ロシア原油生産、2割減の試算 欧米勢撤退で30年までに

ロシア原油生産、2割減の試算 欧米勢撤退で30年までに
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『ロシアのウクライナ侵攻を受け、欧米の石油関連企業が相次ぎ対ロ事業の停止や縮小に動いている。北極圏での液化天然ガス(LNG)開発が滞るなど、すでに影響がにじみ始めた。欧州の民間調査によると、欧米企業の離脱が続けば2030年までにロシアの原油生産は2割減る。欧米諸国は原油の禁輸などで圧力を強めており、プーチン政権の資金源を絶つ狙いだ。

9兆円規模の減産幅

欧州連合(EU)は5月30~31日の臨時首脳会議でロシア産石油の大半を輸入禁止する追加制裁案に合意した。22年末までに輸入の9割を止める。EUはすでにロシア国営企業との取引、エネルギー分野への設備や技術の供給を禁じる制裁を発動。米政府も石油開発機器のロシアへの輸出を規制している。こうした制裁は民間企業の活動を制限し、資源開発の現場に影響が出ている。

「EUの制裁を受け、我々はロシアの一部顧客との取引を制限している」。資源開発サービス大手の米ベーカー・ヒューズは日本経済新聞の取材に対し、すでにロシアでの事業を大幅に縮小していることを明らかにした。

ベーカーは油田やガス田の開発向けに掘削機器や運用サービスを提供する。米ハリバートン、米シュルンベルジェとともに同分野の世界3強だ。3社とも原油や天然ガスの開発に欠かせない技術を持ち、世界中で事業を展開している。ハリバートンとシュルンベルジェも対ロ事業の縮小を決めた。

3社が担うのは掘削機器の提供や運用だけではない。遠隔操作で無駄なく掘り進めたり、データを分析して効率よく原油を探索したりする技術を持つ。これらは世界中の現場で長年かけて培ったもので、簡単に代替できない。ロスネフチをはじめロシアの石油企業は機器や運用の多くを3社に頼り、自前の技術は大きく劣るとされる。

ロシアの原油生産量は米国、サウジアラビアに次ぎ世界3位だ。1990年代、旧ソ連崩壊後の経済混乱で一時的に資源開発は大きく停滞した。その後、再びエネルギー大国に返り咲いたのは、米企業が地中を水平に掘り進む掘削法やフラッキング(水圧破砕法)などの先進技術を持ち込んだことが大きかった。

ノルウェーのエネルギー調査会社、ライスタッド・エナジーは5月に公開したリポートで「(石油への)投資や海外の技術が不足することで掘削活動は低下する」と指摘した。欧米諸国の禁輸措置による市場消失も加わり、30年のロシアの原油生産量は日量750万バレルと21年実績から約23%減ると試算。ウクライナ侵攻前の予測では、30年の生産量を同910万バレルとしていた。

減産幅はアフリカ最大の産油国であるナイジェリアの原油生産量を上回る日量160万バレルとなり、現在の欧州の原油相場で単純計算すると年間680億ドル(約8兆8000億円)規模となる。これはロシアの国内総生産(GDP)の約4%にあたる。

ガス開発にも影響

経済制裁や民間企業の撤退の影響は原油だけにとどまらない。米国に次ぎ世界2位の生産量を持つ天然ガスにも及び始めた。

ロシア北極圏のLNG開発事業「アークティックLNG2」。液化能力でそれぞれ年660万トンの系列設備を3つ、23~25年に順次稼働させようと工事が進んでいた。

プラント建設を受注する仏テクニップエナジーズのピエトン最高経営責任者(CEO)は4月、「LNG関連設備や技術、サービスを標的としたEUの制裁は直接的なものだ。計画の遂行をより複雑にする」と稼働延期を示唆。ドイツを拠点とするリンデも液化技術を使った関連装置の輸出を停止した。現状だと1系列だけの稼働になる見通しだ。

同事業にはロシアのガス大手ノバテクが60%を出資。仏トタルエナジーズが10%、三井物産と石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が計10%、中国勢が計20%を出資する。三井物産は22年3月期にLNGなどで純資産の減額を806億円、減損損失など209億円を計上。現時点で撤退する考えはないが、進捗の遅れを決算上で認めた。

北極圏で英シェルもガスプロムと計画していた天然ガスの探鉱を手掛ける合弁を解消しており、侵攻前に計画されていた開発事業の見直しは不可避の情勢だ。

対ロ資源事業では米エクソンモービルや英BPなどの欧米メジャーも相次いで撤退を決めた。エクソンは極東ロシアの原油開発事業「サハリン1」から従業員の引き揚げも始めた。日量20万バレル程度の原油生産量は今後、じり貧に陥る可能性が高い。

G7以外の包囲網急務

新興国の資源開発にとって、有力な技術を持つ欧米企業の離脱の影響は大きい。

1979年のイラン革命後、イランでは欧米企業の撤退で原油生産量が大幅に落ち込み、いまも革命前の水準には戻っていない。1999年に反米左派政権が誕生したベネズエラも同様だ。政府が海外資本の油田権益を強制接収したことで欧米企業が撤退。その後の経済混乱もあり、今の生産量は左派政権誕生前のピーク時の2割程度だ。

バイデン米政権は「我々と同盟国やパートナーは時間をかけてロシアのエネルギー供給国としての地位を低下させることに強い関心を抱いている」と強調する。

制裁の効果はまだ薄い。国際エネルギー機関(IEA)によると、4月のロシアの石油輸出量は日量810万バレルと侵攻前の水準まで戻った。欧州連合や米英向けが減った一方、インドやトルコ向けが大きく増え、中国は減らなかった。ロシアはこれらの国に対し安価に原油を輸出することで穴埋めとしており、制裁の抜け道となっている。

ロシアでは連邦政府歳入のうち4割程度を石油と天然ガス関連が占める。ロシアへの外貨流入を減らすにはまず、主要7カ国(G7)以外の包囲網の穴をきちんと防ぐ。石炭、原油に続き、ガスの輸入禁止もできるだけ早いうちに手を打つ。そのうえで民間企業の活動制限を経済制裁とセットにして資源開発の「元栓」を閉める。川下から川上まで一気通貫した複合戦略が欠かせない。

(外山尚之)』