[FT]「何もかも消えた」 制裁直撃のロシアテック業界

[FT]「何もかも消えた」 制裁直撃のロシアテック業界
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『西側諸国の対ロシア制裁を受け、ロシア企業がテクノロジー危機に陥っている。半導体や電子機器、国内のデータセンターに必要なハードウエアの供給に深刻なボトルネックが生じているためだ。

モスクワのビジネス街=ロイター

米国、英国、欧州(連合)が欧米で製造・設計された半導体を搭載する製品の輸出を制限したことを受け、インテルやサムスン電子、台湾積体電路製造(TSMC)、クアルコムといった世界の半導体大手はほとんどがロシアへの販売を全面的に停止している。

このためロシア国内では、自動車や家電、軍事機器の製造に使用される大型で低価格帯の半導体が不足している。先端の家電製品やIT(情報技術)ハードウエアに使用される高度な半導体の供給も大幅に縮小されている。

さらに、スマートフォンやネットワーク機器、データサーバーなど、半導体を搭載した外国製の技術や機器類の輸入も甚だしく阻害されている。

「サーバーからコンピューター、iPhone(アイフォーン)に至るまで、あらゆる製品のあらゆる供給ルートが消えた」。西側の半導体メーカー幹部はこう語る。

迫られる「構造改革」

ロシアのプーチン大統領によるウクライナ侵攻を受けて西側が科した前例のない包括的な制裁により、ロシア経済は手痛い「構造改革」(ロシア中央銀行)を迫られている。

ロシアは原料のほとんどを輸出できず、重要な製品を輸入することも世界の金融市場にアクセスすることもできない。このため、ロシアの2022年の国内総生産(GDP)は15%縮小するとエコノミストは試算している。

マイクロチップ、半導体、サーバーなどの「軍民両用(デュアルユース)」技術の輸出制限はロシア経済に与える影響が特に深刻で、長く尾を引きそうだ。ロシアの通信大手は高速通信規格「5G」の対応機器を調達できなくなるだろう。

ロシアではテクノロジー業界の発達が遅れ、半導体の消費は世界の1%にも満たない。つまり、テクノロジーに特化した制裁が目先でロシアに及ぼす影響は、テクノロジー製品を世界に供給する一大製造拠点である中国に19年に課された同様の輸出制限が及ぼした影響よりはるかに軽微なものにとどまるはずだった。

ロシアにもJSCミクロンやMCST、バイカル・エレクトロニクスなど半導体の国産メーカーはあるが、ロシア各社は従来、中国の中芯国際集成電路製造(SMIC)、米インテル、独インフィニオンなどの外国メーカーから大量に輸入した半導体の完成品に頼っていた。MCSTとバイカルは自社で設計した半導体の製造を台湾や欧州などのファウンダリー(製造受託企業)に委託していた。

ロシアのビジネスニュースサイトRBCによると、MCSTは5月30日、半導体の製造をJSCミクロンが所有する国内工場に切り替えることを検討中と発表し、「ロシアの独自技術を駆使して価値あるプロセッサー(演算処理装置)」を製造できると表明した。しかし、MCSTが開発した半導体「エルブルス」 をテストしたズベルバンクは21年、メモリー、処理能力、帯域幅でインテル製品を大幅に下回る「散々な」結果だったと明かしている。

こうした状況に対し、ロシア政府には創意工夫が求められる。ロシアはサーバーや自動車、電話、半導体などのハードウエアを、商標や著作権所有企業の同意を得ずに企業が「並行輸入」することを認める輸入制度を導入し、調達先候補企業も多数列挙した。

ロシアは従来、技術・軍事機器の一部については不正な「グレーマーケット」のサプライチェーンに頼り、アジアやアフリカの再販業者から仲介業者を通じて欧米の製品を購入することができた。しかし、半導体や重要なITハードウエアが世界的に不足している今、こうしたグレーな販路でも製品が枯渇している。

「一部の企業はカザフスタンからの調達ルートを確保した」と言うのは、モスクワにあるインターネット・リサーチ・インスティテュートのカレン・カザリアン代表だ。「供給する用意がある中国の中堅メーカーもある。ロシアの倉庫には部品の予備在庫もあるが、必要量に達していないうえに安定供給もできない。価格も2倍以上に跳ね上がっている」

中国は支援に動かず

ロシア当局は中国のファウンダリーに製造を委託することも検討しているが、中国政府が支援に乗り出す兆候はほとんどない。

半導体大手の幹部は「家電や携帯電話、PC、データセンターの分野では、国外メーカーのほとんどがロシアに製品を供給していない。たとえ中国製のレガシー(旧世代の)半導体を搭載している製品でも供給されていない」と話す。

また、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席がウクライナ戦争を非難しようとしないにもかかわらず、スマートフォンのロシアへの販売打ち切りを決めた中国企業もある。スマートフォンなどのエレクトロニクス製品を制裁対象に加えればロシアの消費者を直接罰することになるため対象外になっているが、販売を継続することで自社ブランドに傷がつくことを恐れたのだ。

ロシアでは国内でのデータ保管が法律で企業に義務付けられたことを受け、クラウドコンピューティング市場が近年拡大しているが、ハイエンド半導体の不足は立ち上がったばかりの同市場にとって明らかな打撃だ。

米調査会社IDCのアナリストによると、制裁が科されて以降、ヤンデックスやVKクラウド・ソリューションズ、ズベルクラウドなどのロシアのクラウドサービス大手では需要が急増している。ロシア企業の多くが自社のアプリを海外のデータセンターに保管したくないと考えるようになったためだという。

VKクラウド・ソリューションズは5月にロシア政府に書簡を送り、「数万台規模のサーバー」確保について即時支援を要請したとロシア国内で報道されている。国内企業は欧米企業からサーバーを調達できないうえ、サーバーに搭載する高度な半導体が不足しているためロシアのITメーカーも自社で増産できない状況になっている。

IDCのデータによると、ロシアが21年に調達した主流の「x86サーバー」は15万8000台に上る。そのうちロシア企業の製造は27%、欧米企業の製造は39%、残りはアジアでの製造だったという。

欧米の対ロ制裁で、携帯キャリア各社も事業計画を大幅に縮小せざるを得ない。5Gに対応し高度なインターネット技術を可能にしたノキアやエリクソン、華為技術(ファーウェイ)製の携帯電話は国内製機器ではすぐに代用できない。そのため、携帯キャリアはすでに次世代技術に移行した国から従来世代の「4G」に対応する旧機種を中古市場で購入しようとするだろうと、ヤンデックスの元幹部グリゴリー・バクノフ氏はみる。

同氏は、ロシア政府は欧米のテック大手に対抗するサービスの立ち上げ自粛を国内企業に求めるだろうとも述べた。たとえばヤンデックスが提供を開始したばかりの配車アプリやVKのSNS(交流サイト)がこれにあたる。「インフラがない状態で向こう5年間どうすべきかという問題の解決策だ。競争を少しずつ断念することで使用される機器を減らそうとするだろう」

By Anna Gross and Max Seddon

(2022年6月2日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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