広がる「通商武装論」 ルール通じぬ世界、日本は動かず

広がる「通商武装論」 ルール通じぬ世界、日本は動かず
編集委員 太田泰彦
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD070YA0X00C22A5000000/

※ 米国の外交と言うと、「こん棒外交」が有名だ…。

※ そして、ご覧の通り、その「こん棒」は何本も持っている…。

※ 決して、「軍事力」一本じゃ無いんだ…。

※ 「国際緊急経済権限法」は、かの有名な「米国財務省証券(米国国債)」を「チャラ」にできる法律だ…。

※「敵対国(と、米国が認定する国)」に対しては、そういう「何本ものこん棒」を振るってくる…。

※ クワバラ、クワバラ…。よほど上手に、立ち回らないとな…。

『ロシアに対する経済制裁には、日米欧を中心に世界から約30カ国が加わった。輸出の制限、ドル決済の停止、金融資産の凍結、ロシア産原油の禁輸など、その内容は多岐にわたる。

だが、そもそも経済制裁とは各国が独自の判断で実行する一方的な措置だ。多国間の取り決めや国際ルールがあるわけではない。今が戦争という有事であるからこそ正当化されるが、平時であれば自由貿易の柱である世界貿易機関(WTO)協定に背く行為と非難されてもおかしくない。
トランプ氏の奇策、バイデン氏もしたたかに

悪名高き米国の通商法301条が典型だろう。この法律を使えば、米政府は自分の基準で不公正だと見なした国に対し、報復関税を課すことができる。制裁という武器を振りかざすことで要求をのませる、身勝手ともいえる仕組みだった。

1980~90年代に歴代の米政権が乱発したために国際的に批判が高まり、95年のWTO発足以降は、トランプ政権が登場するまで発動されることはなかった。

中国と貿易戦争を始めたトランプ氏は301条を復活させただけでなく、通商法232条というもう一つの武器があると気づいた。米ソ冷戦時代の1962年に、国家安全保障を目的に当時のケネディ大統領が作った錆(さ)びた刀のような法律である。

トランプ氏は刀を振り回し、鉄鋼やアルミの対米輸出が「国家安全保障上の脅威」だと理由をこじつけて、世界のほぼ全ての国に制裁を科した。意表を突いた荒業に各国は驚いたが、これを一時の狂気と片づけることはできない。バイデン政権もひそかに232条を利用し続けているからだ。

バイデン政権は2021年10月に欧州連合(EU)、今年2月には日本に対する制裁関税を撤廃した。ただし対象は鉄鋼だけで、アルミの関税は据え置いた。米政府が制裁解除の見返りに水面下で要求しているのが、中国を封じ込めるために気候変動問題で米国と手を組む約束だ。

自由貿易の理念を尊重したからではない。別の目的のために通商政策を武器として使っているにすぎない。トランプ氏の置き土産をちゃっかり有効活用しているわけだ。
米「301条」追う欧州、背景に中国

160以上の国・地域で決めたWTOの共通ルールに身を任すのではなく、目的達成のために自分だけの武器を持たなければならない――。そんな米国の独善主義をEUが追いかけている。欧州委員会は昨年12月、「反経済威圧行動措置(Anti-Economic Coercion Instrument)法案」を公表した。

日本語訳が難しいが、「Coercion(コア-ジョン)」とは「脅迫」「無理強い」という意味だ。法案が成立すれば、EU加盟国が外国から経済的に不当な圧力を受けた場合、直ちに関税率引き上げ、対内投資の中止、政府調達の停止、検疫強化、環境規制などの対抗手段を打ち出せるようになる。いわばEU版301条である。
台湾の蔡英文総統はリトアニア、ラトビア、エストニアのバルト3国の議員団と会談した(2021年11月)=ロイター

法案が急浮上した背景に、EU加盟国のリトアニアに対する中国の威圧行動がある。リトアニア政府が今年1月20日、首都ビリニュスにある台湾代表部の看板の表記を「台北」ではなく「台湾」とすることを承認。中国は「台湾を国家として認めたも同然」として烈火のごとく怒り、小国リトアニアからの輸入通関を一切停止した。

EUはこうした威圧から加盟国を守る手段が必要だった。法案は現時点で欧州議会が審議中で、第1次修正案が既に出ている。
骨抜きになるWTO裁定
世界貿易機関(WTO)の存在意義が問われている(スイス・ジュネーブのWTO本部)=ロイター

「WTOは機能不全に陥っている」「国際法で防げない脅威が増えている」「脅迫行為を阻止する抑止力が要る」……。欧州議会が映像を公開した3月14日の貿易委員会の議論は熱を帯びていた。通商政策でのEUの武装は時間の問題だろう。

もとより一方的な制裁は中国のお家芸だ。これまでにも検疫や通関の遅滞などを口実に、政治的に対立する外国からの輸入を意図的に阻んだ例は枚挙にいとまがない。

ウイグル人権問題、香港民主化問題を理由に米国、英国などから制裁を受けたことに対抗し、さらに昨年6月には「反外国制裁法」を制定して法的な根拠も整えた。中国版301条である。

WTOの最終的な裁定を待たずに一方的に制裁を打つ法律は、ブラジルでも1月26日に成立している。ルールが通用しない中国やロシアの振る舞いを見て、単独で行動を起こす通商政策が世界に広がっているように見える。

日本はどうだろう。自由貿易の理想や国際ルールの尊重を主張し続けるのは当然だが、かといって通商政策の潮目が変わった世界の現実から目を背けることはできない。

「対ロ制裁のように米国に追随するだけでいいのか」「丸腰では中国から国益を守れない」「自分の武器がなければ米欧とも対等な立場で連携できない」――。通商武装論が日本政府内でも語られ始めている。

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