える。

ロシア軍には士気の低さや粗悪な装備、戦略の欠如、仲間内での暴力といった問題がある。旧ソ連軍も同様だったが、第2次世界大戦中、旧ソ連軍は圧倒的な物量でナチス・ドイツ軍を上回り結局、勝利した。プーチン氏はプランBの遂行に成功すれば、多少手直ししてプランAに回帰する公算が大きい。

欧州諸国の世論に温度差

もう一つの副作用は、民主主義国の意識が侵攻前の状態に戻ってしまうことだ。プーチン氏への恐怖が薄れるにつれ、対ロシアでの西側の結束が揺らぎ始めている。しばしば言動が物議を醸した故ラムズフェルド元米国防長官はかつて、イラク戦争に反対したドイツやフランスなどを「古い欧州」、米国と協調路線をとる中東欧などを「新しい欧州」と呼んで色分けした。

ウクライナを巡ってもイタリアやフランス、ドイツの世論と、より強硬な介入に積極的なポーランドなどとは隔たりがある。英国はといえば、いつもの癖で大風呂敷を広げ、立ててもいない手柄を大げさに吹聴して米国をいら立たせている。

バイデン氏はどうすれば西側の士気を再び高められるだろうか。米大手銀行JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は先日、投資家に対し、世界経済は「ハリケーン」に見舞われそうだと語った。ウクライナ危機で原油価格が1バレル175ドル(約2万3000円)まで上昇しかねないとも警告した。

それを阻止するためにバイデン氏が講じられる手立てはないに等しい。ウクライナ危機以外にも経済を悪化させる要因はあるが、景気後退の見通しが強まるなか、欧米とも市民がウクライナ支援の気持ちを持ち続けられるかが今後試される。

そこで必要となるのがリーダーシップだ。バイデン氏の所属する米民主党はおそらく、どうあがいても今年の中間選挙で負けるだろう。一方、ウクライナ情勢の先行きはまだ不透明だ。変えられることと変えられないことを正しく見極められるかで、リーダーの資質が分かる。これまでのところ、バイデン氏にはその区別ができているように見える。

By Edward Luce

(2022年6月3日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)

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