[FT]小麦輸入大国エジプト、世界的な供給減で国産に活路

[FT]小麦輸入大国エジプト、世界的な供給減で国産に活路
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『エジプト北部のヌバリアに砂漠を耕して作った農地がある。5月下旬、コンバインがうなりを上げて小麦畑を進み、ぎっしり並んだ黄金色の茎を吸い込んでは実の熟した麦穂をはき出していく様子を農家と役人が見つめていた。
政府は昨年、国産小麦の3分の1を補助金付きパン用に買い入れた。今年は少なくとも5割に引き上げる考えだ=ロイター

ここは農業・土地開拓省の「モデル農地」だ。収穫の最大化と灌漑(かんがい)用水の節約につながる新たな農法の実証に使われている。

農地を所有するモハメド・アブダラさんは「1フェダン(約4200平方メートル)あたり3.75トンの良質な小麦を収穫できそうだ」と期待を込めた。従来の灌漑方法ではせいぜい3分の2の収穫量しか望めなかったという。

農家や政府によると、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに穀物価格が高騰し、世界最大の小麦輸入国エジプトでは国産小麦に注目が集まっている。
収穫量の60%の供出を義務付け
補助金なしのパンは1個4セント(約5.3円)、補助金付きだと5個で1.5セント(約2円)で売られている=ロイター

世界的な供給が滞る中、エジプト政府は今年、可能な限りの在庫確保を目指し、収穫量の60%を国へ売り渡すよう農家に義務付けた。中長期的には、ヌバリアで使われている技術などを普及させて収穫量を増やし、2025年までに自給率を現在の45%から最大65%へと引き上げたい意向だ。

エジプト政府は年間約900万トンの小麦を使って、全人口の3分の2余りに相当する7000万人に補助金付きのパンを供給している。補助金なしのパンは1個4セント(約5.3円)だが、補助金付きだと5個で1.5セント(約2円)になる。貧困層が人口の半分以上を占める同国では、国民の飢えを満たし社会の安定を確保するうえで安価なパンの供給は不可欠と考えられており、歴代政権もこの補助金制度を重視してきた。

ウクライナ戦争以前、エジプトの小麦輸入額は年間平均30億ドルだった。しかし米シンクタンクの国際食糧政策研究所(IFPRI)によると、価格高騰を受けて年間57億ドルに達する可能性があり、同国が抱える多額の債務の増加要因になる。同国政府は3月に通貨を切り下げ、現在は国際通貨基金(IMF)の支援を検討中だ。ペルシャ湾岸各国は中東で最も人口の多いエジプトの不安定化を懸念し、預金や投資を通じて約220億ドルの経済支援をしている。

補助金付きパンの原料の大半を輸入小麦が占める中で、政府は国産小麦比率の拡大に取り組んでいる。政府の「全国小麦増産キャンペーン」を率いるレダ・モハメド・アリ氏によると、「理想的な天候」のおかげで今年の国内収穫量は前年比10%増えて1000万トン以上に達する見通しだという。

政府は昨年、国産小麦の3分の1を補助金付きパン用に買い入れた。今年は少なくとも5割に引き上げる考えだ。農家に対しては今シーズンに収穫した小麦の60%を国へ売り渡すよう義務付け、無許可での移送を禁じた。違反者には罰金と禁錮刑が科される可能性がある。
買い取り価格引き上げも農家には不満

政府は小麦供出のインセンティブとして、買い取り価格を1トン当たり約320ドルと22%引き上げた。だが国際価格に比べるとまだ160ドル安いため、農家側は不満を募らせている。

エジプト政府関係者によると、国産の在庫をしっかり確保できれば、今年12月か来年1月までに必要な小麦は賄えそうだ。ところが収穫期が6月に終わるというのに、これまでに国が買い取った小麦は350万トンにとどまっている。政府は先週、国以外の買い手への小麦販売を8月末まで禁じることを閣議決定した。国への供出を促すとともに、高値で買い付けようとする民間業者を排除する狙いのようだ。

ヌバリアの農家は義務付けられた量より多い小麦を国へ売り渡した。代金が即座に支払われるからだが、法令違反のリスクにも留意したという。

農家のヌール・アティアさんは「小麦を車両で運ぶには地元の農業協同組合が発行する許可証と書簡が必要だ。軍が監視しているので、許可証がなければ車は料金所を通れない」と打ち明けた。

国の買い取り価格に対する不平も聞かれた。ある小規模農家は家畜用の餌としてトウモロコシを買うよりも、自家製の小麦で代用する方が安上がりだと愚痴をこぼした。「今は何もかもが高い。それなのに肥料として必要なカリウムには補助金が付かないんだ」

ヌバリアの別の地域で農業を営むハマダ・サラマさんは100フェダンの土地で収穫した小麦全てを国に売り渡した。だが、価格には満足していない。「経費を考えると十分な価格とは言えない。だが国からすれば収穫から貯蔵までの全プロセスをコントロールできている」とまゆをひそめた。

農業・土地開拓省のアリ氏はヌバリアで開いたイベントで講演し、農家に国産小麦の重要性を理解してもらおうとこう語り掛けた。「危機時に高値で買い付けてもらおうなどと国に期待すべきではない。供出された小麦は(割安な)パンになって戻ってくるのだから」

By Heba Saleh

(2022年6月7日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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