[FT]エルドアン氏のクルド組織敵視、NATO内の火種に

[FT]エルドアン氏のクルド組織敵視、NATO内の火種に
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『クルド系武装勢力はかねて西側諸国がシリアから過激派組織「イスラム国」(IS)を一掃する作戦の要となってきた。だがトルコがこうした勢力を敵視しているため、シリアの平穏ばかりか北大西洋条約機構(NATO)の拡大計画までもが危機にさらされている。

23日、イズミルでの式典で演説するエルドアン大統領(大統領府提供)=ロイター

トルコのエルドアン大統領は、自国の安全保障上の脅威とみなすクルド系武装勢力とのつながりを理由に、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟に難色を示している。

クルド人はトルコ、シリア、イラン、イラクにまたがる地域に住むが、自分の国を持っていない。エルドアン氏はクルド人武装組織「クルド人民防衛隊(YPG)」を掃討するため、シリアを再攻撃する方針をちらつかせている。トルコ政府はYPGを1984年に反政府武装闘争を始めたクルド労働者党(PKK)と同じテロ組織だとみなしている。

IS掃討に不可欠

もっとも、YPGはシリア北東部のIS掃討作戦で不可欠な役割を担っているため、米国など西側諸国や、一部専門家によるとエルドアン氏自身でさえ、YPGのシリアでの軍事行動を全面的に抑えようとはしていない。シリア北東部では2019年以降、原則として停戦が保たれている。

米シンクタンク、センチュリー財団のサム・ヘラー特別研究員は、シリアのクルド系武装勢力を見捨てれば「停戦合意が崩れ、21年のアフガニスタンのように暴力が横行する無法地帯に陥る。米国が現時点でこうした選択をするとは思えない」との見方を示す。

トルコ政府はかねてPKKとの緊密なつながりを理由に、西側諸国のYPG支援に反対してきた。西側とYPGが14年に連携して以降、この問題を巡ってトルコと他のNATO加盟国との関係はぎくしゃくしている。

米国はクルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)を創設し、YPGがトルコに受け入れてもらいやすくなるよう努めた。スウェーデンと米国を含む西側諸国はSDFを支援した。米軍主導の有志連合の空爆も奏功し、SDFは19年にISを壊滅させた。

米国はIS掃討作戦を遂行するため、引き続きSDFを頼りにした。ヘラー氏によると、IS壊滅後の地域を安定化させ、再興を防ぐのが狙いだった。

米国は24日、シリアへの再攻撃を思いとどまるようエルドアン氏にくぎを刺した。一方、SDFは「トルコが威嚇行為に出れば地域が不安定になり、ISの残党が再び勢いづく」と非難した。

エルドアン氏は攻撃再開の時期を明らかにしていない。29日には記者団に「ある夜に急襲する。トルコに対するどんなささいな攻撃も見過ごさない」と発言したとされる。

ISには「カリフ国家」を再建するだけの力はないと専門家は口をそろえる。だが、シリア北部の熱気や複雑な地形を武器に、潜伏しているテロリストがなお散発的に攻撃を仕掛けている。

シリア東北部の町(2017年1月)=ロイター

米主導の有志連合による推計では、シリアとイラクではなお8000~1万6000人のテロリストが活動している。ISとされる戦闘員約1万人と関連組織の戦闘員数千人が、SDFが運営する刑務所や収容所に入っている。クルド人の幹部らは何年もの間、こうした収容施設は防御態勢が不十分で、攻撃の対象になりやすいと指摘してきた。だが、各国政府はSDFの訴えにもかかわらず、こうした施設に収容されている自国民を帰国させ、裁判や更生を受けさせるのを尻込みしている。ISは1月、シリア北東部ハサカで刑務所を襲撃した。これはISがシリアで仕掛けた数年ぶりの本格的な攻撃で、有志連合との戦闘は10日間に及んだ。

米政府は4月、シリアの経済活動を支援するため、SDFが支配する地域への海外投資を一部解禁した。米政府高官はこの動きについてトルコ政府と事前に協議したと語った。これがどれほど緊張を高めたかは定かではないが、ヘラー氏は「トルコ側がこの動きに不満を抱いているのは明らかだ。米国などに不満の意を示している」という。

トルコ軍は16年以降、シリア北部で数回にわたってSDFに対する軍事作戦を仕掛けている。双方は停戦にもかかわらず報復攻撃を続け、犠牲者を出している。シンクタンク国際危機グループ(ICG)のシリア担当上級アナリスト、ダリーン・ハリファ氏は、エルドアン氏が再攻撃をちらつかせたのは「はったりをかけたか、他の問題の交渉で優位に立とうとしているのだろう。もっとも、軍事侵攻の可能性は排除できない」と指摘する。トルコが再攻撃に踏み切れば、シリア北部は混乱に陥るとの見方も示した。

専門家はエルドアン氏がトルコ軍を米国と直接衝突させる可能性は低いが、代わりにSDFに打撃を与え、米国とSDFの関係に亀裂を入れようとすると指摘する。米軍が「NATOの同盟国(であるトルコ)に軍事介入する可能性は低い」(ヘラー氏)。とはいえ、トルコがスウェーデンとフィンランドのNATO加盟を認める見返りに、米国がトルコのシリア攻撃にゴーサインを出す可能性も極めて低いとハリファ氏は話す。

エルドアン氏の狙いはなお定かではない。

米国に戦闘機売却を要求?

同氏が米国製戦闘機「F16」の売却を認めるよう米国に圧力をかけているとの見方や、23年に選挙を控えて支持率上昇を狙う国内向けの政治的策略だとの見方がある。

米ワシントンに拠点を置くシンクタンク、中東研究所のトルコ部門責任者ゴヌル・トゥル氏は、エルドアン氏にとって「外交政策は国内の権力基盤を固めるための駆け引きにすぎない」と指摘する。トルコの国境付近からSDFを追い出し、シリア難民を帰還させる「安全地帯」を設けようとしている可能性もある。

トルコは25日、アンカラでスウェーデンとフィンランドの交渉団と協議した後、両国のNATO加盟の是非をじっくり検討する方針を示した。トルコはまずは、YPGを「テロ組織」と認めるなどトルコ側の要求に対する北欧2カ国の「具体的な措置」を期待している。

この問題がたとえ解決しても、西側諸国によるYPG支援問題はNATO加盟国間の火種としてくすぶり続けるだろう。ハリファ氏は「これは引き続き対処が必要となる弱点だ」と述べ、エルドアン氏がこの弱点を今後も突くとの見方を示した。

By Raya Jalabi

(2022年5月28日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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