「出産する人生を描けず」 家事・育児時間、女性5倍

「出産する人生を描けず」 家事・育児時間、女性5倍
21年の出生率1.30、6年連続低下
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFE267EN0W2A520C2000000/

『厚生労働省が3日発表した2021年の人口動態統計によると、1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は1.30と6年連続で低下した。出生率が下がる大きな要因として、若い世代の子どもを持ちたいという意欲が減退していることがある。少子化に歯止めをかけるには、女性の賃金水準が低く、家庭のなかで家事・育児の負担を背負う状況を解消することが欠かせない。

【関連記事】21年の出生率1.30 少子化対策見劣り、最低に迫る

婚姻率は、新型コロナウイルス禍で出会いの場が減ったことが拍車をかけ、低下し続けている。日本は結婚して出産する人が大多数であり、未婚化は密接に少子化と結びつくのが現状だ。同統計によると、人口1000人に対する婚姻率は19年に4.8だったが、20年に4.3、21年は4.1まで落ち込んだ。

さらに「子どもを持ちたい」という意欲も低下している。これまで結婚した夫婦の出生意欲は高いとされてきたが、出生動向基本調査によると、ここ30年間で夫婦が持つ予定の子どもの数は減り続けており、15年は2.01人と過去最低だった。

一方、未婚女性で「結婚せず仕事を続ける」と答える人は増え続けている。「結婚しても子どもを持たずに仕事を続ける」とあわせると25%を占める。日本総合研究所の藤波匠・上席主任研究員は「未婚女性の4人に1人が『出産する人生を想像できない』と考えていることを示す」と指摘する。
希望出生率、1.8から1.75に低下の懸念

国は10年の同調査をもとに、若い世代の結婚や出産への希望がかなった場合に実現する「希望出生率」を1.8とはじいている。藤波氏が15年の調査結果を踏まえて計算すると、希望出生率は1.75に低下していた。

経済的な要因が大きい。15年の出生動向基本調査では、妻が30~34歳の夫婦が理想の子ども数を持たない理由として「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」と答えた例が8割に達する。若い世代の雇用環境は悪化し、生まれた年が最近になるほど年収の水準が低い。

さらに「男性は仕事、女性は家事育児」という古くからの性別役割分業や、親が負担を背負いがちな子育て環境が複雑に絡み合った社会構造がある。日本の女性が家事・育児に割く時間は男性の5・5倍だ。

コロナ禍で大企業や都市部を中心に在宅勤務が普及した。男性も家事育児に参画しやすくなったはずだが、内閣府の21年の調査では、家事・育児の時間が増えた割合は女性が44%で、男性の38%を上回った。

子育て支援にかかる日本の家族関係社会支出は国内総生産(GDP)比で1.73%(19年度)にとどまり、出生率が比較的高いスウェーデン(3.4%)やフランス(2.88%)に遠く及ばない。十分な予算が割かれないまま子育ての社会化が進まず、家庭のなかで女性が負担を背負う構図が浮き彫りになっている。

それはキャリアが形成できなかったり昇進が遅れたりすることにつながり、女性の低賃金の要因となる。正規、非正規と同じ雇用環境にあっても男女で賃金格差はあり、課長級、部長級など同じ役職でも格差は目立つ。

希望と現実の数字との乖離(かいり)は大きい。人口動態統計で世代別の出生率をみると、現在20代後半の女性の出生率は0.53で、40代後半が20代後半だったころの4分の3の水準だ。この年代が結婚や出産の希望をかなえられず、30代になっても子どもを持たなければ、少子化はさらに加速する。
キャリア形成、出産前に

女性が置かれた不利な環境の改善を急ぐ必要がある。女性活躍推進法に関するこの夏の省令改正で今後、大企業は賃金格差の情報開示が求められるようになる。これを契機に、社会がさまざまな男女格差に目を向けないといけない。企業は長時間労働の見直しなどの働き方改革はもちろん、出産前など早めにキャリアを積んでもらうよう取り組む必要がある。

米国やフィンランドではコロナ禍でも21年の出生率が前年から上昇した。若い世代の「子育てしても大丈夫」という安心感の表れだ。出生率が0.84と深刻な状況に陥っている韓国も「子育てにお金がかかり過ぎる」(ニッセイ基礎研究所の金明中主任研究員)状況を重く見て、22年から0~1歳児の親に月30万ウォン(約3万円)の手当を支給し、25年までに50万ウォン(約5万円)に拡大する。

出生率が1.30を割り込む状態は深刻な「超少子化」とされる。東北大の「子ども人口時計」によると、子どもの減少率がこのまま続くとすると、2966年10月5日に日本人の子どもはひとりとなる。日本にも「社会が結婚から子育てまで伴走する」という強いメッセージと、それを裏打ちする政策が欠かせない。女性の自立を支え、若い世代が安心して子育てできる社会につくりかえなければ、出生率の改善は永遠に望めない。

(ダイバーシティエディター 天野由輝子、福山絵里子)

【関連記事】

・高学歴女性、超少子化が改善? 働き方改革や不妊治療で
・日本女性、男性の74%しか稼げず 賃金格差の解消に遅れ
・男性の育児・家事時間、出生率に影響 日本は女性の2割
・出生率1.30、政府は少子化非常事態宣言を 若者支援急務

多様な観点からニュースを考える

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

奥山陽子のアバター
奥山陽子
ウプサラ大学 助教授
コメントメニュー

分析・考察

子どもを持つか、持てるか、は私的な問題だ。歴史が示唆するように、出生率を政策課題として議論するとき、私たちは政治の力をひとの身体に及ばせる。このデリケートな点は、気にとめておきたい。

その上で、労働経済学的な視点からは、過酷な働き方が低出生率を招きうる点にも、あらためて光を当てたい。

その裏付けとして、海外では研修医の労働時間改善が女性医師の出産率を上げた等、実証研究がある。また日本にも、過酷な労働環境と性行動の関連性を示唆する調査分析がある。

低迷する日本の出生率は、女性を取り巻く環境改善のほか、叫ばれる働き方改革の必要性と、根で繋がっている。その「根」に向き合えるかが問われている。

2022年6月4日 6:52 (2022年6月4日 7:27更新) 』