中国の一人っ子政策「共産党支配を弱体化」

中国の一人っ子政策「共産党支配を弱体化」
人口と世界 英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授 ケント・デン氏
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB1525R0V10C22A2000000/

『――人口減は中国の軍事力や共産党支配にどんな影響を与えますか。
英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授のケント・デン氏

「毛沢東はかつて、政治権力は銃口から生まれると言った。共産党から見れば、人民解放軍は中国の国家主権を守り、国内の安定統治を維持するための存在だ。だが軍への入隊が社会階層を高める手段でなくなっているいま、入隊を希望する若者は減っている。中国を統治しているのは共産党ではなく、軍だ。軍を弱体化させる変化はどんな変化であろうと、共産党支配をも弱体化させる」

「党と軍の関係を踏まえれば、徴兵制をすぐに導入するとは思えない。共産党は軍に絶対的な忠誠を誓ってほしいからだ。徴兵制を導入すれば人手不足は解決するかもしれないが、彼らが本当に党に忠義を尽くすかどうかは疑問が残る」

――中国の人口減は統計より深刻とされています。

「公式統計上の数字は正しくない。実際の出生率は公式統計ほど多くなく、死亡率をわずかに上回る程度とみている。地方政府の人口統計も実際より大きく見せようとするインセンティブが働くため実態と乖離(かいり)している。地方の人口が多ければ中央政府のプロジェクトを獲得でき、高速鉄道が自分の町に止まる。1人の国民が異なる省で2つ以上の身分証をもっていても誰も気にしない」

――中国は少子化を食い止められますか。

「人々の考え方を変える必要がある。今の若い世代は一人っ子であることの恩恵や利点を感じている。(1979年に導入した)一人っ子政策が2世代続いた後、人々の考え方やライフスタイル、家族構造はすっかり変わってしまった。最初は一人っ子が強制だったが、40年たち、強制されなくても子供は1人だけにしようと自然に思うようになっている。2人目の子供の学費を無償にするなどして、家計への重い負担をやわらげる必要がある」

――結婚したがらない若者も増えています。

「中国には2億6000万人の成人独身者がいる。ビジネスはあらゆる努力をして彼らの生活を快適にする。独身のままでも十分幸せだと思える環境が整っている。雇用主も独身者を採用したがる。朝9時から夜9時まで週6日働く『996』という過酷な働き方では家族はもてないからだ」

「最近は『寝そべり族』が話題になった。若者は成功を追い求めない。自分一人の稼ぎで足る範囲で人生を楽しもう、なぜ結婚して子供を持たなければならないのか、と考えているようだ」

――人口減を補うため、移民受け入れも選択肢になりますか。

「中国が大量の移民を受け入れるとは考えにくい。移民が共産党統治に忠実である保証がないからだ。中国は漢民族の絶対的な優位性を維持する必要があり、これは共産党支配にとって非常に重要だ。移民受け入れはこの優位性を希薄にしてしまう」

(聞き手は今橋瑠璃華)
Kent Deng 経済史が専門で、中国の人口問題などに詳しい。豪ラ・トローブ大博士、東京大客員研究員などを経て現職。

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川島真
東京大学大学院総合文化研究科 教授
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別の視点

中国は、二人目以降の子ども関連の優遇政策も不十分で、また外国人移民受入にも消極的だ。

子どもが増えない背景には、ここで挙げられているもののほか、不動産価格の高騰、教育費の高さもある。

また、このタイミングで「二人目もOK」へと転換したために、特定の世代にその負荷がかかることになり、不動産購入や教育費の優遇措置などもない中で結婚適齢期世代から強い反発を産んだ。

他方、人口減少に伴う経済失速への懸念も共産党の正当性維持の上で重要だ。

中国としては人口増政策が結果を出せない中で、単純労働の無人化、自動化を進めるべく、5Gなどのデジタルインフラの強化を進めるが、それには莫大な投資が必要となる。

2022年6月2日 2:47

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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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ひとこと解説

政治が絶対にやってはいけない、タブーの一つは政治の必要性から人口動態を変えること。

中央集権の計画経済は経済を計画的にコントロールするだけでなく、人口も計画的にコントロールしようと、実に愚かだった。

出産は基本的に人権。

毛は経済発展を実現するため、出産奨励を呼び掛け、当時の合計出生率は4を超えていた。今からは想像できないほどの高水準。

のちに食糧不足になり就職難もあって、一人っ子政策が決定され、下部組織の幹部は政治指導者への忠誠を誓って出産制限を徹底した。

合計出生率は1に近づいていった。今度は少子高齢化の弊害が認識され、生産年齢人口も減少しているため、出産制限が緩和されたが、万事休す

2022年6月2日 7:09 』