米国防長官、台湾へ武器提供拡大 「統合抑止力を重視」

米国防長官、台湾へ武器提供拡大 「統合抑止力を重視」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN013HC0R00C22A6000000/

『【ワシントン=中村亮】オースティン米国防長官は台湾に対する中国の脅威の高まりに合わせて、台湾軍への武器支援や訓練を拡大していく意向を表明した。全ての戦闘領域で同盟国などと連携を深める「統合抑止力」を重視し「侵略のコストや愚かさを極めて明確にする」と断言。中国抑止に向けて日本の役割増に期待を示した。

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7日に出発するアジア歴訪を前に日本経済新聞の取材に書面で答えた。オースティン氏はシンガポールで10~12日に開くアジア安全保障会議(シャングリラ会合)に出席し、インド太平洋地域での包括的な防衛戦略について演説する。現地では中国の魏鳳和国務委員兼国防相と初めて会談する公算が大きい。シンガポールに続きタイも訪れる。

オースティン氏は取材で、ロシアによるウクライナ侵攻に関して「ルールに基づく国際秩序への侮辱であり、地域を問わず自由に生きる人々に対する挑戦だ」と糾弾した。一方で「我々が自由で安定し、安全なインド太平洋地域に対する挑戦から目を背けることはない」と断じ、アジア重視の方針堅持を明確にした。

中国が軍事的圧力を強める台湾との関係について「歴代政権と同様に中国の脅威に比例して、台湾が十分な自衛力を維持するために必要な防衛物資や防衛サービスを提供していく」と説明した。

米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は5月上旬の議会証言で中国が2027年までに台湾侵攻能力の獲得を目指していると重ねて言及した。オースティン氏の発言は台湾軍への武器売却や訓練を拡大していく方針を示したものだ。

米国は台湾関係法などに基づき、武器の売却を続けてきた。戦闘機F16や軍用無人機、自走砲やロケット砲システムなどを提供・承認した。米議会は台湾の武器調達を後押しするため、年間で数十億ドルの資金支援を検討している。

米政権はウクライナに米軍を派遣しないと決めている。「台湾海峡有事の際に米軍を派遣する可能性を排除しないか」との問いに「(ウクライナと台湾の)両者は2つの大きく異なるシナリオだ」と応じた。

米国は中国が台湾へ武力行使した場合の対応を明確にしない「あいまい戦略」をとってきた。バイデン大統領は戦略の変更を否定しながらも、有事では軍事的関与をすると明言している。オースティン氏も軍派遣があり得るとの考えをにじませたもようだ。

日韓防衛については「米国の約束は鉄壁であり、それは通常戦力と核戦力の全領域に支えられた拡大抑止力に関する約束を含む」と訴えた。日韓が核攻撃を受けた場合に米国が報復する「核の傘」は盤石だと強調し、中国や北朝鮮への抑止は揺るがないと述べた。

オースティン氏は中国や北朝鮮への対処を念頭に「統合抑止力が国家防衛戦略の要だ」と訴えた。同盟国やパートナー国との陸海空や宇宙・サイバーといった戦闘領域での協力深化に加え、経済制裁や外交圧力を通じて敵国に攻撃をためらわせる概念だ。

統合抑止力を確立するうえで日本への期待は大きい。「日米は緊密に連携し、地域における抑止力をさらに高めるため同盟の役割や任務、能力を近代化していく」と言明した。

日本は敵国のミサイル発射拠点などを攻撃する能力の取得を検討している。オースティン氏は「日本政府に委ねる」としたが、米国では日本の自衛力が上がるほど米国が限られた戦力をアジアの別の地域での中国への対処に回せるとの利点を指摘する声が多い。

オースティン氏は中国が先行する極超音速兵器の開発・配備に強い意欲を示した。23会計年度(22年10月から23年9月)に関連予算を大幅に増やすと断言した。「手ごろな価格でのフル生産に向けて産業基盤の能力を高めていくための投資を実行する」とした。

国防総省は中国が20年に極超音速兵器を搭載できる中距離ミサイル「DF17」を実戦配備したと分析している。

この記事の英文をNikkei Asiaで読む
Nikkei Asia https://asia.nikkei.com/Editor-s-Picks/Interview/U.S.-willing-to-expand-military-aid-to-Taiwan-defense-secretary?n_cid=DSBNNAR 

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川島真
東京大学大学院総合文化研究科 教授
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分析・考察

台湾国防部は、中国が2025年前後に台湾を武力統一する軍事力を持つようになるが、直ちに軍事力を使うのではなく、その軍事力を演習などで見せつけつつ、「ハイブリッド戦」「グレーゾーン侵攻」などによって、台湾社会、台湾企業に浸透して、中国統一を望む勢力を育成しようするだろうと予測。

だかこそ、台湾の軍事力それ自体を強化しながら、台湾の民主主義や価値観などを対象とする中国の浸透工作から防衛する「統合抑止力」が重要になるということだろう。

そうした、単純な軍事力以外の分野を想定すると、日本もの関与がとても重要になってくる、のだと思われる。

2022年6月2日 4:43 (2022年6月2日 9:43更新)

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森幹晴
弁護士・東京国際法律事務所 代表パートナー
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別の視点

世界中で軍備拡大が進むが、どこかで歯止めをかける取り組みが必要だろう。

イラク戦争、アフガン戦争が終結し、ロシアによるウクライナ侵攻、中国・北朝鮮の抑止に軍事的なテーマが移った。

欧米、日本は軍事予算を増額し、アメリカの軍需産業のビジネス機会の拡大が進む。

ウクライナ侵攻以降、アメリカの主要な軍需企業の株価は軒並み上がった。

冷戦時代、アイゼンハウアー大統領が軍産複合体とその政治的、軍事的な影響力への懸念を指摘した。

台湾有事への備えや、中国・北朝鮮の抑止策としての軍備強化は必要であろう。

しかし、恐怖と欲望に動かされて軍事衝突を起こしてしまわぬよう、世界的な軍備縮小のきっかけを探る取り組みを期待したい。

2022年6月2日 7:56 (2022年6月2日 8:04更新)

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前嶋和弘
上智大学総合グローバル学部 教授
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ひとこと解説

「あいまい戦略」を堅持した範囲内での台湾への武器支援。

先日のバイデン発言は、中国に対する言葉による抑止であり、その肉付けが進んでいきます。

2022年6月1日 22:53 』