FRBよ、おまえもか 米経済に迫る「帳簿不況」の影

FRBよ、おまえもか 米経済に迫る「帳簿不況」の影
日経QUICKニュース編集委員 永井洋一
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB316EA0R30C22A5000000/

『バブルに対して後手に回り、世論の批判を浴びてバブル潰しに躍起になった1990年前半の日本銀行。その姿といまの米連邦準備理事会(FRB)とを重ね合わせ、「FRBよ、お前もか」と感じている投資家は少なくないだろう。

歴史的なインフレ退治のためFRBが国債などの保有資産を減らす量的引き締め(QT)が始まった。今後は民間企業や個人も借金を増やしにくくなり、米国はデレバレッジ(債務削減)時代へ向かう。一つ間違えると資産価格の下落が債務負担を重くし、需要縮小の悪循環を招きかねない。そうした、かつて日本が経験した「バランスシート(貸借対照表、帳簿)不況」の影が近づいている。

FRBの資金循環統計によると2021年末時点で米国の負債と純資産の合計は338兆ドル(4京3000兆円)。20年4月以降のコロナバブルで3割強増え、名目国内総生産(GDP)との比較では14.1倍と2ポイント以上上昇した。1960年代以降、わずかな期間にこれだけ増えた例はない。

仮にGDP比12倍というコロナ前のレベルに戻すだけでも50兆ドル(15%、6400兆円)程度減らす必要がある。2021年末以降、米国の上場株は2割前後、投資適格債の価格は1割程度下落した。バランスシートの資産側の圧縮は進みつつあるが、それに伴う負債の返済はこれからだ。

時計の針をバブル崩壊が始まった1990年の日本に戻そう。前年の12月に三重野康氏が日銀総裁に就くと政策金利をわずか8カ月あまりで3.75%から6.0%に引き上げた。日経平均株価は89年末の最高値からわずか4カ月で一時3割近く急落した。いまの米ナスダック総合株価指数の最高値からの最大下落率とほぼ同じだ。

株価が下がり始めた春、市場は騒ぎになったが、株安がバランスシートの右側(負債と純資産)に悪影響を及ぼすとは、ほとんど気づかれなかった。不動産や証券担保ローンに絡むノンバンクや商社の不良債権が問題視され始めたのは三重野氏が3回目の利上げに踏み切った8月ごろだった。

現在の米国と32年前の日本の市場には2つの共通点がある。

まず信用創造の担い手である銀行株の低迷だ。FRBが3月17日に利上げを開始して以降、5月27日までに米ナスダック銀行株指数は12%下落した。ナスダック総合株価指数の10%安やダウ工業株30種平均の3%安よりも下落率が大きい。

2つ目はマネーフローの変調だ。足元では一服しているが年初から米株安・米債安(金利上昇)・ドル高が進んだ。通常、どこかの国でバブルが崩壊すると、資本流出が起きてトリプル安(株安・債券安・通貨安)になる。あるいはリスク回避で債券は買われる。

株安、債券安だが通貨は高いという例は聞かない。米国でも71年の「ニクソン・ショック(金・ドル交換停止)」以降、ほぼ皆無だ。

例外は90年夏~秋にかけての日本だ。

株安・債券安・円高が観測された。株安に加え、銀行への国際的な自己資本比率規制の導入が近づくなか、国内金融機関が海外資産を売却して円資金を確保する「リパトリエーション(資金回帰)」が発生した。

今回のドル高についてBNPパリバ証券の河野龍太郎氏は「損失を補うための投機マネーの米国還流」と分析。「資産価格が大きく下落すれば、投資ファンドなどの『シャドーバンク(影の銀行)』を中心にバランスシートの毀損が広がる可能性がある」とみる。

ダウ平均は過去50年、年率7.7%で上昇してきたが今年、このトレンドから一時下放れた。
中国通貨、人民元の突然の切り下げによる2015年のチャイナショックや18年の米中摩擦激化時は年率7%ラインが下値支持水準となった。08年のリーマン・ショック時は年率6%ライン前後で下げ止まった。現在7%ラインは2万8000ドル、6%ラインは1万7400ドル近辺に位置する。

株安は逆資産効果を通じて個人消費を冷やす。インフレ抑制には必要だ。

しかし日本の例もある。米国が構造不況に陥るとみる市場関係者はまだ少数だが、ダウが「チャイナショック・ライン」を割り込むとリスクシナリオの重みが増す。

[日経ヴェリタス6月5日号]』