「働かない1億人」 コロナが映した老いる米国

「働かない1億人」 コロナが映した老いる米国
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN03DO00T00C22A6000000/

『【ワシントン=高見浩輔】さまざまな経済統計が新型コロナウイルス禍の乱高下から落ち着き始めた米国で、元の姿と異なったままの「断層」が目立ち始めた。その1つが職探しをしない非労働力人口だ。コロナ前から400万人ほど増えたまま、働かない米国人はざっと1億人に上る。その存在は米国経済の「コロナ後」の停滞を示唆している。

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米労働省が3日発表した5月の雇用統計で、非農業部門の就業者数は前月から39万人増え、1億5168万人になった。新型コロナウイルス禍が深刻化する前の2019年12月(1億5178万人)にほぼ並ぶ水準まで戻った。失業率は3.6%と前月から横ばいで、こちらも19年とほぼ同じだ。

一方、19年12月に9550万人だった非労働力人口は20年4月に初めて1億人を突破したあとも高止まりを続けている。22年5月は9930万人。戻りは極めて緩慢だ。これはコロナ禍で退職し、そのまま職探しもしなくなった人が多いことを示している。

カンザスシティー連銀は5月に出したリポートで、その原因追及に挑んだ。移民の減少や人口構成の変化など様々な要因を取り除いたところ、浮かび上がったのが働かなくなった「65歳以上」の存在だった。

20年4月から21年末にかけて学校や保育所が再開し、親たちが仕事に復帰し始めた。ワクチンの普及も進み、22年からは経済再開が本格化した。プライムエイジと呼ばれる働き盛りの労働参加率が回復するなか、仕事に戻れるはずなのに戻らない200万人のうち7割近くを65歳以上が占めるという。戦後から60年代前半に生まれたベビーブーマー世代が早期退職した可能性がある。

浮かび上がるのは「老いる米国」だ。米国の非労働力人口は19年末までの20年間で4割増えている。コロナ禍の前は増加傾向が収まっていたが、それが再び加速した。もともと65歳以上の人口は19年までの10年で3割増えており、フロリダ州やウェストバージニア州では5人に1人が65歳以上だ。

90年代に3%を超えていた米国の潜在成長率は、米議会予算局(CBO)が5月に出した経済見通しでは22~26年に1.9%と低迷する。労働力の押し上げ効果が1.2ポイントから0.3ポイントまで落ち込む影響が大きい。

「移民は解決すべき米国の問題ではない。移民こそが米国の問題に対する解決策だ」。調査団体の全米移民フォーラムはこう訴えるが、移民の急速な増加は政治的な問題をはらむ。

米国経済は約40年ぶりのインフレ抑制が課題で、米連邦準備理事会(FRB)の利上げがその後に景気後退を呼び込むことも懸念されている。コロナ禍前に話題になった長期停滞論は話題から消えた。だが中長期的にみた経済の構造変化は水面下で着々と進んでいる。

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楠木建
一橋大学 教授
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別の視点

近いものほど粗が目立ち、遠いものほどきれいに見える――遠近歪曲という認知バイアスです。日本には問題が山積している!というのですが、経済的に世界最大のアメリカだろうが成長してきた中国だろうが、どこの国にも問題があります。全面的に上手くいっている国や地域などありません。
2022年6月4日 7:16
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小宮一慶
小宮コンサルタンツ 代表取締役CEO
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分析・考察

私は「コロナで未来が早くやってきた」と考えている。日本でも、政府があれだけ進めていた働き方改革が、コロナでテレワークが一気に進み、通勤電車が一時期すごく空いていたのも人口減少が進む未来の姿を先に見たということだ。地方で百貨店の閉店もコロナで進んだが、あれも地方経済が百貨店を維持できなくなりつつあったのがコロナで一気に加速したということだろう。
アメリカでも未来の姿が早くやってきたということではないだろうか。
2022年6月4日 7:49
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白井さゆり
慶應義塾大学総合政策学部 教授
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ひとこと解説

米国の労働市場はこれまでにないユニークな現象がおきている。賃金が平均5%程度上昇しても、求人件数がかつてないほど高どまりしており、空前の売り手市場の中でより良い条件をもとめて離職する人たちも多い状態が続いているからだ。コロナ前に就業していた人々のうち、コロナ危機後に労働市場に復帰しない人の数が400-500万人いることは昨年から指摘されていた。感染症がおさまれば戻るとみられていたが、今のところその状況はおきていない。理由は、感染症によって対面が必要な仕事を避けたい、政府による現金資金によるたくわえがあるなど様々あるようだ。だが物価が高騰して生活が厳しくなっている中で、現状が続くのか注視したい。
2022年6月4日 9:46
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今村卓
丸紅 執行役員 経済研究所長
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分析・考察

米国の65歳以上の労働参加率は90年代後半までは12%台でしたが、2000年代から上昇傾向になりコロナ禍直前の20年2月には20.8%と過去最高を記録しました。当時は老後の蓄えが十分になく引退を先延ばしした中低所得の高齢者が増えたからといわれていました。
22年5月の同率は19.2%。コロナ禍で引退した高齢者の増加は明確、中低所得層の退職も多いといい、もう同率はコロナ禍前の水準には戻りそうもありません。移民の伸び悩みも続きそうなことから、今後の米国は日欧の後を追って少子高齢化と潜在成長率の低下という難しい課題に向き合うことになります。この問題に不慣れな米国の対応が遅れる恐れもありそうです。
2022年6月4日 9:30 (2022年6月4日 9:44更新)』