中国・ソロモン安保協定「憂慮すべき前例」 米国防長官

中国・ソロモン安保協定「憂慮すべき前例」 米国防長官
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN015N80R00C22A6000000/

『【ワシントン=中村亮】オースティン米国防長官は中国とソロモン諸島の安全保障協定について「太平洋諸国地域にとって憂慮すべき前例だ」と表明した。中国が実効支配を進める南シナ海に続く海洋進出への強い懸念を映す。米国と英国、オーストラリアの安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」とアジア諸国の防衛協力に意欲を示した。

【関連記事】米国防長官、台湾へ武器提供拡大 「統合抑止力を重視」

オースティン氏は日本経済新聞の書面での取材で、中国とソロモン諸島が4月に締結した安保協定をめぐり「ソロモン諸島の情勢不安を増幅する可能性がある」と言及。中国軍がソロモン諸島に駐留するシナリオに懸念を示した。「米国は太平洋諸国と永続的なつながりをさらに強める」と強調し、中国に対抗する意向を鮮明にした。

バイデン米政権は中国がソロモン諸島を皮切りに他の太平洋諸国と類似の安保協定を結ぶと警戒する。安保協定の正式な内容は明らかになっていない。米国は中国が軍駐留の意図はないと主張しつつ時間をかけて関係を深め、最終的に軍事拠点を設けるとの疑念を持つ。

疑念が根深い要因は2010年代の南シナ海をめぐる中国の行動にある。中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は15年、当時のオバマ米大統領との首脳会談後の共同記者会見で南シナ海の軍事拠点化を目指さないと明言した。しかしその後も中国は人工島などに対艦ミサイルや電子妨害システムを配備した。

オースティン氏は南シナ海の現状について「中国の全面的で違法な海洋権益の主張は自由航行権に対する深刻な脅威だ」と改めて批判した。「隣国を威圧したり、南シナ海で違法な権益を主張したりする中国の取り組みに反対し、ルールに基づく国際秩序を支持し、自由で開かれたインド太平洋を強固にしていく」と強調した。

米戦略国際問題研究所(CSIS)によると、南シナ海を通る国際貿易は16年に3兆3700億ドル(約430兆円)にのぼる。中国が南シナ海の通航を妨害すれば世界経済を揺るがす。ソロモン諸島も豪州と北東アジアを結ぶシーレーン(海上交通路)に位置し、中国の影響力拡大に日米豪やニュージーランドが警戒を強めている。

オースティン氏は中国による海洋進出への対処として、同盟国やパートナー国との協力強化を訴えた。

その一つがフィリピンとの協力だ。「両国は幅広い課題に直面しており、強力で強靱(きょうじん)な米・フィリピン同盟がインド太平洋の安全保障や安定、繁栄にとって引き続き不可欠だ」と言及した。マルコス次期大統領に触れて「同盟の優先事項を推進するためフィリピンの新政権との緊密な協力を継続する」と秋波を送った。

マルコス氏はドゥテルテ大統領に続き、米国だけでなく中国との関係も重視する方針だ。バイデン米大統領はマルコス氏の当選後すぐに電話協議し、協力強化を唱えた。米軍はフィリピンの軍事拠点へのアクセスを増やしたり、軍事演習を通じた相互運用性を高めたりしたい考えで、その成否は南シナ海における中国抑止の行方も左右する。

もう一つの協力の柱がオーカスだ。米英豪は原子力潜水艦をめぐる協力だけでなく、4月上旬に8つの防衛分野での協力を表明した。情報収集や対潜水艦作戦に寄与する無人潜水機の開発を推進。人工知能(AI)での協力も決めた。米軍はインド太平洋でAIを駆使して作戦実行の時間を大幅に短縮する計画を進めており、英豪との協力を生かすとみられる。

オースティン氏はオーカスを防衛協力に関する「先駆者」と表現した。「将来的に別の同盟国やパートナーとの防衛協力に向けた障害を減らすことに役立つ」と語った。オーカスを防衛協力のモデルと位置づけて、各国との協力につながる効果が期待できるとみている。

オースティン氏は「国防総省は誤解を避けるために中国との開かれた対話チャンネルの維持を約束している」と話し、国防トップの対話ルートの確保を急ぐ考えも示した。オースティン氏は対話を繰り返し呼びかけていたが、中国の魏鳳和国務委員兼国防相との初めての電話協議は4月まで先送りになっていた。』