ロシア・中国に「衰退する大国のわな」

ロシア・中国に「衰退する大国のわな」
人口と世界 米ジョンズ・ホプキンス大教授 ハル・ブランズ氏
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB153NF0V10C22A4000000/

『世界の安全保障体制を揺るがすロシアや中国が人口減少の危機に直面している。国力衰退に悩む覇権国家が、打開を図って暴発する安保リスクについて専門家に聞いた。

――「衰退する大国」の危険性とは何ですか。

米ジョンズ・ホプキンス大教授のハル・ブランズ氏

「挑戦者が最も攻撃的になるのは、自信満々で着実に台頭しているときではない。

目標を将来達成できなくなると恐れたとき、無謀なリスクをいとわなくなる。これを『衰退する大国のわな』と呼んでいる」

――歴史上はどのような事例がありますか。

「第1次世界大戦前のドイツ帝国だ。1914年までに成長はピークに達した。軍事面で英国に劣勢でロシアとフランスも軍備を拡張した。すぐ劇的な行動を起こさなければという恐れに駆られたに違いない。第1次大戦の緒戦こそ有利に進めたが最終的に大敗した。

太平洋戦争前の日本も同様の力学が働いた」

――現在の中国も「衰退する大国」ですか。

「私はそうみる。中国経済は新型コロナウイルス感染拡大の前からピークをすぎていた。習近平(シー・ジンピン)国家主席が10~15年後にライバル国に包囲されると想定すれば、軍事バランスが有利なうちに動く選択肢が浮上する」

――中国は近く人口が減り始める見通しです。

「中国の人口は歴史上前例がないペースで減っていく。中国の国内総生産(GDP)が近く米国を追い越すとの懸念は誇張されているように思う。足元の成長の大部分は過大な資本投下の結果にすぎない」

「今後10年は中国の軍事拡張が続くだろう。米国や同盟国の軍事拡充が実を結ぶのは2020年代後半から30年代初めだ。それまでの時期が危ない。他国に完全に包囲される前に軍事的に挑戦しようとする誘引が働くからだ。台湾がその対象となりうる」

――第1次大戦前の英独関係からどんな教訓を読み取るべきですか。

「曖昧な約束は危険ということだ。第1次大戦前に英国はフランスやロシアと結んだ同盟がどういう義務を負うかを意図的に曖昧にしていた。結果、英国の介入はドイツ進軍を食い止めるのに遅すぎた。米国が台湾を守るためにいずれ中国と戦うと考えるなら、防衛の約束を曖昧なまま放置する利点は少ない」

――ウクライナ侵攻をどう見ますか。

「ロシアにも『衰退する大国のわな』の力学が働いたとみていい。ロシア経済は08年ごろから停滞し始めた。(侵攻前から)プーチン大統領が国際秩序に対するリスクを増大させる要因になっていたと考える」

――世界人口は21世紀半ばにもピークを迎えるとの予測があります。

「米国は今後50年間、人口維持に苦労するかもしれない。日欧は人口減の圧力にさらされている。米国は人口増が続く東南アジアなどとの関係強化が戦略的に重要になっていくだろう」

(聞き手は竹内弘文)

Hal Brands 歴史家。米シンクタンクのアメリカン・エンタープライズ研究所研究員。米国防長官特別補佐官などを経て現職。

【人口と世界「衰退が招く危機」記事一覧】

・プーチン氏と「ロシアの十字架」 出生数減、野心の原点
・縮む中国「子ども不要」25% 脱少子化、強権も及ばず

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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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ひとこと解説

なぜ国家は衰退するのか。

ジェイムズ・ロビンソンとダロン・アシモグルによれば、インクルーシブではない国、すなわち、寛容性のない国はいずれ衰退するといわれる。簡単な理屈だが、鎖国政策を取る国は、昔も今も発展しない。

ただ、小国が衰退した結末は、他国に併合されてしまう。

それに対して、大国が衰退した場合、分裂し、その国家だけでなく、地域の不安定化をもたらす可能性がある。

中ロを考察すれば、ロシアはプーチン時代末期に差し掛かっており、その終わり方が心配されている。

中国はまだパワーを持っているが、政策のミスが続いているため、混乱している。でも、それが修正される兆しはまだみえてこない

2022年6月1日 7:27』